第146話 まだ終わらない
ソフィー様から愚痴にも似たお説教を受け恐縮しきりの俺、クルトンです。
内容がヒートアップしていきます。
「少しは考えてごらんなさい、良いですか?よく聞きなさい。
平民の出自でありながら、
爵位の最下位とは言え直接陛下から騎士を叙爵し、
魔獣5頭の単独討伐、
スレイプニルとグリフォンを捕獲して調教、
公開訓練では騎士20名と将軍のフンボルト、グリフォンを駆る『二つ脚の魔獣』と引き分け・・・これは実質貴方の勝利なのだけど、
瀕死のレイニーに施した高度な治癒魔法を行使できて、
元老院のダニどもに引導を渡し、
チェルナー姫様のお身体を救い、
国王陛下、宰相閣下の覚え宜しく、
王笏の製造と陛下肝入りの騎乗動物の繁殖事業の責任者で、
これだけの資産を所有している。
どう?適当に功績を並べたけど周りの者達が貴方の正体を知ればどう立ち振る舞うか想像がつくのではなくて?」
「そもそも魔獣殺しの英雄と言うだけでも末代まで語り継がれる誉れなのですよ、自覚していますか?」
はい、誠に申し訳ございません。
全く自覚しておりません。
あと『元老院の件』は功績になるのですか?
あれは単に俺が囮に使われただけの様な気がします。
あ、いえ、滅相もない、おれの勘違いですね、ハイ。
「とにかく貴方の正体を掴もうとコルネンに放たれる間者はこれからも増え続けるでしょう。
貴方への心配はしていませんが巻き込まれる周りの者の事も考えて行動しなさい」
肝に銘じておきます。
「確か貴方の歳は19でしたね、婚約者を早々に選出する様にカンダル侯爵に進言しましょう。
いえ、貴族なら早いわけでもありませんよ。
これだけでもかなり面倒ごとが減るはずです」
是非に。
再度テーブルに額を付ける俺の図が完成。
「今更ですが・・・動いているのですね、その腕時計」
ええ、自信作です。
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「あー、それからアスキアさんへの話しをしてしまって良いですか?」
「構わないわよ」
ソフィー様がそう言って隣に目を向ける。
テーブルの上に置いてある俺の資産の話は無かったかの様なそぶりだ。
そして、そう彼は最初からこの部屋にいた。
いないかの様に振る舞ってはいたが、この時はじめて目が合う。
「金庫できましたよ」
「本当ですか!」
ええ、泥棒、盗賊達への防犯対策を出来る限り盛り込みました。
絶対とは言いませんが今出来る最良だと自負しています。
レイニー伯爵様と一緒に現物の引き渡しに合わせ説明したいのでアポイントとって頂けませんでしょうか。
「承知しました、日程を調整しましょう」
これで一つの仕事が片付く見込みが立った。
「ではこちらからも。クルトンさん、陛下との内謁の件ですがその際にチェルナー姫様も同席したいと。ぜひあの腕時計の製作者に会ってお礼がしたいとおっしゃっておられます」
仕事として対価を頂いて拵えた物ですからお礼なんて気にしなくても良いのですけど。
「それでもですよ。今まで出来なかった事が出来るようになって姫様もとても明るく前向きになられました。もともと聡明な方でしたから今は国に対して自分ができる事は何かと皆に意見を求めているところでもあります。
クルトンさんなら姫様とそんなお話も出来るのではないのですか?」
何を期待しているかは分かりませんが、私は1年前まで開拓村で鍬を振るっていた平民ですよ。
王族のお相手できるほどの教養もありませんし。
「そう謙遜なさらずに。クルトンさんにとってそれは事実なのでしょうが一つ間違いがあります、身に着けておられる教養に問題はありませんよ。」
なんか俺を持ち上げてきます、こんな時は要注意です。
これから落とす気満々なのでしょう、知ってますよこの展開。
「そんなつもりはないのですけども・・・」
苦笑いのアスキアさん。
取りあえず資産の登録はお願いします。
現物を持っては来れなかったのですけど母にプレゼントしたネックレスも有るものですから。
「まだあるの!」
これは母の資産ですよ、本人が来られないので代わりに俺が手続きしようと思いまして。
「・・・仕方ないわね、職員を開拓村まで派遣させましょう、現物の確認は必須ですから。ああ、宝石鑑定士も同行させないといけないわ。護衛も必要でしょう、今回はなるべく目立たない者でないとダメね。・・・で、クルトンこれは貸しですからね」
はい、ではお礼にこのグリーンダイヤなんぞ如何でしょうか?
そう言いながらダイヤを差し出す俺。
「私に厄介ごとを押し付けるつもり?その考えが理解できないわ・・・」
額に手をやり俯く。
でももともとは薪ですよ?
そう言ってソフィー様を覗き込むと瞳のハイライトが消えていた。
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