第147話 「問題を排除しに俺が動きますよ」

一応資産の話も一段落付き、シンシアへの話も逸れたところで気になった所を聞こうと考えをまとめている俺、クルトンです。



「そう言えばチェルナー姫様のお体は快方に向かっているとの事でしたが具体的にはどのような変化が有ったのですか?

お体に負担を掛けない様に付与の効き具合は十分に調整はしたつもりですが、気になる所は無かったでしょうか?」


シンシアへ俺の仕事の内容を説明した際、チェルナー姫様が『来訪者の加護』持ちである為にこの世界では極めて脆弱な個体である事、一般人と同等の生活を送る為の補助具として俺が付与付き腕時計を製作し、納品した事も伝えている。

だからか姫様の症状に興味を持っていたのだろう、シンシアは狸を撫でる手を止め俺達の話にじっと耳を傾けている。



「ええ、何もかも変わったと言っても良い位ですよ。以前より明るくなりましたし前向きな話題も、食事の量もかなり増えました(笑)

笑い声も随分大きくなって・・・」


ヤバい、アスキアさんが泣きそうだ。



「まだお屋敷の庭までですが散歩も日課になりましたし・・・そうですね、もともと小柄なお方でしたが食事の量と運動のお陰でしょうか、身長が急に伸びましたよ」


ちょっと体の変化が急すぎるような気がします、関節などに痛みが出るとか言ってませんでしたか?


「何もおっしゃってはおられませんでした。辛そうなそぶりもありませんし大丈夫かと」


そうですか、俺は医者ではないので何とも言えませんが、焦らず過ごして頂ければ問題なさそうですね。



「本当にありがとうございます。内謁時に姫様から感謝のお言葉が有りますが先に私からも」

胸に腕を交差させ頭を下げるアスキアさん。



取りあえず俺の仕事で幸せになる人が姫様以外にもいた事が嬉しく思う。

次の仕事のモチベーションにもつながる大事な事だから。



”クイクイ”

「姫様はそんなに重い症状だったの?」

袖を引いてシンシアが聞いてくる。


「そうだね、でも『来訪者の加護』を持つ者の宿命の様なものさ。

この世界で生きる為だけに持てる力をすべてつぎ込まなければならない宿命、とても大きな試練を背負っていると言ってもいいだろうね」


「今の話だと姫様はそれを克服できたの?」

ああ、そうみたいだね。

まあ、そうなる様に補助具の機能を腕時計にぶち込んだんだけども。



「今回の腕時計は国王陛下からの依頼でもありましたからあれ程の物になりましたが王族以外の貴族、平民含め『来訪者の加護』を持つ者へも補助具として広く普及させたいと姫様が申しておりました。

腕時計と同じとは言わずとも普通に生活できる程度の性能を発揮する廉価版の補助具の開発を、チェルナー姫様からの提案として陛下が王命を発せられるかもしれません。いや、早いうちに必ずクルトンさんにお話が行くでしょう」


そうですか・・・まあ、腕時計の実績がありますのでさほど時間はかからないと思います。

何か有っても動作が停止しない様に施したスペア、バックアップ機能の方が付与の刻印スペース取ってたくらいですから動作条件を絞ればさほど難しくはないでしょう。


「大変頼もしい返答ですが・・・それ故にクルトンさんの技能が恐ろしいですね。

これだけの技能を持つ宝飾職人の事は・・・クルトンさんの事はご自身の意思に関わらず表の情報として色々出回るでしょう。さすがに姫様を救った補助具としての腕時計の存在を秘密にし続ける事は叶わないでしょうから」


そう、それなんですが今から対策しておきたいのです。

今のところインビジブルウルフの名の方が先行して俺、クルトンまでたどり着いていないようですがそのうち認知されるのでしょう、そうなってからでは対処に限界があると思うのです。


ここでソフィー様が話に加わる。

「そこは大丈夫よ。少なくとも国内ではあなたの情報は守られ、国外へは完全に秘匿されます」


なぜにそう言い切れるので?


「3日後の内謁時に説明があるわ、きっと」

チョットお腹が痛くなりそう。


「取りあえずあなたの事は内謁の時に改めて話しましょう。

では場所を変えますよ、ついていらっしゃい」



到着しました、修練場。

「おっ、インビジブルウルフ卿、待ってたぞ。遅かったじゃないか、大方ソフィー様のお小言に付き合ってたんだろう」


俺の脇に居るソフィー様が「失礼な!」と一喝するもレイニーさんはニヤニヤしている。


「それでお前の弟子のシンシア君はその子か?」

はい、ってか情報駄々洩れですけどどうなってるんでしょうか。

状況によってはこのままコルネンに戻る事になるかもしれませんよ。


「おいおい、そんな顔で睨むなよ、既に騎士団内では公然の秘密になってる案件だぞ。あのインビジブルウルフが弟子を取ったって、しかも騎士じゃなく治癒魔法師として」


・・・紹介するまでも無くシンシアの件は皆ご存じで?

「当然だ、フォネル男爵からくれぐれも粗相をしてくれるなと手紙まで来ている」


「だからフンボルト将軍はここに来るなと言ってある」と言いながら笑うレイニーさん。


まあ、仕方ないか。



「情報は既に周知されているけどやはり顔合わせは大切でしょう?挨拶代わりに誰かの怪我でも治したらどうかしら。腕前の確認にもなる事ですし」


ソフィー様、言ってる事は分かりますけどそんな軽率にシンシアを使わんでください。

これから何度も言うと思いますがまだ見習いで10歳の子供なのですからね。


しかも貴族の英才教育を受けてきた人たちとは違うのです、貴族たちの都合に振り回されて心を病んでしまったら誰が責任取ってくれるんですか?

師匠の俺が責任を取っても構いませんがその時は問題を排除しに俺が動きますよ、良いんですね?


少々イラっとしたので強い口調になってしまいましたが、ここでナアナアにしてしまうとこれが実績となって今後都合のいいように使い潰される可能性が無いとも言い切れません。


元老院にいたあんな貴族が他にもいるかもしれません。


時間をかけて信頼関係を構築し、騎士団員すべてがシンシアをバックアップしてくれているコルネン駐屯騎士団員さん達への施術とは違い、ここで軽々しく施術した『不都合な実績』が尾びれを付けて王都に泳ぎ出したら俺の腕っぷしではどうにもならんのです。


ここの騎士団員さん達はそんな事無いでしょうが耳聡い貴族が無茶ぶりしてこないとも限りません。


ここは一歩も引けません、大麦村の親御さんから預かっている大事な子なのです。

俺が責任持つと約束したのです。

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