第258話 スイッチング
どうしても伝えないといけない事、それを今話している。
心配させない様に慎重に説明を続ける俺、クルトンです。
「え、そうなのですか?
このままではどうなってしまうのですか?!
この子達は!」
ご両親が少し取り乱している。
気持ちは分かる、前世で言えば治る見込みが無い難病を抱えている事を告知された様なものだ。
寿命も縮むとなれば心穏やかではいられないだろう、当然だ。
この世界では親より先に子が土に還る、それは前世の記憶を持つ俺が考えるより遥かに重い悲劇である。
悲しみを断ち切るために自ら命を絶つ発想はこの国の人達には無いが、その代わりに自我を失い狂ってしまう事も珍しくないそうだ。
改めて慎重に・・・諭すように言葉を続ける。
「強力な能力には相応の代償が必要になるとの陛下からのお話でした。
テホアとイニマが揃っている事が条件になりますが、このままでは二人の命が徐々に消費されていく事になるとの陛下の見立てです」
「ペンダントでは?あのペンダントで何とかならないのですか?!」
取り乱している両親を目の当たりにし最初”ポカーン”としていたテホアとイニマだったが、堰を切った様に泣き始める。
直ぐに母親のステスティさんが2人を優しく抱きしめ、それで安心したのか泣き声が少し落ち着いてきた。
子供の前でする話じゃなかったか?でもこの子達の未来の為の大事な事だ。
今は理解できなくても自分たちの為に大人たちが大事な話をしている、その事実を覚えていてもらう為にも続ける。
「ペンダントにはもしもの時の為に身体能力の低下分を補完する機能を付与してはいます。
負荷に応じて効果を自動で調整しているので結果的に子供の体でも能力の負荷に耐えられる状態ですが、陛下の話を聞いたうえで改めて考えると・・・それが健全な状態かと言うとそうではないと今は思っています」
「?」
「失礼を承知でさっきこの子達の状態を確認させてもらいました。
多分俺が渡したペンダントをずっとしていたんでしょう?
つまり長時間2人一緒にいた・・・まだ確証がとれている訳ではないのですが、このままではこの子達は子供のままです」
「どう言った事でしょう?」
「この位の歳の子供達であればわずかであっても日々成長していきます、ご存じでしょう?
しかしテホアとイニマは私が拵えたペンダントを首にかけたその時から体が成長していないのです、全く。
まるで何かが成長をかすめ取っている、そんな状態です」
「ええ!」
「ペンダントに頼った生活は見た目では問題ないように感じます。でも根本的な解決に至っていない。
解決の為にテホアとイニマには能力の制御方法を身に着けてもらいます、それに耐えうる身体能力も」
具体的にどうするか、それを確認する為の一歩として先ほど俺のハウジングを展開、2人の体の現状を俺の脳内に吸い上げた、その状況を一番正確に表す言語に変換して。
ゲームのステータス表示の様に体力、魔力などを数値化できるわけではない。
これは対象の身体の”状況”を俺が認識できるようになる機能。
例えば『衰弱』、『平常』、『快活』と言った情報が俺の脳内に通知されると言った具合だ。
これで二人を確認すると、
『”成長代替”稼働中』
消費されるはずだった生命力を『成長』で『代替』していると思われる。
おそらく『成長代替』は2人のもう一つの能力、これとペンダントの補完能力が有ったからこそ生命力を削っていく重篤な状態にならなかったのだろう。
不幸中の幸いと言ったところか。
取りあえず『呪い』みたいな状態を改善しなくても良い事は分かった。
それを踏まえて2人を見ると・・・魔素、魔力の流れからテホアが『魔素吸収』、イニマが『魔力変換』の様な能力を持っているみたいだ。
二卵性双生児ではあるが双子である事は通常の兄弟よりも絆が強いのだろう、
互いが物理的に近付けば近付くほど能力が強く連携しだして、テホアが集める魔素がイニマに流れ魔力に変換、放出されていると思われる。
ここまで説明すればお判りの方も多いだろう。
「いや、全然」
スージミさんは黙っててください。
気を取り直して親御さんに説明する。
「詳細の確認は必要ですが十中八九テホアが『魔素吸収』、イニマが『魔力変換』・・・名称は仮称です・・・の技能持ちです。
つまり一番最初に行う訓練は能力のON/OFFの方法。
これから生きていくだけであればこれを身に着けるだけで問題は解消すると思われます、そしてさほど難しい事ではありません」
そう、特殊なものでなければ、能力さえ判明すればその能力をOFFにすれば良いだけだ。
俺の認識阻害もON/OFF自在だし。
前世のMMORPGの様に『与ダメージ10%アップ』みたいな”結果”に作用する振り直し不可の”パッシブスキル”と同種の技能だったら詰んでいたよ。
今回で言えば『(例外なく)2人が近づけば魔力を放出する』と言う結果だけを具現化する技能だったら・・・。
自前では一生改善させることは出来なかっただろう。
それこそ技能自体を破壊する技能、又はアイテム、『スキルブレイカー』でもなければ。
・・・そう言えば有ったな、『スキルブレイカー』じゃないが一定時間相手のスキルを封印するスキル。
今回の件で芋づる式に記憶の表層に浮かんできたスキルの一つ。
これが有ればハウジングにおびき寄せなくても騎士団員位なら付与効果含めた技能の無力化ができる、しかも消費する魔力は段違いに少ない。
それこそ今の俺の魔力量ならかけ放題だ
こんな時にヤバめのスキルが有ることに気付き、俺が戸惑う。
「どうなされました?
やはり解決するには難しいのでしょうか」
ほら、戸惑っていた俺に心配になった親御さんが涙目で聞いてくる。
しっかりしないと。
「大丈夫ですよ、先ほどの通り見通しは間違いなく明るいのです。
むしろこれを嗅ぎつけて他国の間者が近付かない様にする事の方が重要でしょう」
「「えええぇ(困惑)」」
しまった、余計な事言ったか。
「詰めが甘いな」
スージミさんは黙っててください!
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