インビジブルウルフ(見えない狼)と呼ばれて～ゲームスキルはやっぱりチート～

第312話 養父

はい、カンダル侯爵様のお屋敷に居る俺、クルトンです。

カンダル侯爵様の嫡男であるセリシャール君にこれからのシンシアの事を相談したところ、俺がカンダル侯爵様との面談を申し入れる前に「父上には話を通しておきます。明日でも良いですか？」といきなり日取りが決まった。

俺も早い方が良かったので二つ返事だったが今思えば彼方さん、領主であるカンダル侯爵様は大丈夫だったのだろうか。

後からそう思いはしたのだけど結果全く問題無く次の日である今、打ち合わせが始まっておりますです。

シンシア抜きで。

「え、シンシアいた方が良いんじゃね？」

と下宿先に迎えに来たセリシャール君に伝えたけど、今日の話し合いは逆に居ない方が都合が良いって。

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「急で済まないね、この件は間違いなく早い方が良いからね、勘弁してほしい」

いえいえ、それは俺も同じです、けど昨日の今日で正直驚きましたけどね。

「それ程の事だからね、あの娘は」

・・・実際のところ領主様から見てシンシアの評価はどうなんですか？

こうまで思わせぶりな話し方をしているって事は結構な高評価なんだろう、それは容易に想像できる。

治癒魔法の能力だけ見てもあの歳で既に一人前だから、今後の伸びしろを考えれば末恐ろしい。

「単刀直入に言おう、カンダル侯爵家としてはあの娘を手放したくはない。

それ程我々は彼女を評価している。

幸い当家の領民であるし何とか他領、それこそ王都ではなくここに留まり活躍してほしいのだ」

良いんじゃないでしょうか？問題無いと思いますが。

当人がまだ子供という事もありますけど親の居る場所の方が安心できるでしょうし、何よりもここの騎士団から受けるバックアップは彼女も相当感謝、信頼していますから。

「うむ、お前にそう言ってもらえると安心する。

でな、お前は故郷に戻るのだろうが”身元引受人”であるお前の体面を汚さない様に我々で責任を持つので彼女がコルネンに留まれる様に協力してほしいのだ」

具体的にどういった話で進めるのでしょう。

ここまでの話を聞くに領主様は初めから答えを準備しているみたいだ。

「シンシアを当家に迎えようと思う」

養子・・・ですか？

「父上、説明を省きすぎです。これだと要らぬ誤解を与えてしまいますよ」

領主様をセリシャール君がフォローする。

何だろう、少し語気がキツイ。

「ん、そうか？では順に話そうか。

そうだね・・・、彼女が優秀な治癒魔法師である事は今更だが、何か気付かなかった？」

？何の事だろう。

「そもそも希少な治癒魔法師ではあるが、女性がその能力を発揮するのは極々稀な事なんだ」

ああああ！なるほど。

そう言えば女性の治癒魔法師は過去の偉人ロミネリアさんと王都のパルトさん位しか俺は知らないな。

他にもいるんだろうけど治癒魔法協会の診療所にはいなかったし・・・そう考えるとパルトさんって凄く希少なんじゃね？

「それだけじゃない、検証事例が少なすぎて未だ確証には至っていないのだが女性の治癒魔法師から生まれる子には高い確率で治癒魔法の適性があるという」

何ですと！何でそれ早く言わないんですか・・・いや、言われても何も変わらなかったな。

安全確保の為に護衛を増やすにも今既に騎士がいつも側に居る状態だし。

「言っただろう？未だ確証に至っては居ないと。

しかし文献に残っている物も含め伝承には記録が確かに有ってね、そう言った意味でも当家に迎え入れたいんだ」

御両親の意向も有りますがその辺は問題無いのでしょう？だって侯爵様の子になるんでしょうから。

何なら御両親をコルネンに呼んで一緒に暮らしても良いでしょうし。

「いえ、その・・・その辺はもうちょっと説明が必要でですね」

セリシャール君の歯切れが悪い。

「話を進めるよ、これからの件だがインビジブルウルフ卿には身元引受人ではなく改めて養父として、シンシアを養子として迎えてほしい」

え！俺結婚もしてないんですけど子持ちになるんですか？

「そう言う事になるね。

一応君の娘が当家に嫁ぐという体裁を整えたい」

ああ、シンシアがカンダル侯爵家に輿入れする為の準備か・・・・。

え！！誰と！？

公爵様じゃないですよね！

「馬鹿言わないでくれ、セリシャールとの縁組だよ。」

今のは冗談です。

しかしそうですかぁ・・・。

この世界、貴族であればなおの事婚約は早い。

何なら生まれたその時に決まる事が有るくらいだ。

それにこの国で成人は満18歳であるが結婚の年齢制限を定めている法律は無い・・・はず。

改めてセリシャール君のスペックを確認すると・・・人柄は温厚でカンダル侯爵家の嫡男としての地位も約束されている。

騎士としては平凡な身体能力ではあるもののそこは騎士、一般人と比較すれば隔絶した能力を持っている。

深く考えなくてもかなりの好条件。

平民からしたら前世の宝くじが当たる確率よりも圧倒的に低いだろうし、第三者から見ても断る理由が無ぇ！

もうこの波に乗るしかねぇ！！

一緒に居た時の振る舞いを思い出すも、お互いまんざらでもない様だったしね。

はたから見れば仲の良い兄妹に見えなくも無いが、それは時間が解決していく事だろう。

改めて本人の気持ちを確認する必要が有るけど多分問題無い。

そう思わせる位にお互い仲いいし、俺としても憂いなく故郷に戻れるからWin-Winの提案だと思う。

何れにしても一度ご両親をコルネンに招待して両家で正式に話をした方が良い。

貴族たちだけで「僕が考えた最善の結末」とか言って事を推し進めても相手が有る事、もしかしたら平民の両親には承服しかねる事があるかもしれない。

それを洗い出し、お互い歩み寄る為にも顔合わせが必要だろう。

幸いシンシアの故郷の大麦村までは馬車で半日も走れば十分着く。

具体的な準備、日程が決まればすぐにでも迎えに行ける。

「では明後日ではどうでしょうか？」

いや、早すぎるよ、なんで貴族様なのにそんなにフットワーク軽いの？

俺の準備が整いません。