第229話 「え、俺そんな評判悪いんですか?」

カリカリカリカリ・・・

羊皮紙にペンを走らせている俺、クルトンです。




本日は検証実験最終日。

明日は後片付けを行いハウジングを解除して会場であるここを引き払う。


その日中には王都に帰還し、4日間ほど王城で様子を見た後に完全に検証作業は終了、皆とお別れだ。


俺は妊婦さん、いや、出産終わったから違うか、確か名前はクラスナさん。

彼女が残した腕輪のログを吸い取り内容の解析準備を進めている。


記録情報を保管している付与術式に、見た目USBメモリーの様な魔銀製の板へ魔力でつなげ吸い上げる。

板とは言っても記憶容量を増やす為、付与術式を詰め込むための表面積を出来るだけ稼ぐ工夫として、厚さ0.05mm程度の箔状に伸ばした魔銀に付与術式を彫れるだけ彫り込み128層まで織り込んだ


厚みは10mmに満たないがそれなりに容量は稼げたと思う。


その記録内容を羊皮紙に書きだしてあの出産の時、腕輪内の付与術式に何が起こっていたのか確認している。

これが解析できれば出産時の身体的負荷はかなり軽減させれるはずだから、出来るだけ早く確認したかった。


したかったのだけれども・・・。





「有難う、有難う!!この感謝の気持ちをどう伝えれば良いのか、ああ何とももどかしい」

「「「有難う!!」」」

クラスナさんの旦那さんから部屋に押しかけられて、握った手をブンブンされてる俺。


いや、3人のお子さん(男の子)と旦那さんのお父さん、合計5人が俺の部屋に突撃して来て今この状況。

カオス。


因みに旦那さんのお母さんと2人の子供たち(女の子)は、クラスナさんの部屋にいるらしい。



クラスナさんは王都生まれの平民だが、生まれて早々に来訪者の加護を持っていた事が判明すると国に保護され育てられた。

実親と引き離された格好だが別に面会できなかったわけでもなく、親たちも王都住民だったので毎日どちらかが世話しに登城していたそうで、親子仲は良好だっって。


年頃になると貴族の嫡男、今俺の目の前にいる旦那さんと結婚、今回で6人目の子を授かる事となる。


そんで、この旦那さんはシュケテ・プサニー伯爵。

領地は持っていないが代々役人として王城に努めており、結構偉い貴族らしい。

かなりの倍率を潜り抜けクラスナさんを射止めた人。

来訪者の加護持ちの女性は年頃になると高名な貴族からの求婚が凄いらしいからな。


貴族生まれの加護持ち女性は家がそれをコントロールするが、もともと平民だったクラスナさんへの求婚は防波堤の無い津波の様だったみたいで、決闘騒ぎで治癒魔法師が呼ばれることも有ったとか。


その決闘を勝ち残ったのが今の旦那さん・・・って訳ではなくて、求婚してくる男性の中で一番誠実だったからプサニー伯爵家に嫁ぐと決めたんだって。


クラスナさんが言ってた。


「いやはや、お恥ずかしい。私は根っからの文官でして腕っぷしはからっきしだったものでして」


もう、羨ましいったらありゃしない!

みんな勝手に幸せになってしまえば良いのに!!




そんなこんなで俺の解析業務が頓挫しているこの事態。


めでたい事なので部屋から追い出す訳にもいかないし、誠実さが伝わる善意100%の感謝を浴びまくっているこの状況では俺に抗う術はない。

この部屋に案内してきたチェルナー姫様も、ちょっと困ったような苦笑を浮かべてさっきから視線が泳いでいる。


流されよう・・・。




「インビジブルウルフ卿、此度は義娘も孫も大変世話になった。

生まれてくる赤子の大きさからしても、大変危険な状態であったそうではないか。

貴方が居なければ取り返しのつかない事になっていただろうと聞いている、改めて感謝を」

そう言うとプサニー伯爵前当主のラビツェ様が腕を胸で交差させ俺に向かって膝をつく。


ここは下手に謙遜するとかえって失礼になる流れだ、ちゃんとこの国の流儀で答えよう。


「この度はご子息のご誕生、誠におめでとうございます。感謝は十分頂戴いたしました。

私こそ、この神聖な儀式に微力ながらお手伝いできた事を大変な幸運と感じております」

間違ってないかな、この言い回し。



ラビツェ様と俺を心配してか未だ部屋にいるチェルナー姫様揃って目を丸くする。


?どうしました。



「元老院・・・先代の方ですが・・・あの寄生虫共への所業を聞いておりましたので、もっと粗野な振る舞いをされるものかと、いやいや、失礼!」


「やればできるではありませんか!いつもそうでしたら王城での評判もかなり変わりますのに」



え、俺そんな評判悪いんですか?王城で。

マジですか・・・へこむぅ。



「あ、いえ、そのお力でいつも気配が希薄でありますでしょう?

突然現れる、それだけで侍女たちが怖がるのですよ。せめてもっと優しく接してくだされば良いでしょうに」


俺、優しいですよ。

自分でもハッキリ断言できるくらいかなり優しいですよ。



「本当でしょうか?

侍女たちとの会話を面倒くさがったりしておりませんか?」


やべぇ・・・、それは心当たりある。

だって結論のない話を延々しているんですもの。


「ほんの少し、もう少し話に付き合ってあげた方が良いと思いますわ(笑)」


はい、そう致します。



「はははは、インビジブルウルフ卿の伴侶が務まる女子は精霊の加護持ち位でしょうかな(笑)」


「そうですわね(笑)」




そこ笑う所じゃないと思います。

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