第314話 義務と名誉と運命
場の空気が”ピシリ”と固まり、叩けば音が鳴りそうな状態でどうしたものか一からプランを練り直している俺、クルトンです。
俺の脳内でアナザークルトン同士が会議を開始、早々にこの緊急事態の対処方法をまとめ、その結論を口にします。
「じゃ、じゃあ早速ご両親へ挨拶に伺わないと、いつにしようか?」
何事も無かったかのように話を進める、え?初めからそのつもりでしたけど?
「うーん、今は忙しいだろうから再来月の上旬以降なら大丈夫だと思う」
・・・凡その日程は決まったよ。
セリシャール君はそれに向けて準備を進めておいてね。
「ハ、ハイ!」
キョトンとしていたセリシャール君が正気に返る。
なんだよう、セリシャール君。話は通ってたんじゃないかよう。
「・・・騎士さん達の話と態度を見てれば大体想像つくの。
冗談でも真顔で”侯爵夫人?”とか言われたら気になって調べるの」
誰だよ、そいつ!
「ラールバウさん」
ああ・・・彼か。
俺と同じ平民出身の成り上がりの騎士で、本人の意思と関係なく王都で『インビジブルウルフ』と間違われ面倒事に巻き込まれてた人だ。
デデリさんにスカウトされて騎士と成った(ほぼ間違いなく)『精霊の加護』持ちだろう人。
あの人真面目だもんな、冗談は通じるんだけどそれをいなすのが苦手と言うか。
嘘が付けない誠実な人だから、シンシアが将来自分の上司になるであろうセリシャール君のお相手となると、今までの態度を改める必要を感じたんだろうな。
彼なりに気を使ったんだと思う。
だから責めないでほしいとセリシャール君に伝える。
「とってもいい人だから責めるのはかわいそうなの」
シンシアもそう言ってるし。
「ま、まあ今回は話が早く済みましたし、問題無いです」
セリシャール君から言質を取って皆がホッとすると食事の活気が更に増して、今度は忖度なしの祝福の言葉を皆から送られ二人とも赤くなっていた。
改めて言うがセリシャール君は16歳、シンシアに至っては11歳だ。
後10年もすれば夫婦としてお互い全く違和感ない年齢だが今時点ではシンシアはまだまだ子供、大人の庇護下で好きな事に挑戦したり勉学に励む年齢で、故郷に居たのなら膝の怪我が有るとはいえ家の畑の手伝いをする事になっていただろう。
思えば・・・俺と出会わなければ、俺がコルネンに出稼ぎに来なければ交わる事無く、俺の運命に巻き込まれる事も無かった。
多分故郷の大麦村にいるよりも命の危険にさらされる事は少ないだろうし、生活そのものも上質なものに囲まれて過ごす事が出来るだろう。
御両親への孝行もこれ以上ないものだろう。
「だけど・・・」
この世界では大きな力を持つ者は大きな責任を担う、それを果たす事を明確に求められる。
いや、『責任』と軽々しくいう事も躊躇うくらい、これは本人が望む、望まないに関わらず強いられる義務であり名誉であり運命だ。
まあ、その覚悟を今ここで問うのも野暮だし、まだ『子供』であるシンシアへ強いるのも大人としてどうかと思う。
今日はとりあえず祝福しよう。
幸いセリシャール君も含め強力な暴力装置である騎士団に守られている限り、ここ以上に安全な環境は早々無いだろうから・・・正式に結婚するまでの猶予もある事だし。
明日もパン屋の朝は早いので今日は夕食の後は速やかに後始末を済ませ就寝した。
セリシャール君も食事が終わった後直ぐに帰って行った。
その姿はなんだかホッとした感じが読み取れたが「これから領主様に報告するんでしょう?」と言うとハッとして少し慌てた様に馬車を走らせて行った。
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さて、今朝もシンシアを修練場に送って行ったあと厩舎に向かう。
テホアとイニマの訓練もそうだが、そろそろ俺の使用人となるあの貴族達(とその部下)の受け入れ準備を始めないと間に合わなくなる。
結局11人になったって話だからなぁ、今テヒニカさんが居る新築したあの宿舎でもギリだ。
だから材料を準備してもう一棟作ろうと思う。
ここは王都よりも建築に関する法律はゆるゆるだし、更にその法律も都市内でないと適用されない。
つまり厩舎が有る郊外は土地を使用する届け出さえ出せば、よほど非常識な物でない限り何を建てようと問題にならない。
スクエアバイソンのドックでも大丈夫だったし。
11人ともなれば寮みたいな感じが良いかな、キッチンとダイニングは広く1箇所にまとめトイレも数人一ぺんに使える位の広さの物を3箇所設ける。
風呂もあった方が良いな。
個人の部屋もベッド、テーブル、椅子などおいても十分なくらいのスペース、16畳位にするか。
タンスや鏡台なんか持ってくるかもしれないし。
日本人の感覚でだと結構広く感じるかもしれないが ベッドだけでそれなりに場所を取るし何といっても相手はお貴族様だ。
俺が十分と思っていても狭く感じる人も居るかもしれない。
でも生活空間として不都合を生じることは無いだろうからこれで進めよう。
何処に立てるか場所を厩務員さん達と相談して決める。
二階建てにするつもりだから日当たりや風の向きなんかも一応気にして確認、「こんな感じでしょうな」と地元コルネン育ちの厩務員さんからアドバイスをもらって建設予定区域に杭を打ちロープで囲む。
別に進入禁止と言う訳ではない、「ここに建てますよ」と言う意思表示だ。
それにイメージだけだった建物の広さが目で見て実感できるようになった。
「結構な広さですねぇ、しかも二階建てにするのでしょう?
いやはやかなりのものが出来上がるのでしょうなぁ」
まあ、手を抜いてしょっちゅう修繕費が掛かるのは勘弁なんで出来るだけメンテナンスフリーになる様に仕上げるつもりです。
「え?と言うと石材でも使用するんですか?運ぶだけでも結構金掛かりますよね」
いえいえ、具体的には土魔法を併用してですね。
「ああ、インビジブルウルフ卿は魔法も得意でしたな、なら問題無いでしょう」
厩務員さん達と宿舎の建設について意見を色々交わしながらの雑談は思いのほか心地良く、そのまま夕方まで話し込んでしまった。
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