第378話 レベルキャップ

ようやくトンカツの味を感じる事が出来てモシャッている俺、クルトンです。


流石と言うべきか、王家だけあって一般に開示されていない来訪者の情報はまだまだありそうだ。

でもそれ以上は考えない、俺の精神衛生上の為にも。


「セリシャールももう少ししたら王立大学へ入学するのだろう?

歴史の最初の授業は儂が講師になるのでな、その時に詳細は説明するが今世ではその摂理を理解するのが難しい、未だに定まっていない・・・と言われている故にな」

この場の主役はセリシャール君とシンシア。

だから俺の話はあそこまでと切り上げ、国王陛下自ら二人の話へ軌道修正、あからさまにならない様にかなり気を使われていらっしゃる。



「学業の能力が伴えば、12歳以上になればいつでも入学できる。

治癒魔法の技能が高いからと言って優遇される事は無いがシンシアも受験に合格すれば入学できる、挑戦してみるか?」


「セリシャールと一緒に通えるんじゃないか?」と国王陛下。


上級貴族とはいえこの国最難関の王立大学に入学するのは実力次第。

でもセリシャール君についていえば魔獣大規模討伐戦の褒美として王家からの推薦状を貰う事が可能だから、その分のアドバンテージは確実に有る。


入試の合格に自信があるのなら家族となるシンシアに使っても問題なさそうだし。


「王立大学って・・・かなり難しいんじゃないの?」

シンシアがセリシャール君に聞いている。


それなりの勉強は俺や騎士団の皆さんから受けてはいたが、学校で正式に教わった訳でもない。

受験のセオリーだとが出題される問題の傾向だとかはとんと分からん。


つまり幾らシンシアでも今のままでは無理だと思う。


「多分シンシアなら大丈夫だと思うよ。

今は無理でも半年も時間が有れば」


なんですとー!!

マジですか、セリシャール君!


「?ええ。

出題される問題の傾向さえつかめれば多分問題有りません。

シンシアが優秀なことも有りますが、そもそも王立大学は入学より卒業する方が圧倒的に難しいのです」



「学生の1/4は留年か自主退学するからのう。

これは大学の権威の維持の為に学生を篩に掛けている訳ではないぞ。

優秀な人材育成が目的じゃからな、授業のレベルについてこれんだけじゃ」

セリシャール君の話を補足する陛下。


それが選別であるんだけど・・・まあ、こればっかりは仕方ないよね。

王立大学以外の教育機関で学ぶ選択肢も有った訳だし。



その後の話によると施設や設備の維持、教授や講師への報酬、各行事や式典、運営諸々の為に必要な予算は学生たちの授業料ではそもそも賄えないそうだ。


そこで足りない分は”王立”であるが故に陛下の資産から捻出される。

卒業生からの寄付も結構あるらしいからビックリする金額ではないと言ってはいるが、一般人が支払える金額でない事は容易に想像がつく。


この世界でここまでしている国はとても珍しいそうな。


特権階級のエリート育成機関を持っている国は沢山有るそうだけど。




それからもチェルナー姫様や宰相閣下からの話しも交えてセリシャール君たち二人の今後、将来についての話題が続いていった。



情勢による結果的な副産物ではあるが、ロールと言うかこの世界の人達は生まれた時点でほぼ役割を決められている様な状態である。


まあ、前世もそれなりに聞く話ではあった。


財力に問題の無い貴族であっても、現在ではまだまだイレギュラーな存在である『加護持ち』であっても同じ事。


平民で成人まで生きてきながら『精霊の加護』を覚醒しそうなラールバウさんや幸運にも治癒魔法の才能を開花させるきっかけを掴む事が出来たシンシア位特殊な事情でもないと敷かれたレール以外の選択肢を”安全”に”問題無く”選ぶ事は無理の様に感じる。


この世界、ある程度選択できても特殊な技能を必要とする職業は意外と多いってのも有るし。



そもそも大戦前の日本でも同じ様なもんだったと思う。

貧困の極みだった戦中から戦後を迎えそれから急速に豊かになって、

社会から色々な選択肢を与えられ、完全ではないにせよ建前上は自由意思で進路を決める事が出来るようになった。

それこそ『働かない自由』でさえ選択肢に数えられる位に。


封建社会であるのと同時に、魔獣の影響で今いるこの世界では引っ越しするのもままならない状態で、職業の選択以外のあらゆる自由も大きく制限されている。



シンシアや(補助具の)腕輪を手に入れた加護持ちの方達はそう言った意味では今まで受けていた枷が一定量・・・しかし、本人にとっては大きく外された状態と感じているだろう。




多分、俺の希望も多分に含まれている未来の事だけど、そう言った枷を外された人類は今までのコミュニティーの外、外界への好奇心に抗えず国内外問わず散らばっていくはずだ。

それじゃなくてもこれから人口が増加し、土地が抱えきれなくなった人たちが嫌でも外界に旅立つ事を強いられる事も大いにあり得る。

これにより、この国だけにとどまらず人の地域的移動・・・大規模な人口移動が進んで広く混血が進んでい行く事になる・・・だろう。


そして純血種には無い特性を多く持つだろう混血人種(ハイブリッド)が次第に増加、彼らは人類の進化の一つの可能性を示していく事になるんじゃないかな。




この流れはきっと今まで1万年もの間人類を押さえつけていたレベルキャップを外す事になって、

人類の進化の可能性を一気に開花させる切っ掛けになる。




楽しく笑い合うセリシャール君、シンシアを見ながらそんな妄想が俺の頭をグルグル巡っている。


ほんのちょっと。

そう、皆が希望を持てる人類に優しい未来がやって来ます様に。

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