第257話 「きっとこの子達は今も幸せですよ」
ゴーレムの試作に取り掛かり5日目の俺、クルトンです。
無事3機完成した。
しかし、すっかり治癒魔法協会の件を忘れていました。
「はは、貴方らしい」
プサニー伯爵が俺を訪ねてきてそう言います。
「話は聞かせてもらいました。全く、向こうは礼儀をどこかに忘れてきてしまった様ですな。
来年度の予算計上の際には実績の査定、監査方法を改める様に各署に通知しておきましょう」
ワオ、暗に国からの補助金減らすって言ってるよね。
これに応じて治癒魔法協会側では補助金申請時に国へ提出する書類が増え、つまり付帯業務が増えるって事になるだろうから、これに割く人員を確保しないといけなくなる。
つまり人件費が余計に掛かる、コストアップって事だ。
地味に効いてくるんだよな、こういったのは。
「それで、こうなりますと真正面から乗り込むおつもりで?」
ええ、”真正面”から乗り込みます。
多分誰も俺に気付いてくれないと思いますけど、それは仕方ないですよね。
ちゃんと正面から伺って見学させて頂くだけですし。
「そうですね、・・・くっくっくっ・・・仕方ありませんね・・・ブフォ!」
なぜかツボに嵌ったみたい、でも俺面白い事言ってないよね?
「くっくっ・・・いや・・・あいつら危機管理意識無いのですかね・・・くっくっ・・・」
そんなに可笑しいですか?
「これは失敬、しかし笑わずにはおれませんよ。いつもスカしたあの顔が・・・プッ、どんな間抜け面になるかと思うと」
・・・それで何を"見学"してくればいいですかね?
アドバイスとか頂ければありがたいのでs・・・。
「帳簿ですね」
俺の言葉にかぶせて速攻返事が来た。
しかも今まであれだけ笑っていたのに真顔で。
「証拠を残さない盗賊団などは原則口約束がですけど、奴らでさえ最小限の帳簿、誓約書は作ります。
そうでないと言った言わないの水掛け論で闘争まで発展する事になりかねないですからね」
へえー、まあそうか人の記憶なんて曖昧ですしね。
「ええ、書類無しで事が済む者など我が国ではニアファイズ家だけでしょうから」
ああ、なんか凄いんでしたっけ、フンボルト将軍の家系って。
「わが国最古の系譜を持つのがフンボルト将軍のニアファイズ家ですからね、その点で言えば王家以上ですよ。
その歴史が全て口伝で引き継がれますから人の域を超えております。
その力を授けられたセリアン様の力は計り知れませんな」
あんだけリミッター外れた様なバカ声で話すのに、皆から尊敬される位の能力持ってんだもんな。
「それで帳簿と言う帳簿を全て手に入れて頂きたい。
いや、スクリーンショットでしたか、記録が正確に取れればそれでもかまいません。
それが有れば金の流れから人員も、権力が集中している組織も、懇意にしている貴族等・・・あらゆることが分かります」
流石ですね(汗)
まあ、問題無いでしょう。
場合によっては皆が一斉に"昼寝"してしまうことも有るかもしれませんしね。
「くっくっくっ・・・本当にあいつらバカじゃなかろうか・・・くっくっ・・・『見えない狼』を軽んじるとは、本当に・・・ブフォァッ」
え、俺まだ面白い事言ってないですよね?
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プサニー伯爵が退出してから思考と今後の行動を整理する。
治癒魔法協会に向かうのも重要ではあるが、テホアとイニマに先に会っておこう。
未だ日にちは決定してないけど、俺はそこそこ近いうちにコルネンに戻る事になるだろう。
テホアとイニマも家族と一緒に移動しなければならんだろうな。
あと結果オーライではあるが押し付けられたタントルム伯爵はじめ合計7名。
これは諸々始末が付いた後にコルネンに呼び寄せる事になるだろうが・・・流石に先にコルネンの騎士団に連絡して俺の拠点を確保してもらわないとまずい。
マルケパン工房に居候させるわけにもいかないし。
・・・しかしテホア達は今でも騎士団宿舎に居るのかな、聞いて来よう。
「おう、いるぞ。宿舎の雑用と食事の準備とかしてもらってる」
丁度見つけたスージミさんを捕まえて、所在を知っているか聞いたところここで働いているとの事。
良かった、ちょっと会えますか?
「ああ待ってろ、おーい、誰かテヒニカさん呼んできてくれ!
それと・・・事前に聞いてはいたがコルネンに連れていくのか?」
ええ、そのつもりです。
「そうか・・・寂しくなるな」
お、双子たちは騎士団さん達にも可愛がられている様だ。
別れを寂しいと言ってもらえるまでになったみたい。
暫く待っているとテホアの家族全員でこちらに向かって来た。
「「クルトンさん!」」
テホアとイニマが走って来て、胸には俺が拵えた狼のペンダントが揺れている。
ああ、久しぶり。
大事な仕事も一段落したんでね、今後の件で相談しに来たんだ。
確認したい事が有ってここでハウジングを展開する。
・・・ああ、そうなのか、気が重い。
けどきっと大丈夫だ。
両親も直ぐに追い付いて俺に頭を下げてくる。
「こんにちは、インビジブルウルフ様。お呼びとの事で」
いやいやいや、クルトンでいいですよ。
これからの件で相談をしに来ただけなので、そんなに畏まらないでください。
「はい、ええ、しかし・・・」
ご両親が互いに目を見合わせた後に、俺をチラチラ見るという戸惑った仕草を見せる。
まあ、いいか。
そのうち慣れるだろう。
所詮俺の出自は開拓村の長男、そりゃ普通の人から見たら俺の力は特別に見えるだろうが、この世界に存在出来る事自体が人類の括り、誤差範囲に入っている証だろうから何れ分かってくれるだろう。
話しを進めてしまおう。
勘違いさせない様に真実を端的に伝える。
「王命ではありませんが直接国王陛下から貴方たち家族の事を任されました。
特にテホアとイニマについてはその特異な力を制御し、それに耐えうる事が出来るよう身体能力の底上げの為に”俺の”指導のもと訓練を行います」
”ビクッ”と両親の方が跳ねる。
「それで・・・この子達は幸せに・・・なれますでしょうか?」
父親、テヒニカさんがそう聞いてくる。
自信なさげにだか確認せずにはいられないのだろう、唇が少し震えている。
「貴方は何か勘違いをされている様だ。きっとこの子達は今も幸せですよ」
今度は少し泣きそうな顔で俺を見るテヒニカさん。
「安心してください、貴方たちの仕事も含め生活の後ろ盾には王家が付きます。
そして降りかかるかもしれないあらゆる災難は俺が排除します」
「ヒュー!!」
ほら、スージミさん、茶化さない!
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