第175話 「俺を外道に堕とすつもりか?」

さて、4週間が経過した。

実は試作の腕輪はもう完成している。

流石と言ったところかウリアムさんが付与の刻印を手伝ってくれてからは予定が次々前倒ししていった。

まったくの初心者だったのに舌を巻く上達ぶりだった。


お陰で作業の合間にこうしてお茶で一服する時間も取れるようになった俺、クルトンです。



現在陛下への第一試作完成の報告後に取り掛かる予定だった材料の選定に入っている。

量産に向けて希少金属を出来るだけ使用せずに求める性能をどこまで発揮できるかの検証をしているところだ。


鉄で作っても効果は発揮させられるが必要な魔力量がどうしても多くなる。

大気中の魔素を魔力に変換してそれをエネルギーとして動作させるが使用する魔力量は少ない方が良い。

必要な魔力量を変換する為に鉄だとどうしても魔法陣が大きくなってしまって『腕輪』の大きさまで収まらなかった。


来訪者の加護持ちの魔力総量は通常の人より多いそうだが一定時間内に放出できる量は少なく、放出時間も肉体の脆弱性が災いして安定しないし短いと話を聞いていたので此方の魔力を当てにするのにもリスキーだろうし。


先に腕輪で身体能力を補完すれば良いとの考え方もあったが鶏と卵どっちが先か?の話になってしまい効果が安定するか良く分からなかったのでその案は却下した。


因みにチェルナー姫様の腕時計はオリハルコンに貯め込んだ魔力と自動で巻かれるゼンマイでその問題を解決している。



高純度の魔銀だと必要な魔力量が(俺の体感で)9割以上少なくて済み、肉体への負荷もかなり軽減されるだろうがその分お値段はかなりのもの、やっぱり現実的でない。

供給量を確保する為には魔獣を乱獲しないといけなくなりそうだし別の意味でも勘弁してほしい。


それに高価な素材を使うと盗まれて鋳潰したあと闇市にでも流されそうだしね。


なので一番コストパフォーマンスの良い合金を確認、検証しています。

もう片っ端からいろんな金属、成分の配合を試してる。


もうね、これだけで2週間かかってますよ・・・うん、つまり第一試作は4週間(約1ヶ月)で完成してるんですよね、協力してくれているウリアムさんマジ有能。


「クルトン、クルトン、次はこれなんだが試してくれるか」

ウリアムさんが前世の鉛筆位の大きさに仕立てた新配合の合金の棒を俺に渡してきたので魔力を通す。


ハイハイ、ではちょっと失礼して・・・おお、昨日の物よりだいぶ魔力の通りがいいですね。明らかに魔力が流れる時の抵抗が小さいです。


「そうなんだよなぁ、一番魔力の通りが悪かった鉄をほんのちょっと混ぜるとどの金属もこんな感じなんだ。鉄を混ぜない時より良くなる、なんでなんだろうな?」


鉄が触媒になってるんでしょうね。


今日まで検証した結果、一番コスパが良かったのは青銅を主にした合金。

重量ベースで鉄を0.1~0.3%程添加したら今回の様な効果が顕著に表れた。


純魔銀製の第一試作には当然劣るが魔力の力率はなかなかの物で実用には十分耐えられそう。

初回量産はこれで行こう、希少金属と比べてもすこぶる安いし。


しかし銅、スズ、亜鉛ベースの青銅へ、鉄を始めとしたさらに少量の他金属3種類を使用、その配合量はかなりシビアに調整しなければならないが、安定して精錬できる設備が作れればこの青銅ベースの合金は付与魔法を施す時の母材として広く普及していくんじゃないか?

そう考えると結構な発明なんじゃね。


「特許申請した方が良いだろうな、手続きしておこうか?」

任せます。俺がこの合金を製作、使用する際に制限掛からない様にしてもらえれば、それで構いませんので。


「結構な利権になると思うが・・・ああ、面倒くさいんだろ?なら俺との連名で提出しておくから何かあったら連絡くれ。この合金への窓口対応は家の工房が受け持ってやるから」

ええ、お願いします。



「で、この合金の名称どうする?」

ん?


「登録する際に必要だからな、『クルトン鋼』とかにしとくか?安直に聞こえるかもしれんが開発者の名前を入れるのが一番分かり易くて後々のトラブルも少ない。

何より名誉なことだしな」


・・・なら『ウリアム鋼』にしましょう


「それは駄目だろ、お前の功績を横取りするわけにはいかねえ。

俺を外道に堕とすつもりか?名前ってもんはそいつの名誉にかかわる事だ。

特許の連名申請でもどうかと思っている位だぞ、俺は」

うーん、どうしよう・・・。


(-`ω-)ポク・

(-`ω-)ポク・・

(-`ω-)ポク・・・

(-`ω-)ポク・・・・

( ・`д・´)ティーーーン


『チェルナー鋼』にしましょう。

「ちょっと待て。チェルナー姫様の名前を勝手に使うのか?しょっ引かれるんじゃないか」


チェルナー姫様に『来訪者の加護持ち』への腕輪普及の為に基金を設立してもらいましょう。

王族で尚且つ自身が来訪者の加護持ちであらせられる姫様なら適任、そこにこの合金の利権の一部を持ってもらえばいいんじゃないですか。

基金の原資にもなるでしょうし『チェルナー鋼』って命名する理由も違和感が有りません。


俺良い事思いついた、そうしよう!

この合金の特許料、ライセンス料の一部は基金で運用してもらえればきっとなし崩し的に俺の影響力は弱まって面倒事を押し付けれる!多分。


「いや、公文書で残るからな」

大丈夫、既成事実化していけば良いのですよ。

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