第177話 覚悟

王城謁見の間で跪いている俺、クルトンです。



あれから2日後に式典の日程と合わせて試作の腕輪の検証結果を宰相閣下より聞かされました。


「加護持ちへ引き渡し2個とも検証してもらっている。まだ日数も経っていないので『慣らし』の様なものだが異常は出ていない。加護持ちからの感想もかなり好評との事だ」


良かった。

では改めて王都に来た時にフィールドでの検証作業の為箱庭の準備をしたいと思います。

つきましては土地の確保お願いします。


「承知した。特にこれからは地道なデータ取りと解析作業が有るのだろう?人が要るようなら言ってくれ、国も王家も全面的に協力する」


やっぱり試作品と言う形になった成果物が有ると周りの人達への説得もし易いんだろう。

今まで以上に協力的に感じる。

機密性の高いこの事業に対し国、王家で人員を都合するなんて主要な貴族との根回しも完了したんだろうな、この2日で。


もしかしたら協力者への守秘義務について誓約魔法を使ったのかもしれない。


いずれにせよいろんな意味でこの仕事を進める為の制約が少なくなったんだろう。

仕事がやり易くなったって事だ。


ならば王都に居るうちに箱庭、ハウジングの能力を試しておかなきゃな。



そして今、腕輪の試作品を引き渡してから4日後です。


シンシアは玉座から伸びる絨毯の両脇に居る貴族たち、ソフィー様、アスキアさん、と一緒に俺に視線を向けている。


俺は跪いて宰相閣下からの話をじっと聞いている状態。


「・・・このように今回は来訪者の加護をお持ちの方々への補助具の製作の為にクルトン・インビジブルウルフ騎士爵へ制作を依頼、量産までの事業を任せた。既に試作品は完成し検証の初期段階が始まっている、今後は・・・」


宰相閣下もかなり神経質になっている様だ。

この謁見の間での発言は一字一句、万が一噛んでしまったりしてもそのまま記録される。

何か有れば裁判の証拠として使われる事もあるそうだから。


だからだろう、後々この事業に支障が出ない様に慎重に言葉を選びこの場の皆に説明をしている。

要約すると「邪魔すんなよ、邪魔したら分かってんだろうな?」って事を言ってる。


「そして最初の量産品の一部はベルニイス国へ輸出する事が決定している、これはより製品の完成度を高める為に我が国以外の環境下での実証実験に協力してもらう為である」


まだ続く。

「つまりこの事業は量産が始まればそこで終了する物ではない。

むしろそこが始まりとなり以降、改良を継続し続ける事が運命づけられている事業である。

よってこの事業が成功するか否かはクルトン・インビジブルウルフ騎士爵が長期に渡りいかに円滑に、自在に力を振るえるかにかかっていると言っても過言ではない」

おっ、俺に気を使ってくれている、正直有難い。


「その為、今この時より補助具量産品の完成度が一定の品質に至るまでの間、クルトン・インビジブルウルフ騎士爵には自身が所持している土地、およびこの事業で使用する関連施設内においてのみではあるが自治権を与える」

ん、どゆこと?


「インビジブルウルフ、簡単に言えばお前の所持している土地・・・そうだな王都内の厩舎建設予定地やこれから整備する実験用箱庭、作業を行う宝飾工房内であればタリシニセリアンの法は適用されん、お前が法となる。

問題が起これば逮捕も裁判の判決を下すのもお前次第になる、強力な権力だが期間限定だ、その後の影響も考え心して振るう様に」


これには周りの貴族がざわつく。

この国の中に極小規模で期限付きとはいえ実質的な自治区を容認するという事だ。

封建社会でコレを認めるって事はかなり踏み込んだ決断になる、今回に限って言えばそうしてでもこの事業を成功させたいって事を国内外に宣言した様なもんだろう。


多分だけど他国の間者が妨害してきたり情報を盗みに来たり、最悪俺に暗殺者が向けられる事も可能性の一つとして考えているんだろうな。

そして返り討ちできることも織り込んで、俺がつける決着、結果を容認するって事だろう。

そんな事態になった場合は国、騎士団、王家が動くには時間が掛かりすぎるからだろうね。

対応が後手に回ると発生する損失が看過できない位になりそうだし。


生殺与奪を俺が握り、正当な理由が有れば俺の判断に口を出さない・・・まあ、責任取れって事だな。



良いだろう、別に難しい事なんて無い。

その期間、区域限定だが問題を起こした場合正論で俺を納得させる事が出来ないヤツは敵認定だ。

大げさな話じゃなく人の命と人類の未来が掛かっているんだ、邪魔は許さない。


なんかあれば俺の縄張り(テリトリー)から追い出すだけだ、永久に。

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