第379話 「ヒャホーーイ!!」

報告会後の会食も終わり今日は王都のカンダル侯爵邸にそのまま帰る。


今日はお留守番のテホア、イニマと狼達のお出迎えを受け疲れが吹き飛んだ俺、クルトンです。



陛下も忙しかっただろうに昼食を兼ねた食事会は夕方に差し掛かる頃合い(15時)まで続き、前世の結婚式もかくやと言うくらいの長時間に亘った。


元々体が強くない陛下、チェルナー姫様とご高齢の御母堂の事も有り、正直俺はヒヤヒヤしていたんだが何か力場の様な物でも展開していたのか始終ご機嫌で何も問題無く終了した。


コッソリあの部屋だけにハウジングを展開し三人の体調を監視し続けたのだけど、その力場と言うか結界の様な物が部屋にいる3人の侍女さん達を頂点に三角錐の形で展開、王族を含めた俺たちを覆っていた。


彼女らは結界師なのだろうか?何れにせよこれによる宰相閣下を除く王族3人への何かしらのアシストが有ったみたいだ。


まあ、王城内だから準備期間さえあれば色々細工は出来るんだろう。

悪い事では無いし、今回は2人を祝福する為に最大限気を使ってくれたんだろう、そう思う事にした。



「今日は我々は軽めの晩御飯にしようか。

クルトンはガッチリ食っても構わんぞ、どうだまだまだ食えるか?」


問題ありませぬ。


侯爵様からの問いに速攻返す、幾らでも食えますよ。

このガタイの維持にはそれなりのカロリーが必要ですからね。


「じゃあ呼びに行くまでゆっくりしててくれ、外に出る時はちゃんと言伝しておいてくれよ」

そう一言伝えると侯爵様は自分の部屋、執務室に向かって行った。

今日の会食の内容を今の内に書き留めておくようだ。

王族との会食、しかも今回は御母堂もおられたので貴重な記録になるからね。


つまり自慢話のネタだ。


シンシアもセリシャール君、テホア、イニマと一緒に客間に行った。

テホア達は「ねえ、王様どうだった?」、「どうだった?」と王様の事が気になって仕方ない様だ、そういや会った事ないもんな。



俺はと言うと・・・、

「ヴァウ!」、「オン!」

ポム達がじゃれついて来る。


どうやら俺についている旨そうな匂いにテンションが上がった様だ。


君たちちゃんと飯食ったよね?

侍女さんを見ると「しっかりお食べになりましたよ」との返事。

そうですよね、いや、疑っちゃいないですよ。


もう大人のはずなのに初めて会った時より一回り大きくなっている狼達、しっかり筋肉も付いているから太っている事は無いけど・・・今日はあまり動いてないだろう?ちょっと運動してこようか。




侍女さん達に運動してくると、食事時(大体18時くらい)には戻ると伝える。


邸宅門を出て通りを認識阻害を展開したまま歩いて行くと、少し上を眺め有る事を思いつく。


・・・そういや今まで試した事ないな。

でもポム達は付いてこれるかな。


忍者漫画、アニメやファンタジー物には度々出てくる演出。

ダメもとで試してみよう。



タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!


「ヒャホーーイ!!」


心配していたが問題無かったみたい、後ろにポム達も付いて来ている



今、俺たちは王都内建屋の屋根を次々と跳び越え、渡り歩き、さながら空中散歩の様な状態で走り回っている。


俺がジャンプ、着地や加速の際に踏み込む時、足の裏に掛かる衝撃と体重に屋根が耐えられるのか心配だったけど、認識阻害をコントロールして展開すると都合の良い様にこの世界の物質に影響与えないんだ。


俺の体への推進力を得ているのに屋根への影響が無い、何なら音もしないし”ザザー”って感じで急停止する時も足の裏への摩擦が有るはずなのになぜか熱を持たない。


前世のゲームで見たあの蜘蛛男と言われるヒーロー、あの様に都市を縦横無尽に移動していく爽快感が有る。


流石に腕から糸を出すことは出来ないが、前世では考えられない身体能力に任せて景色が立体的に流れていく様は、馬車の高速移動とはまた違った風景でとても楽しい。



巡回している衛兵さん達も屋根の上から飛び越え、都市の道とは全く違う空中の道を探しながらの移動。


こうやって肉眼で直接見る俯瞰視点もとても新鮮。



「ん?」

王城の天守閣に匹敵する高さの時計塔の天辺まで駆け上がり、ぐるっと王都を俯瞰するとこの景色に何だか見覚えがある様な気がした。

この違和感、既視感?何だろう。


何ともモヤモヤした感じがするが、その既視感は胸に引っかかったまま答えが出ない。


「ヴァウ!ヴァウ!」

ああ、スマンスマン。


時計塔の天辺までは流石に登れなかったポム達が俺に抗議するように下で吠えている。

そうだな、そろそろ帰るか。


お腹がペコペコだ。



俺がカンダル侯爵邸に帰ると夕食の準備がもう少しでできるからと部屋見戻るか食堂に直接行くか侍女さんが聞いてくる。


少し運動もしたから着替えをすると伝え、俺に宛がわれた部屋に向かう。


持ってきた衣装箱の中から失礼にならない程度のラフな普段着を選んで着替え、ふと窓の外を見ると丁度夕日が沈むところだ。


何気にこの部屋の窓は西日が差すようにわざわざ設計してるんだな。

何でだろう、眩しいし家具や壁紙は日焼けし易いんだけど。



窓に近づきそして開け放つと、二階のこの部屋から見える王都は夕日の影響の逆光で王都の景色をシルエットとしてくっきり浮かび上がらせる。


ああ、この一瞬の為にわざわざ西日が差す様に窓を設計したのか。



夕日が連なる屋根の輪郭を際立たせ幾何学模様にも感じる景色をしばらく眺めていると、脳内に滲み出る様にさっき見た時計塔から俯瞰した王都の景色を思い出す。


そうか・・・あの既視感はあれだ。


王都の中心から伸びていく幾本もの道。

王都全体が幾何学模様にも見えるこの都市設計・・・集積回路、中央処理装置の位置にある王都、そこを中心に走るパターンの様な各大通り。

主要な役所、ギルドや時計塔等の目印になりそうな大きめの建造物の立地がプリント基板に配置される電子部品で、この王都自体が何かしらの機能を有する1枚の基板の様である。




「王城の地下・・・なんか有るんだろうなぁ」


今日何故か報告会に顔を出した御母堂の件も有る。

何だかすんなりコルネンに帰れない様な予感がして・・・でもそれに抗うのは間違いなく悪手だろうと確信している俺が居て。




「運命とは、ままならないものだ」

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