第176話 試作品の引き渡し

現在、陛下の執務室にお邪魔しています。

呼び出しがあまりに唐突でお茶を飲んだ後ティーカップを置くときに大きな音を出してしまった俺、クルトンです。




次の日に王城の広報部窓口で内謁の申請書作ってたら提出前に宰相閣下自ら俺を呼びに来た。


絶対俺を監視してる人いるよね?

いや、誰かは分かってんだけど。名前知らないけどあのパッとしないバーコードヘッドで低身長、小太りのおっちゃんでしょう?


索敵で確認してたけど「チョット厠へ行ってくる、もちろんおっきい方ね」って部屋から出て行った後の動きが人間離れしてたよ。

なんで王城の内の壁無視して一直線で目的地まで移動できるんだよ、忍者かよ。


俺が気付かないだけで意外とこんな恐ろしいヤツが結構紛れてるんだろうな。



「試作が出来たとか」

はい、お持ちしました、これです。


カバンをゴソゴソして腕輪を2個取り出し陛下と宰相閣下、そして同席している宝飾師、付与魔法師の職人へ現物を見せる。

1個は第一試作の純魔銀製腕輪。

もう一個は新合金で拵えた量産用試作1号。


「ミスリルの方が試作だろうが・・・こっちも試作か?」

はい、量産用として出来るだけ安価な金属で拵えた物になります。

発揮させる効果は純魔銀には及びませんが十分実用に耐えうる合金を使用してます。


しかも材料費だけなら青銅と大体同じくらいです。


「・・・どう思う」

「加護持ちに確かめてもらうしかないでしょうな、予定より早いですが話を通しましょう」


・・・で、一度コルネンに戻っても良いですかね?

予定より滞在が長引いてしまっていますし。

先日注文いただいた王笏の製作にも取り掛かりたいですし。



「少し待て・・・そうだなあと4日間は王都にいる様に。一度加護持ちに効果を確認してもらった後に特使殿を招いて試作完成の式典を開く、・・・そんな顔をするな、略式にするから」


話を聞いてあからさまに俺が「ええ~」ってな顔をすると宰相様がすかさずフォローする。


「試作であってもこれは画期的な発明だ。隠す訳ではないが防犯上の理由も含めた諸々の事情で姫様の腕時計は広く公表できんかったがこれの完成は話が異なる。

積極的に喧伝しこの分野で我が国が主導権を握る。

強引に思えるかもしれんがそうせねば、ならず者国家などすかさず集りに来るからな、秩序を乱す火種にならんように必要な対応だ、納得してくれ」


宰相閣下の説明に「まあそうか」と納得する。

魔獣と言う人類共通の敵がいるお陰で人同士の戦争が8千年程起こっていないそうだが小競り合い程度のもめごとが無いわけではない。


そういったいざこざの鎮静化にも役立つ外交カードであることは確かだからな。

極端な話世界中の来訪者の加護持ちの支持を一方的に集める事が出来るかもしれない。


そんな事になれば表立ってこの国を非難、難癖付ける事も難しいだろう、なんたって『来訪者の加護持ち』は聖別されるくらい特別な人達なのだから。



その後、同席している宝飾師、付与魔法師の職人の方たちへの説明を行う。

基本チェルナー姫様の腕時計と効果は同じなので添付している取扱説明書に沿って説明、そして引き渡す。


ここで一旦区切りがついたので宰相閣下から受領書にサインをもらう。

今回は期間が長いので仕事の区切り毎に報酬を分割して貰う様にお願いした。

なので今回はこの区切りで報酬の3割が俺の口座に振り込まれる、ありがてえ。



「加護持ちからの検証結果を確認してからにはなるが、納期的にも今回の試作完成は十分な成果を上げたと思われる。それ以外でもウリアム工房への付与魔法陣の刻印技術の技術支援も功績の一つになるだろう」

ウリアムさんへ付与魔法陣の刻印教えたのも伝わってる、やっぱり監視されてるんだな、俺。


「・・・そんな顔をするな、私と陛下がウリアムと一杯飲んだ時に聞いた話だ」

ウリアムさん!コンプライアンスゥゥゥ!


でもしょうがないか。

いずれにせよこの世界の発展の為には必要な事だろうし。



そして2日後にもう一度来るようにと指示を受け執務室を退室した。



シンシアにもうそろそろコルネンに戻る事になりそうだと話したところ、お世話になった皆にあいさつ回りしたいと話が有った。


俺もお礼がてら回る必要が有るだろう、今までにない位長期間王都に滞在する事になりチョロスを売ってる屋台のおっちゃんに始まり食事の為割と頻繁に通ったピッグテイル、工房での仕事の最中に出前を手配だったり後片付けを手伝ってくれた丁稚のルーロン君(14歳)なんかにも。

あ、ルーロン君はウリアムさんの親戚の子だそうな、とっても真面目な子で地味で代り映えのしない仕事も手を抜かずに一生懸命頑張るもんだからちょくちょく食事をご馳走したりした。


俺が作ったバニラアイスも気に入ってくれた。

「バニラアイスは至高」

そう言ってパティシエを目指したいと本気でウリアムさんに語っていた時は「えっ」って思ったが今のところ将来の目標が明確に決まっていた訳ではない様だったのでウリアムさんも「良いんじゃないか?でも修行はどこも厳しいぞ」なんて親身に相談にのってたよ。


あとすこし、もう少し王都を満喫しよう。

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