第357話 魔獣の天敵

就寝前に武器の事が気になってしまって目が冴えてしまった俺、クルトンです。


金属素材は鎧の修理用として鉄を少々持って来てはいるが、武器にしつらえるには少なすぎる。


今騎士さん達が各々持って来ている予備武器を鋳つぶして使うのも却下だ。



少ない鉄で釘でも作って『釘バット』にでもしようかな。

いや、ダメだ。

魔獣に対し圧倒的な力でねじ伏せる一方的な虐殺シーンが演出されてしまって全然かっこ良く無い。

騎士さん達の吟味に対し参考になるどころか、問題にしかならない戦い方になりそうだ。


となると、

さてさて、どうしよう・・・・。



「素材ならそこにあるじゃない」


翌朝、もう諦めて生木から木刀を削り出している時にパメラ嬢が俺の話を聞いてそう言ってくる。


ん?


「ほら、討伐した魔獣。

氷漬けにしているその魔獣の骨からミスリル取れるんじゃなかったの、違った?」



そうだった!!

いやいや、そうですよ、有るじゃん素材。

しかも魔銀(ミスリル)。


昨日まで討伐した21頭の骨から精製すれば素材は確保できるじゃん!


パメラ嬢、ナイッスゥ~~~。


とは言え今回のこの魔獣達、戦利品である諸々の素材はカンダル侯爵領、国の機関である駐屯騎士団の共有財産だったはず。


早速領主様とデデリさんに使って良いか聞いてみる。


「使うのは構わないけど使い終わったら一度預からせてくれないか?

そのまま君の財産にするのはちょっと問題があるから。

もし、その武器に思い入れがある様なら褒美の一つとして下賜して戴ける様に陛下に上申しよう」


「そうだな、今は緊急事態だから問題無いが終われば損耗状況や消費した兵站の確認、戦利品であれば一度目録を作らねばならん。

それに魔銀も載せない訳にはいかんからな」


戦略物資ですしね、厳しく管理されるのは当然です。

俺もそれで問題有りませんよ。



じゃあ、早速取り掛かりますので少し時間ください。


デデリさん、申し訳ありませんが今日の初回討伐戦のフォローはお願いできますか。

魔獣を出したら俺は武器の製作に取り掛かるので。



「承知した」






魔獣を1頭、地上に叩き出して討伐戦の段取りを整えた後、早速俺は魔銀の精製に取り掛かる。


枝肉状にしてあったネズミ型魔獣3頭から肉を取り除き、骨だけにした状態で今俺の目の前のテーブルに積み重ねている。


牙、骨盤、頭蓋骨は特に良質な魔銀が精製できるそうで、もったいないので一旦別に分けて今回は使用しない。



なので今回は背骨、大腿骨を俺のスキルで精製、インゴット状にしてしまう。


やっとこで摘まんだ素材を魔法で拵えた石の作業台に一つ置き、鍛冶クラフト用金槌を打ち付け精製を開始。



「ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!」

本来なら直火に当てず、超高温オーブンで焼いた後に鍛造して不純物を取り除くそうだが、地味に時間が押している。

今まさに戦っている騎士さん達のフォローに俺が入れない状態だと、昨日に比べ内在する危険が上がったままの状態で時間が経って行くから。


幾らハウジングで管理されているとはいえ、鍛冶のクラフトに集中している状態での並列思考は今の俺には無理だ。


そしてデデリさんが付いているとはいえ何かのきっかけで大事に至らない保証はない。


俺はスキルを全力でぶん回し金槌を高速で打ち付け精錬を超スピードで進める。



「ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!」

「ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!」

「ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!ぬん!ふう・・・」

打っては次の素材、打っては次の素材と精錬を熟し、次にインゴット状にまとめる。



ようやく準備ができるとこれから武器の形にしていく。

さて何にしようか・・・。


・・・。

・・・。

・・・。


やべえ、そこまで具体的に考えていなかった。

どうしよう。


どんなのが良いかと頭をひねっていると一番最初に思い浮かんだ武器は棍棒。


槌、棍棒は・・・両手持ちの物だったら鍬の感覚で振るえるから俺にとって一番扱いやすい武器だ、しっくりくる。


でも今回はこれじゃない、コンセプトは見栄えのするカッコいい武器。

エレガントであればなお良いが、流石にそこまでは望まない。


レイピア、エストック・・・エレガントではあるが無理、扱った事無い。しかも確実に武器を破壊してしまう。

斧、両刃のバトルアックス・・・俺的にはカッコいいと思う、重さも先端に集中するから威力も出るし大槌の感覚で振るっても問題無い武器だろう、取扱いにも違和感を感じなさそう。

だが、それゆえ棍棒と被るんだよなぁ。


ポールウェポン・・・槍、大鎌とかハルバード。一見有りだがそこまでするのであれば・・・・モン〇ターハ〇ターの太刀なんか良いんじゃね?実際は大太刀なんだが。


うん、刃長7尺程度、俺のガタイで鞘に問題無く納刀できる程度の物にしよう。

今回鞘は作らないけど。


決まった途端脳裏に完成形のその姿と完成までの作業行程が浮かぶ。

鉄と違い魔銀の強度は程々、そして若干軽いし強度を増す為の焼き入れは意味が無い。


それを補うに余りある特性、付与魔法のアシストを見込みことは出来るが先のデデリさんからの条件で俺の素の戦闘力のみで討伐しなければならない。


今回は強度マシマシの付与のみに留めて取りあえず時間優先で完成まで済ませよう。


柄とかも急ごしらえだがまずは使用に耐えられればいい、少しくらいの重心のずれは『運用でカバー』だ。

とにかく時間がもったいない。



「もっとだ、もっと踏み込め!力が乗る前に潰すんだ!!」


「「「「「ハイ!」」」」」



デデリが部下をを叱咤し、討伐に向けての道筋を立てようと苦慮している最中、


”バゴン!バゴン!バゴン!”


地面が爆ぜる音と共に次々魔獣が飛び出してくる。

5、6頭では収まらない。



「な!5頭!いや、ちょっと待て7頭、8頭・・・と言う事は」

魔獣を前にあり得ない事ではあったが力を抜いてゆっくり後ろを振り返るデデリ。


戦闘中だった5名の騎士たちも動きを止め、デデリと同じ方向を向いている。




「待たせたな」


大太刀を左肩に担いだクルトンがゆっくり歩いて皆の脇を抜け、前に立ちはだかると左腕を伸ばしその手に持った大太刀の切っ先を魔獣に向ける。




「1頭多いか?まあいい。

まとめてかかってこい」


その動きと殺意を束縛していた糸が、その言葉で切られたかの様に、

魔獣達が一斉に動き出し、1頭の巨大な魔獣となってクルトンに襲い掛かった。

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