第228話 息吹
かなりの一大事に皆、そう全員が一丸となって事へ対処している最中です。
以上、現場から中継している俺、クルトンです。
「何してんだい!さっさと湯を沸かしな!!
ぼやぼやしてるんじゃないよ、全く男どもは役立たずだね!!」
イエス、マム!!
お湯ですね、任せて下さい!
念のために余分に用意してもらっていた木材を使用して部屋の中でハウジング、クラフトスキルに魔力をぶち込み一瞬で湯船を作ります。
そこに魔法で作った青白い炎の輪の中心を、これまた魔法の水を通過させると一瞬で蒸発してしまう。
ヤベッ、温度高すぎた。
魔法の炎の温度を下げ、赤い色に納まるとようやく沸騰直前のお湯が湯船にたまりだす。
そして開始から1分ほどで熱々のお風呂が沸いた。
「・・・ちょっとは使える様だね」
お褒めに預かり光栄です。
お分かりでしょうか。
そうです、皆が産婆さんの指示に従い出産のお手伝いです。
7日間の検証実験を開始して5日目、あの妊婦さんが産気づいた。
俺も兄弟たちの出産に立ち会っているので初めてではない、ザックリ何をすれば良いかは分かっている。
至急出産用の部屋を準備、消毒したうえで快適な室温、湿度に保つ。
勿論出産に携わる人たちの衛生面も抜かりはない、呪殺の魔法で体の表面のばい菌含めリスクとなり得る物は全て死滅させる。
この状態で外に放り出されるとかえって免疫が機能し難くなって問題らしいが、ここは既に滅菌されているから大丈夫、その後の事は終わってから考える。
湯とタオル(フッカフカのを作った)を豊富に準備して室内を滅菌し終わると俺は部屋を出ていく。
俺は準備を整えるだけだ。
一応彼女の腕輪は妊婦さん用のオーダーメイドだし大丈夫だ、きっと。
もし何か有れば強烈なブザーが鳴って周りに知らせる、もしその時が来てしまったら俺の出番だ。
・
・
・
”フォン!フォン!フォン!フォン!・・・・”
不味い!ブザーが鳴りやがった!
俺はノックもせずに部屋に入り魔力を拡散、ハウジングで俺の支配下に紐づけされた妊婦さんの今の状況を確認しながら再度魔力酔いしない少量の魔力を霧の様に、そして素早く拡散させる。
・・・妊婦さんの意識が無い、生きてはいるが呼吸も浅くお腹の子も含め危ない状態だ。
妊婦さんの体中の筋肉が弛緩していきめず、赤ちゃんが産道を通過できない様だ。
「ああ、不味いよ・・・私の治癒魔法じゃこれが限界。頼む、何とかしておくれ」
希望は捨ててはいないが悔しいのだろう、産婆さんが涙を溜めた目で俺を睨むように見上げてくる。
しかし、その目の光は未だ消えていない。
「任せろ、死の淵からでも蘇らせる。勿論二人ともだ」
心臓の上と下腹部に掌を置き、いつもと同じ乳白色の光が手のひらからその先へ流れ込んで、染みこむ様に広がっていく。
漂白された檻の中から意識を掬い上げ、現実世界である表層に引っ張り出すと一瞬体を震わせた妊婦さんが激しくせき込み涙を流して声を上げだす。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・」
もう少しだ。
精気を充填させるようにさらに魔力を流し込むと、左にしている腕輪に刻まれた刻印が激しく明滅しだした。
おい、やっと動き出したのかよ、この機能!
俺の魔力の他にこの部屋にある魔素を取り込み、それをエネルギーとして麻酔の効果が表れ出す。
無痛分娩の為の機能。
この世界の人達はアルコールが効きにくいのと同じように麻酔も効きにくい。
つまりかなりの効力を発揮させないと効かないのだが、来訪者の加護持ちの方に対してはどの程度で効くかなんて実験も早々出来なかった。
それに無痛分娩と言っても完全に感覚を麻痺させるといきむタイミングも掴めないらしいので調整が難しい。
この世界で今まで実績無いんだからそれは仕方ないと思う。
だから腕輪の機能としては、母体のあらゆる状況を常にモニタリングしながら部分麻酔の効果を徐々に上げていくという結構複雑で処理速度の性能に任せた力技の付与を施している。
それを起動させる魔素、魔力が足りなかったのか?
起動させるための魔力充填に時間が掛かってしまったのか?
それは今は分からない、後で検証しよう。
母体と腕輪の状態を確認しながら治癒魔法で体力を回復、今は完全に取り戻した妊婦さんの意識に産婆さんが声を掛け、いきむ様に促している。
もう少しだ。
・
・
・
「「「イーーーーッ、ヤッフォーーーー!!」」」
”ガヤガヤ”
”ガヤガヤガヤ”
”ガヤガヤガヤガヤ”
祭りの最中である。
あの後、1時間もせずに無事に出産は終わった。
生まれた子は、それはそれは大きな男の子だった。
生まれた瞬間に大きな産声を上げた赤ちゃんは、綺麗な湯で丁寧に優しく洗われると俺が拵えた産着に包まれ、すぐに母親に渡された。
母親に抱かれた瞬間泣き止んだのを見て俺も産婆さんも「「ほう!」」と唸ったよ。
この加護持ちのお母さんは出産6回目だそうだが、今回が一番大変だったらしい。
初めて見る我が子を眺めて「これなら大変な訳よね~」と嬉しそうに笑っていた。
今は防音の機能を施した室内で二人とも静かに眠っている。
そして屋外では祭りである。
もう一度言おう、祭りである。
「めでたい、めでたいじゃないか!インビジブルウルフ卿」
ストデニー男爵がウイスキーをロックで召し上がっておられる。
腕輪の恩恵があるとはいえ、元の身体能力が通常の人より劣る加護持ちはアルコールの影響を受けやすい様だ。
既にかなり酔っておられる。
子供が生まれるのはそれ自体がめでたく、そして吉兆でもあるとも言われる。
故に自分の子でもないのに皆嬉しそうに酒を飲んでいる。
「腕輪が作られたこの時代、この場で生まれた赤子・・・何か意味があるとは思わんか?
あの子は生まれたその時点で歴史に名を刻んだんだ!」
さっきからストデニー男爵の語りが止まらない。
「世界は確かに変わり出した。今まで見向きもしなかった我々へ手を差し伸べ『生きても良い』と・・・そう・・・、世界が変わりだした・・・(泣)」
おっと、泣き上戸だったようだ。
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