第315話 一夜城
幾日か経過し、スクエアバイソン厩舎脇に宿舎建設の為の資材が山の様に積み上がっています。
今晩にでもハウジングで宿舎の建設を行おうと段取りしている俺、クルトンです。
昼だと人の目についてしまうからね。
いつも通り事前に組み上げた模型を持って来て建設予定地に掲げてみる。
・・・うん、良いんじゃね?
外観は前世で言う木造アパート、”ただの9発屋”と言われたレジェンド女性漫画家の作品に出てくる、未亡人が管理人のあのアパートを彷彿とさせる外観である。
所謂昭和に建設された木造アパートの様な感じ。
でもこの国で言えば広さも強度もトイレ、お風呂含めた設備も一線を画す住居になる予定。
俺の事業の窓口事務所も必要になるだろうから何気に1階部分は広い空間が必要になるので強度マシマシで設計した。
設計と言っても模型に俺が素手で負荷を掛け、”ミシリ”と聞こえた箇所の柱を太くしたり、壁を厚くしたり構造ではなく質量を増す事で強度を上げていく。
構造で解決する方法もあるんだろうけどその辺の知識は俺は疎いし、この方法なら強度と一緒に耐久性も上がっていくし、何より単純だし。
一応1階天井の梁の部分は支える柱も少なくなる為に、軽さも重要になってくるからトラス構造にしたけどね。
「明日の朝には完成するんでしょう?大したもんですなぁ」
厩務員のおっちゃんが話しかけてくる。
ハウジング様様ですね。
本当にものづくりには欠かせませんよ、この技能は。
「ハッハッハッハッ」とわざとらしく笑い、クラフト系の技能と誤解して貰う様に思考を誘導します。
俺の小世界を作り出す技能ハウジングは、べらぼうな魔力を消費する事と場所を限定しなければならない制限がある代わりにかなり強力。
なので出来るだけ警戒されない様に、”便利な技能”程度で勘違いしてもらえる様に出来るだけ簡潔な言葉を選んで受け答えをしています。
嘘は付けないのでそんな言い回しになってしまうが、厩務員さん達はそんな俺に忖度してくれてるんだろう、特にこの話題に言及することなく軽い話題が続いて行く。
「ほんで王都から来る方は使用人でしたか、クルトンさんの事業のお手伝いするって聞いてますけど・・・こんな場所で大丈夫です?」
ここはスクエアバイソンの厩舎脇なので完全に郊外。
そんで食料品買い出しに行くにも一番近い市場が歩いて30分以上かかる。
まあ、不便ではある。
厩舎の職員の方達については領の予算が付けられ、一定期間毎に食料や生活雑貨などが届けられるし、嗜好品なんかは各々休みの日に買い出ししているから問題無いが・・・さて、どうしようか。
テヒニカさん一家は毎日俺がテホア達の訓練の為伺うので都度必要な物を購入、渡している。
特にパンなんかは毎日持って行ってるよ。
小さくても馬車とロバでも準備した方が良いか。
そういや俺も何頭かロバ手に入れておいた方が良いな、実家の開拓村ならかなり重宝する。
あのサイズであの積載量はかなり優秀。うん、近いうちに買いに行こう。
話がそれた、
「一応更生保護的な意味合いもありますから、少々不便なくらいが丁度良いのかもしれません」
そう言うと「更生保護・・・なんかやらかしたんでしょうな」と呟いた後は特にその件に言及しては来なかった。
ここも忖度してくれたみたい。
さて、もう少しで陽が沈む。
シンシアを迎えに行って夕飯を食べたら始めよう。
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陽もとっぷりと沈み、郊外のここは宿舎の光だけが唯一の光源。
電気を使った照明なんて無いから、光や炎の魔法が使えない人達は蝋燭や油がもったいないので早めに就寝する。
だからそう待つことなくここは完全な闇に覆われるだろう。
そうして待っていると諸々の準備が整い宿舎建設区画に移動、ハウジングを展開して仕事を進める。
資材のすべてが俺に紐づけされ、模型を参考に実物大の部品にスルスル加工されていく。
そうして加工された部品が基礎の方から柱、床、屋根、壁と次々組み上がり宿舎の形が影となって俺の前に具現化する。
各部品の勘合部の精度を気にしながら建てたので少し時間はかかったが、相変わらず一人で拵えたとは思えない規模、時間で厩舎の建設が終わった。
俺の少し前に光の魔法で光源を作り早速中に入る。
因みにここは玄関で靴を脱ぐ様式にしている。この方が外の砂なんかを持ち込まず掃除が楽になるしね。
うん、雨戸付きの窓も上手くできた。
前世のサッシを思わせる大きな窓があるお陰で室内空間がより開放的に感じる。
トイレもお風呂場も良い感じだ。
因みに風呂にはまだお湯を沸かす、もしくは温泉を引く所まで済んではいない。
温泉が湧けばお湯を沸かす手間もいらないし、飲料用にはできないまでも洗濯や食器の洗い物なんかで使うのも有りだろう。
スクエアバイソンたちを洗う時にも使えるかもしれない。
温泉が湧かなかったときはお湯を沸かす事になるが、それなりのコストが掛かる。
通常なら結構な量の薪を消費しなければならないがそれはそれで面倒。
ガスや電気でお湯を沸かしていた前世の俺の感覚だと、そんな手間は出来るだけ省きたい。
俺がその仕事を任される立場になくともだ。
であれば謎エネルギーの魔素を当てにした付与魔法に頼る事になるだろう。
明日以降はこの辺の水回りを整えていこう。
この世界でも基礎工事と水回りの設備に多くのコストが掛かるんだよね。
でも、水回りが快適になれば生活水準は一段も二段も上がる。
そうだな・・・テヒニカさんと厩務員さんの宿舎もこの辺りは改築しようかな。
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