第121話 丈夫に作っててよかった(笑)

思ったよりエグイ効果に若干引いている俺、クルトンです。


「おい、どういうことだ?」

父さんがそう聞いてきたので軽く説明します。

いつまでも眠っている訳ではないので出来るだけこの場を離れたい。


「『睡眠』の魔法を使ったんだ。目覚めるのにはもう少し時間がかかるだろうけどさっさと獲物を運んでゆっくり解体しよう」



結局最初の1頭含め矢は5頭貫通していた。

通常なら致命傷になり得ない場所に当たった個体もいたが貫通し、その通った矢の速度も相まって傷口が弾けたようになっている。

うん、生きてらんないよね、これだと。


獲物へ馬車を横付けし屋根へどんどん放り投げとりあえずロープで縛る。

それから村の方向に馬車を走らせ群れから距離を取り2時間位のところでで積んだ水牛を降ろし血抜き、解体を始める。

今晩のキャンプもここにする。


「しかし全部で6頭か、馬車が有っても普通運べんぞこの量は」

「本当、兄さんも凄いけどこの馬車も凄いね!」

よせよぅ、照れるじゃんか。



おしゃべりはしてても手は動かし続け血抜きをと内臓を取り出し腹の中に氷を詰める。


今日は1頭アバラの肉を失敬して塩とハーブを擦り込みそして焚火にかざしてじっくり焼く。


うんうん、野生動物なのにアバラの部位はしっかり脂がのってる、もうすでに美味そうだ。


しっかり火を通し出来上がった肉を皆で頬張る。

「美味いな・・・食べ応えもしっかりあって最高だな」

「お代わり貰っても良い?」


おう、どんどん食おう。特に肝は痛みが早いから速攻調理して食っちまおう。


「肝最高!」

「これで酒が有ったら最高なんだがなぁ」


有るよ。


「ほ、ほ本当か?」

うん、赤ワインが2本セラーに入っているよ。

氷を使った冷風でしっかり温度も調整してるはず。


「飲んで良いか?」

良いと思う、明日は帰るだけだし。


馬車の中からワインを取り出し、グラスに注いで父さんに渡すとニコニコしながら飲みだした。

肝をかじってはワインを一口含み「カーッ!」とか言ってる。


美味そうに飲むね。

「こんなに良いワインを最高の肴で飲めるなんてな、有難うクルトン」


こんなので孝行できたとは思わないけど、嬉しそうな父さんの顔を見てるとなんか安心する。


今日もよく眠れるだろう。




夜が明け、村に帰る準備を済ませると早速走り出す。

今日中には村に付くだろうが獲物の処理もあるからなるべく早めに到着したい。

村の皆に手伝ってもらわないと6頭の解体はちょっと厳しい。


今はクレスが御者をやっている、とても楽しそうだ。

内臓を抜いたとは言ってもそこに氷を詰めているから6tは積んでいるだろう。

しかも天井に載せているから超トップヘヴィーになっているのにこの速度、そして安定感。


良い馬車作ったと自画自賛したいところだがクレスにはこれが普通だと思われるとまずいので一応説明はした。


俺が作った完全カスタマイズの馬車だからこれだけの性能だって事を。

村長が持っている荷馬車とは比較にならない程の技術を詰め込み、実証実験を繰り返した結果完成させたスペシャリティー馬車だって事を。


まあ、次に俺が村に来るときは出稼ぎを終えて馬車を含めた財産一式持ってくるからそんなに心配はしなくていいかもしれないけど、俺が言うのも何だが常識がどこにあるか認識しておかないと。


途中昼食を取り村に向け再び馬車が走り出すと、今までの道なきダート路面から大きめの石や段差なんかも少なくなってくる。

人里に近づいてきた証拠だ。


少しスピードを上げてあと2時間かからないくらいかな。



「馬車が戻ってきたぞ~、多分クルトンが戻ってきたぞ~」

村では一番最初にクルトンの馬車を見つけたおじいさんが、気の抜けた様な声で村の中を歩きながらそう伝えて回っていた。


その最中にも馬車は村に到着し、柵の入り口を越えて入ってくる。


「おう、やっぱりやりやがったか」

「あの荷台に乗ってるのが水牛?だよな。布に覆われて見えんが」

「だろうな、しかしあの量、何頭狩ってきたんだ」

「畑が有るから村総出で処理に2日ってところかなぁ」


なんか皆あんまり驚いてないな、もっと騒ぐかと思ったけど。

今回は村長の家まで行って狩りの報告をする。

到着すると屋根上の荷台の帆布を剥いで水牛を降ろす。


庭先に出てきた村長。

「うん、知ってた」

何を?


「しかし相変わらずだ、クルトンは。・・・6頭全部一撃だな。」

この傷がついてない1頭はクレスが狩ったんですよ。

凄いよね。


村人たちもだんだん集まりだして解体の準備、手順の打ち合わせに入っている。

合計6頭にもなると場所と解体ナイフの数の問題でいっぺんに捌く事も出来ないから段取りから話し合ってる。

何を言われることも無く進むこの辺のチームワークというか協力体制は何気に舌を巻く。


とりあえず俺ができる事をしよう。


被せてきた帆布は防水加工をしているのでそれを一旦地面に敷いて水牛を乗せる。

そして俺が作った刃渡りの長いナイフを使い骨を断ち切り皮を剥いでザクザク解体を進め大雑把な枝肉状態にして村の男たちに後の処理を引き継ぐ。


3頭まで進めた頃合いで陽も傾き始めたので一旦ここまでとして処理中の物には帆布をかぶせてその上から氷をかけて痛みを防ぐ。


一応村にも氷室代わりの貯蔵庫は有るんだがこれだけの獲物を入れることは出来ないから氷の量で何とかする。


今回は俺たち一家がすべて仕留めたので枝肉になった半身をその場で処理しブロック状にして家に持って行った。


脂が多いところを今日の晩御飯に、腿をハムに、他はうちの床下の貯蔵庫に寝かせて都度料理に使っていく。


昨日も食べたけど美味かったもんな、食べ応えもあるし。

今から晩御飯が楽しみ。

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