第149話 アンタッチャブル
本日はお世話になった方への挨拶とシンシアの顔つなぎで王都を回る予定。
その前に久々の王都の朝市で買い物をしている俺、クルトンです。
買い物終わったら一度王城に戻って朝食の後に挨拶回りです。
取りあえず朝市で珍しいものが無いか確認、シンシアも楽しそう。
香辛料やバニラビーンズ等の高級品は今日の挨拶時にポックリさんへ注文しよう。
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ちょっと油断した。
いや、起こった内容はなんて事ないのだが程度で言えば結構面倒な事が起きた。
護衛の騎士団員さん達もかなりいい働きをしたから状況証拠はばっちりだが相手が超面倒くさい身分の人間だった。
「どうしたのですか?より多くの人間を救うという尊い行いが出来るのですよ、迷う事などないと思うのですが」
「いや、この子はあんたらの信徒じゃないし、さっきから迷惑だと断っているのですけど、言葉通じてます?」
シンシアを後ろにかばい俺が受け答えをする。
うん、前世にもいた。
あえてこう言おう、こいつは狂信者だ。
『ロミネリア教団』
正直に言って全く知らん宗教団体だがその名を聞いた騎士さん達はそろって顔をしかめた。
事が起こっている最中なので詳しい事を聞く暇はないがその表情からろくでもない奴らなんだろうと容易に想像がつく。
事の発端はこうだ。
朝市の露店でアクセサリーを見ていたシンシアに対し近づいてくる人間がいた。
俺の索敵に暫く前から引っかかっていた人物。
事が起こってからでは面倒だと騎士団員さんに声をかけシンシアの周りに壁を作ってもらったところ、その壁を突破しようとしてとっ捕まったのが今の状態。
なんでもロミネリア教団の司教らしい、名前はコンビナート?
「コルビネーテだ、二度と間違えるな異教徒」
控えめに言ってアホだな、こいつ。
周りに悪意をバラまいてワザと敵を作り出しているとしか思えない。
この宗教の教義には秩序の破壊でも含まれてんのかな。
「ロミネリアへ仕える事の意味を理解しない異教徒共への救いは無い」
話しの脈絡を完全に無視して演説でも始めようかと言う立ち振る舞いで教義?を話し始める司祭。
真面目に相手しては駄目な奴だ。
話し合いを早々に諦めて、いつかは人に実験しようと準備を進めていた『昏睡』の魔法をサクッと行使すると司教は白目をむいて倒れた。
うん、人への即効性も問題なしと。
「クルトンさん、衛兵を呼んできますので先に王城へ戻っていてください」
そう騎士さんから言われて移動する俺とシンシア、あと護衛の騎士さん2人。
3人の内2人が司祭の見張りで1人が衛兵を呼びに行きました。
後で結果だけ聞いておこう。
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帰りの道中に護衛の騎士さんから『ロミネリア教団』についての話を聞いた。
他国の話なのだが、なんでも150年ほど昔に『ロミネリア』さんって腕のいい女性の治癒魔法師がいらっしゃって、色々お世話になった方への個人的なお礼として治癒魔法での治療を行っていたそうな。
そこまでは良かったんだが段々彼女の力を当てにする人たちが増え、それでも頑張っていたロミネリアさんではあったが、とうとう疲労で倒れてしまったらしい。
当然ロミネリアさんにお世話になった方々はたいそう心配して、今までの恩返しとして色々な世話や便宜を最大限取り計らってくれたそう。
そして倒れた事で今まで無理をさせてしまっていたんだろうと反省した周りの人たちが、自主的に1日の治癒魔法の回数に制限を設けたりしてロミネリアさんを保護した。
優しいロミネリアさんは当初「そこまでしなくとも」と戸惑ったらしいが治癒魔法のお零れに有りつく事が出来なくなった、利用していた奴らが「ロミネリアは薄情な女だ」とかネガティブキャンペーンを強力に推し進めた事を知ると「お世話になります」と協力者たちに保護を求めた。
当然ながらそのネガティブキャンペーンは総スカンを食い、理解される事なく収束していく事となる・・・はずだったのだが奴らは諦めていなかった。
そいつらは悪意だけは一人前だったようで、ロミネリアさん没後(寿命で135歳の大往生)に「ロミネリア様が亡くなられたのはあいつらのせいだ」と世話していた人たちを糾弾し始め「我らこそがロミネリア様の意思を継ぐ者」とか言い出して治癒魔法師の勧誘から始まり、信者獲得の為に誘拐まがいの事まで行う宗教団体が出来上がってしまったらしい。
今でもごくごく小さな宗教団体なのだが治癒魔法師を誘拐する手口が巧妙で、何回か行った施設のガサ入れで押収した資料や誘拐された本人からの聞き込み調査からも禁止令を出すところまでの法律上の問題は発見されなかったそうだ。
『ロミネリア教』を禁止している国は多いそうだがこの国はかなり緩く自由な国だからという事もあるのだろう、まだそこまでには至っていない。
しかしこんな奴らに名前を汚されるロミネリアさんが可哀そう。
落ち着いて現状を考えてみる。
思えばここまであからさまな悪意に晒されたのは初めてかもしれない。
俺達に向けられた『明確な悪意』、それならば遠慮することも無いだろう、容赦はしない。
狩りの始まりだ。
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