第316話 ここにも掘ろう

翌朝、ハウジングで地質調査を行っている俺、クルトンです。


幸いなことに範囲を狭めればその分だけ必要とする魔力量も減る為に細い棒状の区域に制限して地下方向にハウジングの範囲を広げる。

地質調査と言ってもハウジングの機能に任せて俺の頭の中に流れてくる情報を確認するだけ。


それでも5回ほど行い本日は終了。

昨日の思い付きから温泉を探しているがそう簡単に源泉にはぶち当たらない。

当たり前と言ったら当たり前、でもハウジングの機能で確認した後に掘削するから失敗する事が無い。

失敗しないなんてこれまたチートだな、前世ならこれだけで食っていける。

建造物の基礎工事、トンネル掘る時とか工場で使用する地下水の確認だとか。



因みに最近知ったが温泉よりかなり浅い場所、井戸の為の水源であれば確認する魔法はあるそうだ。

太古の大災害後に必要に駆られて開発したという経緯もあった様だが、それを可能にした優秀な魔法使いが居たらしい。

水は死活問題だからそりゃ躍起にもなる。


もうその大魔法使いの名前は忘れられた・・・と言うよりあまりに伝承が曖昧で年月も経ってしまっているから地域ごとに呼び方が変化してしまったらしい。

ここでは『水の大魔法使いボダ』と言われているけど、この国の中だけでも別の地域では『ワタ』『ワサー』『アグ』とかホント色々呼び方があるみたい。

各地に水が湧く場所を調査して回ったその最中に名のった名前が違ったとか、実は別人でお弟子さん達と手分けしてやったから地域ごとに違うんだとか色んな説があるが、いずれにしても今まで伝承され、とても尊敬されている大魔法使い。



そんな大魔法使いの苦労など微塵も関係しないハウジングでの調査、しかもより深層の温泉の源泉が確認できる技能ときたもんだ。

当時のその大魔法使いが俺を見たら自分たちの努力を無為にする様なその理不尽さ加減に癇癪も起したくなるだろうな。

故に謙虚にこの力の使いどころを間違えないようにしないと、傲慢に思われでもしたらいい事なんて無い。


さて、この場所はもう少し深い箇所を確認した方が良さそうだ。



魔力に余裕があるうちに一旦切り上げ騎士団修練場に向かう準備をする。

以前護衛の傭兵隊長のギライカさんからグリフォン見学の許可をお願いされたからその件でだ。


この護衛隊長でもあったギライカさんはデデリさんとも知り合いと言ってたから、直接修練場に行って正式に申し込んだらどうかとも思ったんだが、

「グリフォンですよ?グリフォン。

幾ら知り合いとは言えデデリ大隊長の一存でホイホイ一般人に見せていたら見学者だらけで仕事に支障をきたすくらい押しかけますよ。

”仕事”で”インビジブルウルフ卿”に面会しに行った時に”たまたま”本当に偶然、タイミング良くグリフォンが見れたって事にしないと迷惑掛かるじゃないですか、後々に」


なるほど、知り合いという事もあって彼なりに迷惑を掛けない様に気を使ったわけだ。


この事をデデリさんに話すと「妥当な所だな、『偶然』なら変な前例にならないから何かの時に俺も断り易い」と言いながらグリフォンの見学を了承してくれた。



なのでその件も踏まえ本日午後、修練場に来るようギライカさんに伝えてある。

俺も昼食取ったら修練場に向かおう。



「や、やあ!インビジブルウルフ卿(棒)」

修練場門前、遠くからでもソワソワしている様子が丸分かりなギライカさんに近づくと、わざとらしく俺にそう声を掛けてくる。


どうやらここから茶番は始まっている様だ。

「こんにちは、それじゃあ先日の護衛の件で報告書の確認しましょうか。

中の部屋を借りてますからそこで話しましょう」

俺と一緒に修練場内奥、事務所の部屋に向かうフリをして中に進む。





途中騎士さん達が訓練している広場、修練場の脇を通ると打ち合わせ通りデデリ隊長が空から舞い降りてきた。


”バサァーー”と砂を巻き上げて着地した後ポポが羽をたたむと、颯爽と鞍から降りてくるデデリさん。

すげえ様になっててかっこいい。


隣のギライカさんはそんなグリフォンに目が釘付けでポポを向いたまま固まっってる。


「よう、ギライカじゃないか、この前王都で会って依頼だな。今日は何用だ?」



「・・・」

(ほら、ギライカさん、台詞、台詞!)


「!!いやあ、本日はこの前の護衛の件で報告書の読み合わせをインビジブルウルフ卿と約束していまして(棒)」


「そうか、お前はいつも仕事熱心だからな。どうだ、お前も馬が好きだったろう、俺のポポでも見ていk・・・」


「ぜひ!」

デデリさんの話しにかぶせてくるギライカさん、そう言うや否やポポに近づこうとしてデデリさんに首根っこ掴まれて止められる。


「コラ!お前程度ではポポからついばまれて怪我をするのがおちだ。腕一本くらいなら平気で持ってくんだぞ、俺の脇で大人しく見てろ」

デデリさんが先にポポに近づいてその脇を大人しく付いて行くギライカさん。

クウネルと違ってポポは普通のグリフォン、つまり気性が荒い。

まあ、これはクウネルが大人しすぎるんだが。


デデリさん以外でポポを御しきれるのはフォネルさんと俺しかいない、それくらい気性が荒く体躯も立派だ。


ギライカさんが脇から覗き込む様に、むさいおっさんとは思えないキラキラした澄んだ瞳で見ている。

流石に触ったりは出来ないがそれでも至近距離から暫く眺めて満足したらしい。


デデリさんにお礼を言って俺の方へ戻って来ると「素晴らしい。ほら、まだ震えが止まりませんよ」と言いながら俺に掌を見せてくる。


そうして始終幸せそうな顔でいるギライカさんと建前上本来の目的とされている報告書の読み合わせの為に奥の部屋へ向かって行った。



部屋に入りギライカさんと一緒に、俺の記憶との齟齬が無いか報告書の内容を読み合わせしていると、ポポを厩舎に預けてきたデデリさんが部屋にやって来た。


「魔獣2体と遭遇したんだって?それも街道から目視できる距離に現れたって話しじゃないか」


さっきとは打って変わって真剣な顔で俺たちに当時の状況を確認してくる。

「索敵の精度が上がったのも有るかもしれないが、ほんの数か月前まで目撃情報が減っていたのに最近討伐件数が増えてきた。

お前がワザワザ見つけて来るってのもあるが」


それは誤解だと思います。

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