第358話 英雄と呼ばれる鬼

あ、やっべ。

余裕ぶっこいて格好付けていたらチョットしくじったと気付いた俺、クルトンです。



大太刀・・・に限らず刀って基本線での攻撃なのよね。

斬撃って言うの?


突きも有るにはある。

あまりに強力だから剣道では高校生以上じゃないと使用禁止だった位に有効な攻撃手段ではあるんだけど、突きより斬撃の方が使用頻度は遥かに高いしそういった使い方を前提として太刀も作られている。


つまりね、ご丁寧に一丸となって俺に突進してくる魔獣に、

俺の身体能力で、

刀長7尺(凡そ210cm)大太刀で斬撃放つと、この程度の魔獣だと7、8割は片が付くんだよね、多分。



瞬殺NGの話をデデリさんから受けているから、この場になって攻撃を躊躇してしまった。



とは言っても仕方ない。

左手で持って切っ先を上げている状態から柄に右手を添え正眼の構えになると、そのまま基本通りの突きを放って魔獣と交錯する。


2、3頭程度なら体にぶつかって来るのは気にしないで弾き飛ばす。



2頭・・・残身を保っているとそれぞれの魔獣の口から後頭部に俺の大太刀が串刺しになってぶら下がっている。

まだ息は有るがその目に光は既に無い。


大太刀を振るって串刺しになった魔獣を振り払うと再度構えを取る。


俺のこの戦闘は彼ら(騎士たち)の教育に必要な教材。


本来の魔獣の脅威を再確認し、対峙した時の生き延びる為の切っ掛け、道しるべを見つける為の教育の場。



うん、大丈夫だ。

少なくとも今の俺であればこれは安全に遂行できる『作業』だ。



ならば、ちゃんと皆に分かり易い様に。

一頭一頭丁寧に・・・。



その姿は正に鬼神。


2m程の片刃の曲剣?を軽々と振るい、魔獣を全てその一撃で屠って行く。


「なんだよ、アレ」

「魔獣が左右に裂かれるなんて初めて見た」

「襲い掛かってきた魔獣の爪の先?に刃を合わせるなんて・・・」

「後ろに目が無いとあんな動きは無理だよ、無理」





知ってはいたがこれ程とはな、まるでお伽話の『鬼』の様だ。

師匠の『天眼』でもなければあんな苛烈な魔獣の攻撃を躱し続けるのは無理だろうに。


・・・いや、2、3頭は体当たりで弾き飛ばしてるな。



ほら、今も後ろから左足に噛みついてきた魔獣をカウンターで蹴り上げた。

全く目視していないのにだ。


軸足をそのままに体を回転させ、蹴り上げた左足が地に着いた時には横薙ぎされた(片刃の)大剣が魔獣の首を飛ばす。


また一頭討伐完了。


「曾爺様、本当にクルトンは剣の扱いが素人なのですか?基本の三動作しか使っていないのにこの強さは何なのです?

今まではただバケモノの様な身体能力に任せた、魔獣の様な戦士と思っていましたが今回のこれを見た後では考えを改めないといけません」


そうか、魔獣に対峙したクルトンを見るのは初めてか。

恐ろしい事だが知性が感じられるこの戦い方がクルトンの真骨頂と言って良いだろう。


巨大な力が解放され、それが完全に制御された状態、騎士の・・・戦士の理想形の一つだ。


「理想形?」


ほれ、これだけ魔獣に襲い掛かられているのにクルトンの立ち位置が最初からほぼ変わっていない、それに動いた周りの草はそよぐ程度に揺れるだけだ。

それだけ発する力の加減を制御している。


それに知っていたか?

これだけの力を持ちながら、あれだけの戦いを経験しながらクルトンは今まで人を一人も殺めていない、罪人に対してもだ。





まあ、レイニーの件は有るが、あれもクルトンで自己完結できる状態だった。


パメラ、お前はどうだった。

幼少の頃とは言え力に振り回され、取り返しがつかなくなりそうになった事が1度や2度ではなかっただろう?


「・・・」


お前に決定的に欠けている事、その解決、補う方法の一つをクルトンは既に持ち合わせ、体現している。


正しく国の盾、英雄の振る舞いじゃないか。

「・・・」




私は・・・パメラ、お前をクルトンの第一夫人にしたいと、それまでクルトンの伴侶の選定は待って頂きたいと陛下へ上申している。


「!」


しかし私が想像した以上にクルトンの成長はすさまじい、正直天井が見えない。

これ以上彼の伴侶の選定に口出しするのも限界だろう、国益を損なうまでになってきている。


「ソフィーにもいい加減にしろと言われたしな」




「私は・・・どうすれば」


「選ぶのはクルトンだ。

あそこまでの英雄となればいくら理が有ろうと此方の都合を強制はできん」

まあ、本人はそう思っていない様だが。



英雄が望むときに側に居る、その幸運を引き寄せる為に出来る事を積み重ねるしかないだろう。

強くなれ。


剣技の話では無い、心の強さ・・・少し違うな、何と言えばいいのかな自我を達観し受け入れる心持ち・・・そんなものかな


「・・・良く分かりません」

まあな、そもそも年齢不相応のクルトンのあの振る舞い、考え方が既に枯れているのだ。

取りあえず離れず側に居る様にすれば良い。




「その・・・、理由が有りません」


理由なんぞなんでもいい。

丁度この前グリーンダイヤだったか、貰ったんだろう?

私にはポポ(グリフォン)を献上してくれた。お前はグリーンダイヤを、そして実質マーシカ(スレイプニル)は永久貸与されている様なものなのだろう?

これだけでサンフォーム家はクルトンに当代では返しきれない程の借りがある。


どれも金では手に入れられない物ばかりだ。

それを理由にすればよいではないか。



クルトンが言っていたぞ、「やらない後悔よりやる後悔」とな。

上手い事言いよる。

現状維持が見込めないのなら行動せずに後悔するよりも、行動して後悔する方が傷が浅い、そう言った意味だそうだ。

私も経験上同感だ。



顔を上げデデリを見上げるパリメーラ。


「そんな理由で、今の未熟な私が英雄の側にいる事が許されるのですか?」

その顔は涙を流さず泣いている。



おいおい、ここまで言っておいてなんだが、そんなに自分を卑下する物ではない。

それにその資格を認めるのは英雄(クルトン)しかできん、そこに思い悩むのは杞憂と言うものだ。



前に進みなさい、そうしなければ後悔すらできないのだから。

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