第178話 「武闘大会が開催されますな」

謁見の間で行われた式典は無事終了した。

今は場所を変え、懇親会の様な立食パーティーに参加している俺、クルトンです。


夜会?晩餐会って言うんだっけ?


辺境伯を始めとして通常は自領で公務に当たっている領地持ちの貴族などは時間、距離の都合で今回の式典に間に合わないから名代が参加している。

なので試作を引き渡してから式典まで4日と言う超タイトなスケジュールだったのにも関わらず参加人数だけは結構いた。


一緒に来たシンシアはチェルナー姫様、アスキアさん、ソフィー様にがっちり守られて挨拶に来た貴族の人達の談笑に混じっている。

俺はと言うとタダでさえ目立つこのガタイでは身動き一つするにも注目を集めそうだったので、軽く認識阻害を発動し適当に料理を摘まんで楽しんでいる最中。


使っている素材が良いのも有るんだろう、個々の料理は全部旨い。

しかも全ての器、大皿に料理に合った温度を保つような付与魔法が刻印され、アイスクリームなんかも無造作に置いてあるのに溶けずにしっかり冷えている。


・・・バニラアイスだ、いつの間に。





「探しましたよ、インビジブルウルフ卿。少々お話宜しいでしょうか?」

はい、なんでしょう?


ハーレル王子含め特使3人勢ぞろいだ。

「補助具の件、この度は感謝してもしきれません。

国への大きな土産が出来ました、楽観論ではありますが我が国の未来は明るいものとなるでしょう」

私もそうなる事を願っておりますし、なると思います。


「そう言っていただけて心強い、ならば必ずそうなるでしょう(笑)。

・・・失礼を承知で申し上げるがもし何かあれば我が国を頼って頂きたい、最大限の協力を惜しみません、この第二王子ハーレルが来訪者に誓います」

はは、有難う御座います。

そうならない様に注意はしますよ。


「初回の納品が無事終わり、腕輪の実績が出来ればわが国での爵位も用意いたしましょう。その時は招待させて頂くのでぜひベルニイスヘ」

いやいや、そんな先の話、しかも他国での叙勲だなんて。

今の騎士爵でも持て余しているのに。


「ちゃんと筋は通します、国王陛下にもお伺いを立てますので」


・・・今気づいたが王子の言葉遣いが他国の下級貴族に向けるそれじゃない。

ちょっとまずい事になりそうだ。

いや、面倒な事か。

好意的にとらえれば俺への誠意の現れ、意地悪にとらえれば俺のヘッドハンティングへの仕込み、ハニートラップも有るかもしれない。


為政者が他国の下級貴族相手にこうも丁寧な対応をとるなんてどう考えても怪しい。


「はは、そう警戒なさらずとも。言いましたでしょう、我が国は戦士の国です。

強者への礼儀は弁えています」


「そうです、優れた戦士へは身分関係なくそれ相応の敬意をもって対応します。

しかも『雷狼』の様な武具を打てる刀匠であれば尚更ですよ」

ラドミア姫様が山の様に料理が乗った皿を俺に渡しそう言う。


あ、どうも。そのローストビーフ美味しそうと思ってたとこなんですよ。

ちゃんとソースもタップリかけてありますね、有難う御座います。



「しかし、聞きましたがインビジブルウルフ卿には許嫁もいらっしゃらないとか。

お節介かとは思いますが周りの者の為にも早めにお決めになられた方が良いと思います」


「お声がけ頂ければ私が仲人になりましょうか?その格に見合う者をご紹介いたしますが。

・・・いや、魔獣殺しの英雄に嫁げるとなれば我が国ではその座を得るために武闘大会が開催されますな」

サイレン王子とハーレル王子がグイグイ来ます。

はい、ハニートラップモドキってやつですね、分かります。

しかし女性が武闘大会ですか、凄まじいですねベルニイス国って。



その後「いえいえ」、「まあまあと」緩くも面倒な善意に引き留められているとフンボルト将軍が空気を読ますに割り込んできた。

ナイスタイミング!


「そんなに無理に勧めてはサンフォーム卿に睨まれるぞ、後々面倒な事になっても知らんからな」

「ガハハ」と笑いながらそう言うとハーレル王子も「そうですか・・・」と静かになった。


ハーレル王子は以前デデリさんにコテンパンにされたらしいからそう言われると弱いんだろう。

「ん?まあ、半分正解と言う所だな」


何かしたり顔のペンちゃんがウザい。



「とにかく、この腕輪によりインビジブルウルフ卿は我が国でも英雄と称えられるべき功績を上げる事でしょう。その際はタリシニセリアンの名代としてわが国の招待をぜひお受け頂きたい」

ええ、その際は。

外国もちょっと興味が有ります。

家族を連れての旅行が出来れば尚更楽しそうです、俺の専用馬車で。



「・・・クルトン、そんなことをしたら陛下から亡命と疑われる。もうちょっと気を使え」

フンボルト将軍が苦笑いしながら俺を嗜めます。


なるほど、そう見えるんですね。

まあ、そうか。ここは人類の天敵である魔獣の居る世界。

簡単に森、山を挟む国境を越えるなんて一般人には無理だからな。

しっかりした護衛を雇った商隊に帯同でもしてもらわなければならないだろう。


それでも国境を越えようとするなら亡命と疑われても仕方ないか。


「我々は大歓迎ですがね(笑)」



「のう、クルトン。これからの予定はどうするのじゃ?」

その後、一頻り貴族たちからの挨拶が終わった陛下が寄って来てこのお言葉、これは「王笏の進捗どう?」って事だろう。


先日執務室に呼ばれたとき「デザインは2番で」と伝えられたから。


次は王笏に取り掛かりますが・・・デザイン決まったの一昨日ですよ。

これからですよ、これから。


「そうか・・・できればこう、何と言うかササっと出来るんじゃないかのう」

ササっと出来る程度の王笏をお望みで?


「そうは言っとらんじゃろう、待ちきれんのじゃよ」

子供ですか。


「大して変わらんな」

実兄だからなのだろう、宰相閣下も遠慮がない。



いずれにしてもしっかりした物を拵えますので楽しみにお待ちください。

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