第313話 「え?本当に僕が行くんですか」
この件をシンシアに話し、ご両親のもとに伺わないといけないだろう。
しかし領主のカンダル家は侯爵、つまりは上級貴族だ。
本来なら当事者であり言い出しっぺの領主様が行くべきなのだろうけど相手は平民、かえって迷惑が掛かる。
まずは俺が行った方が混乱しないだろうと結論が出て、直々にカンダル侯爵様からご両親への説明を任された俺、クルトンです。
さてさて、大変な役目を任された。
上手くまとまる様に頑張らないと、なんたって人生の一大イベントの準備なんだから手は抜けない。
けど今まで気付かなかった事にふと思い当たり領主様に訪ねてみる。
「現在セリシャール様には婚約者はいらっしゃらないのですか?」
そう、既に居てもおかしくないのだ。
先に述べた通りかなりの好物件だし本人自体も好青年、あと2年もすれは成人だったはずだし・・・貴族なら尚更。
セリシャール君が領主様に顔を向け、何か判断に迷っている様だ。
それに気づいたのか「コホン」と一つ咳払いをして領主様が話し出す。
「仮に知られていたとしても私の口から直接伝える事は出来ないのだけど・・・セリシャールの技能が関係していてね。
陛下からのアドバイスもあってシンシア嬢の様な女性が現われるのを待っていた・・・そんなところだ」
未来予知でも出来るんだろうか。
シンシアがこの世界に現われるのを事前に知っていた様な話しぶり。
「・・・そう解釈してもらって構わないよ」
もしかして俺の存在も予期されていました?
「ノーコメント・・・と言いたいところだがこれは話しても良いだろう。
全く予期していなかった、だから皆が君に引っ搔き回されているんだよ(笑)」
はい、すみませんでした。
言い訳させて頂くと、自分ではそんな気は全然無いのですけどね。
疑問も解決したところで話を進めよう。
まずは俺が養父になる事を了承してもらう事と、その後カンダル侯爵家に輿入れする事、この二つを説明して説得しなければならない。
俺が養父になると言ってもそれは書類上の関係で、それが認められればセリシャール君との婚姻準備として直ぐに輿入れする準備の為にカンダル家に迎え入れられるとの事。
治癒魔法師として活躍してもらうのと並行して侯爵夫人としての教育を受ける事になるのだろう。
礼儀作法とか貴族としての最低限の教養とか。
俺も成人するまでここの国名すら知らなかった位だ、だから意外とこの一般教養ってのに苦戦すると思う、けどきっと大丈夫。
ホント地頭良いんだよ、彼女。
呑み込みの早さがハンパない、俺が治癒魔法を教えている時もほとんど苦労しなかった。
何気に弓の腕も既に一人前だし。
取りあえずは今日シンシアに説明して大麦村に行く日取りを決めよう。
セリシャール君の予定も都合付けてもらわないといけないし。
「え?僕の予定ですか」
ええ、当然でしょう?ご両親への挨拶は当事者じゃないと色々マズいでしょう。
「え?本当に僕が行くんですか」
ん?もしかして地位の低い人、平民の方が自分達に挨拶来るべきとかと思ってるんですか?
勘違いしてはいけません、俺が免状発行していないだけでシンシアは一人前の治癒魔法師です、しかも成人前なのに。
王都でも聞きましたけど治癒魔法師は貴族より希少な人材って言ってましたよ。
ならこちら側から誠意を見せないと。
相手が平民だからって油断してたら横から搔っ攫われますよ。
ちょっと意地悪かも知れないが、このくらい言わないと育ちの良いセリシャール君は気付かないだろう。
最後の最後で詰めが甘いと取り返しのつかない事になってもおかしくないんですよ?
こんな一大イベントでは特に。
「いや、ええ、行きます、行きましょう!都合は幾らでも合わせます」
声は元気だが目が泳いでいて顔は青く、顔面を伝い頭から汗がしたたり落ちている。
効果は抜群だ!!
「インビジブルウルフ卿、あまり息子をイジメてくれるな。
これからの若者なのだから」
それを言うなら俺も『若者』だけどな!
「そう・・・だったね。けど本当に君19歳かい?」
もう直ぐ20歳だけどな!
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今日、夕食の時間に合わせてマルケパン工房に来てほしいとセリシャール君に伝えお暇する。
食事をしながら伯父さん一家もいる中で事情を説明する、正式ではないけど証人になってもらう為だ。
急いで下宿に戻りシンシアがまだ騎士団で仕事をしているうちに伯父さん達に話すと「ほう!ほうほう!めでたいじゃないか」、「なら夕食は豪勢にしないと」と言った具合に準備が進んでいく。
急な話しなのに皆が自分の事の様に積極的に動いて、店もあるのにかなり豪勢な夕食の準備が整う。
ほんとイベント事には手を抜かないよな。
馬車の車輪が転がる音が店の前で止まると「ただいま」とシンシアがオベラ、ペスと一緒に帰って来た。
脇にセリシャール君もいる。
今日は俺が迎えに行かなかったから、セリシャール君が馬車で送るという段取りで来てもらった。
「うわ!凄いご馳走、今日何か有ったの?」
うん、これからね。
「へえ~なんだろう?」
ご馳走から目を離さないまま俺に問いかけるシンシア。
取りあえず食べながら話そう、セリシャール君も座って、シンシアの隣に。
「・・・はい」
かなり緊張している様で「あれ?なんでいるの」みたいにシンシアに見られている事にも気付かない。
そんな事も直ぐに忘れた様な素振りでニコニコ、ウッキウキのシンシアとは対照的にガチガチで椅子に座っているセリシャール君。
そして祝い事?なので大皿に盛った料理を伯母さんが取り分け、準備出来たところで一斉に食べ始める。
暫く雑談が続き、相変わらず動きがギクシャクしているセリシャール君をよそにそろそろ場も温まったので本題を切り出す俺。
「えー、今日はシンシアに重要な話が有ります」
「ん、侯爵家への輿入れの件?」
何で知ってんの!?
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