第359話 一町歩の神

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

筆者の俊足亀吉で御座います。


今回の表題で使われている『一町歩』で御座いますが広さを現す言葉で『いちちょうぶ』、又は『いっちょうぶ』と読みます。


凡そ1haの広さでクルトンのハウジングの展開面積の限界値(目安)になります。


農業関連に従事している人以外はあまり聞かない言葉だと思いましたので、念の為の説明で御座いました。


では『第359話 一町歩の神』をお楽しみください。

改めまして今後も本作へのお付き合い宜しくお願い致します。



※※※※※※※※※※※※※




合計11頭、最初の2頭以外はしっかり1頭づつ仕留めた事に満足している俺、クルトンです。



いやぁ、刃の立て方なんてのは良く分かっていないけど一生懸命頑張ったよ。

試合形式で剣道の技を使たのは何年ぶりだろう・・・俺の時間で70年ぶり位か。


実際に討伐に要した時間は5分と掛からなかっただろう、その間大太刀を振るう度に動きの無駄が削ぎ落され、上達していってるのが実感できた。

ただ流石に時間が短すぎたか、中々イメージ通りの理想には到達できない、これを機会に練習してみようかな。



討伐された魔獣が倒れている状況を確認し太刀をザクっと地面に刺す。

そして何頭か一回で持てる分だけ、その分づつハウジングの境界外まで運び騎士さんに解体を依頼する。


そして大太刀を回収し、デデリさんへ次の班に中に入ってもらう様に指示をお願いした。




次の班が討伐開始する前にデデリさんから皆に一言告げられる。


「あー、これで分かったと思うが本来英雄クラスでないと単騎での魔獣への対処はかなり難しい。

それを我々は数と修練で補っている。

つまり騎士として認められているお前たちであってもそれに綻びが生じれば容赦なく殺やられるという事だ。

その事を肝に銘じて緊張感をもって討伐訓練に挑む様に」


「では次の班、準備は良いか?じゃあ、クルトン頼む」

次の魔獣を出す様促され1頭出現させる。



今回の班にはラールバウさんも居た事も大きいが、これまでの班と比べ皆がかなりの力の入れようで10分程度で討伐が終了する。


うん、危なげない、さすが。


一番弱いと思われる騎士さんを囮にして敵の導線を限定させる事で標的こ行動を縛り、狙い易くした様だ。

囮の両脇に控える騎士さん達4人は、誘き寄せられるように真っすぐ突っ込んでくる魔獣の導線上に武器を差し出すだけで確実にダメージを与える事に成功し、1頭限定の戦法としてはかなり有効に見えた。


「魔獣は驚異的な身体能力を自覚しているせいか人間に対して舐めた様な行動をとるからな。

格下と判断した人間には警戒心を抱く事無く突っ込んでくる、そこを狙い攻撃を叩きこむ基本の戦法の一つだ」

デデリさんが俺の脇で解説してくれる。


やっぱり色々ノウハウが有るんですね。

そりゃそうだ、魔獣討伐は人類存続に直接関係するもんな。





今回は思いのほかうまく討伐が進んだことも有って、デデリさんは一旦討伐の中断を宣言し次を始める前にこの討伐を模範事例として更に上の課題である『多頭数の場合』の討伐方法を皆で検討する様に課題を出す。


その検討の指示を出した後、

「ちょっと相談したい事が有る。クルトンもこっちに来てくれ」

俺を含めベテラン勢がデデリさんに集められる。

領主様も一緒だ。



「魔獣の残り頭数も丁度20頭となった。

そこで俺からの提案だが後5頭このままで対応、残り15頭は若手30名、中堅50名、ベテラン20名の混合10班編成、大規模討伐戦訓練を実施したい。

危険なのは分かる、しかし今以上の安全を確保してこれだけの討伐訓練を行う事は今後有るとも思えん。

俺とクルトンは完全に皆のサポートに回って安全を確保するのでこの訓練に同意してくれないか」


少し場がざわつく。

ぱっと見間抜けな感じに見えるネズミ型魔獣もれっきとした人類の脅威。

今までの訓練でも実感している様に単騎で討伐できる人間はここに2名しかいない。


そう考えるとこの間抜けな外観も、前世のピエロの様な不気味さを感じてしまうから不思議なものだ。


「私は同意します、ただ安全の確保するにあたりどういった処置をとるのか説明頂きたい」

「そうですな、そこを聞いておくのとそうでないのでは我々の心構えも変わって来る。

場合によっては儂ら老いぼれが魔獣の贄になる必要があるからな」



うわぁ・・・、死線を潜り抜けてきた猛者は覚悟の度合いが違うな、俺には真似できない境地。

でも、そんな事にはならないよ。


「クルトン、説明してもらえるか?」

またデデリさんから説明をぶん投げられた。


はいはい、承知しましたでございますよ。




俺が一歩前に出て皆に説明を始める、ハウジングの機能の一部を明かす必要が有るので口止めも含めて。


「皆に一番最初に説明したこの杭の中の結界の件ですが、俺の技能『ハウジング』で作り出したものです。

実際は結界で覆うだけの技能ではなく、結界の構築に合わせその内部の物質が俺の支配下に置かれる能力です。

これは人も魔獣も例外ではありません」


「なんと!!」


「なあ、どういうことだ?」

「結界内では誰もインビジブルウルフ卿に危害を加えられないという事だ、正しく・・・いや、何でもない」


内容をいち早く理解した人たちがザワつくが説明を続ける。


「俺の支配下に置かれた魔獣は行動を制御、誘導すれば俺の思うがままに動きます。

ですが流石に15頭一斉に制御を行った経験はありませんので制約魔法で行動を制限させます」


「ちょっと待て!制約魔法だと、誓約ではなく?」


ええ、”制約”です。

なので俺から一方的に行動の制限をかける事が出来ます。


今回はそうですね・・・”首から上を狙わない”事としましょうか。

胸は強固なプレートメイルで覆われているから心臓は大丈夫だろう。首から上の攻撃、即死でなければ俺がなんとでもする。



「その口振りですと本当なのでしょうな、いや疑っている訳ではないのですがあまりに現実離れしていて」

ベテランの騎士さんがそう聞いてくる。


まあ、そうだよね。

でも心配しないで、本当の本当に最悪の事態になればハウジング内の動きを全て凍結させるから大丈夫。


「「「「え?」」」」


さっきの説明の通りこの区域内であれば行動の制限は俺が自由に行う事が出来る。

予め支配下に置いた人間、魔獣含むすべての者(物)への同じ動作の”一括制御”なんてのは個別の制御より簡単なんだよ。


個別制御なら対象をいちいち選択してから次の行動選択をしないといけないけど、一括ならボタン1回押すだけの感覚だ。



「来訪者・・・」

誰かがそう呟いた。



いや、それは違うと思う。

俺はクルトン。

開拓村で育った農民で狩人、レビンとラーシャの息子だ。


それは騎士を叙爵された今も、そしてこれからも変わらない

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