第259話 蛹

あれから間者について俺のマップ、索敵機能を使えば何ら問題になるような事はないと説明しようやく納得してもらえた。


正しく情報を伝える大変さを改めて実感した俺、クルトンです。




少し時間が掛かってしまったのでバッグから「後で食べてね」とキャラメルで固めたナッツ棒を家族分(4本)渡す。


小腹もすいたでしょう。


テホアとイニマに「寝る前は食べちゃダメだよ」と伝えるのに合わせて親御さんには「インビジブルウルフの名に懸けて子供たちの安全を保障する」と誓う。



「インビジブルウルフ卿の庇護下に入るんだ、相手が阿呆でもない限り問題ないだろうよ」

スージミさんがそう言ってくれると親御さんもやっと安心した様だ。

スージミさんへの信頼感パネェ。


でも相手が阿保なら問題有る様な言い回しですね。


「そりゃそうさ、阿保なんだから。

俺らに理解できるわけもないだろ、これでも俺はインテリなんだぞ。

大学じゃ主席・・・とはいかなかったが10本指には入っていた」


・・・悔しいが納得してしまう。

「10本指には入っていた」ってのはホントかどうか知らないが、騎士団の大隊長の職務は馬鹿には務まらない。

スージミさん含めた騎士団の面々は粗野に見える振る舞いをしていても、言語化するのを面倒くさがっているだけで貴族の教養や知識に支えられた論理的な思考を持っている。


下手に反論しようものならこっちが返り討ちになってもおかしくない。

このままスルーしよう、俺は小心者で騎士爵を持つだけの小市民なのだ。



詳細決まったらまた連絡すると伝えた後に街を散策する。

特別目的も無く、認識阻害の恩恵を受けゆっくり周りを見渡しながら街並みを進んでいくとチラホラ耳に刺さる様な喧騒が聞こえてくる。


これだけ人が居ると普通の値段交渉でも怒鳴り合う程の音量でないと聞こえない時もあるから皆あまり気にしていない、いつもの事だ。



それ以上の音量については血の気が多い輩が口論、喧嘩でもやってんだろう。


そういや俺の偽物と言われてたあの人もこんな感じで巻き込まれてたんだろうか。





その人の名前はラールバウさん。

王都に居たところを噂を聞き付けたデデリさんがスカウトして、その後本人も納得してコルネン駐屯騎士団の門を叩いた人。

仕事で一緒になることは無かったが訓練場で稽古の相手をしたことは何回か有った。


武具の付与術式なんかのアシスト無しに自前で身体強化が出来るかなり優秀な人だった。

19歳の俺が言うのも何だが年も若いし、将来の騎士団の中核を担う人材になるだろう。



ただあの体格で扱う大剣の技が我流なのだろう、稚拙だった。

いや、俺が言ったわけではない、言ったのはデデリさんとフォネルさん。


練習ではデデリさんは片手持ちのハンマー(ただの金槌)、フォネルさんは短剣(ただの出刃包丁)でラールバウさんの大剣を捌きコテンパンにしてた。

「精霊の加護持ちなんだから手加減しろよ」と思っていたが2人とも共通して感じている事が有った様で、話を聞いてみると・・・、


「多分こいつは『精霊の加護』持ちだ」


何ですと!!

けどなんで分かるんですか?


そう言えば『加護持ち』とかどう判別するんだろう?

気になる。


「加護持ち同士なら分かる、上手くは言えんが通じ合うと言ったところか」

・・・どこぞのニュータイプですか。


「まあ、結局のところ能力鑑定の技能持ちに診てもらえば一発で分かるんだけどね。

あと・・・『精霊の加護』はちょっとした特徴が有ってね」


?何でしょう、気になる。


「加護が発現するまで時間が掛かった人程強い能力が発現するんだ。

正直成人後に発現したってのは聞いた事無いね」

フォネルさんが解説してくれる。


「俺は15の誕生日に力が発現した、かなり遅い方だぞ」

「隊長は加護に目覚める前からべらぼうに強かったから、余計に手に負えなくなったって話だね」

すかさずフォネルさんが突っ込む。


「しかし彼は今23歳だろう・・・発現する力の大きさに体が耐えられるか正直分からないんだ」


ああ、それで二人がかりで鍛えてるんですか。


「発現させずに様子を見るのも一つの方法だが・・・どうしようもないタイミングで力が現れたら最悪死んじまう位の負荷が体にかかってもおかしくない」

「ホント、力が表層に出てくる寸前のヒリついた感じがするんだよ、多分危ない」



そう言った意味ではデデリさんがスカウトしてくれて良かったですね。


「まったく、こんなところはやけに鼻が利くからね、うちの大隊長殿は(笑)」




これを機会に『精霊の加護』について色々教えてくれた。

この加護の力はとても単純な力らしい。

超強力な身体強化魔法が常時発動している様なもんだそうな。


単純故に融通が利いていかなる時も効果を発揮する。

筋力にとどまらず反応速度も爆上げされるそうだから、余計に手が付けれない鬼の様な力。



ただ物理法則の影響は通常通り受けるから全力で動き続けると関節などを中心に細胞同士の摩擦でかなりの熱が発生するそうな。

なのでそれに耐える為に『精霊の加護』持ちの体は常人とは全く比べ物にならない位熱に強く、そして発した熱を強力に放熱するそうだ。


長時間戦っているとリアルでオーラを纏ったような見た目になるらしい。

何それ、カッケー!!




俺、全然そんな事無いのよね。

”設定”に組み込まれていないんだろうと勝手に納得しているが。


「しかし我々の半身である精霊様は腕の一振りで空を裂き、地を蹴り進めば嵐がまき起こったと言い伝えられているんだ。

それからすれば『精霊の加護』持ちも人の枠に納まっている、まあ亜精霊と言ったところかな」


「因みにパメラは3歳の時に加護に目覚めた。

目覚めるのが早すぎても本人は力の加減が出来んでな、だから周りの者が大変だったぞ。

毎日怪我人を治療する為に薬師を専属に雇ったくらいだからな」


そんな時からやんちゃだったのか。

うん、違和感ないね。



この後もラールバウさんは2人にこってり絞られて、訓練終了後には俺が治療を担当したっけな。


でもなんだかラールバウさんは嬉しそうにしていた。

早くに両親を亡くし兄弟も居なかった自分に、今でも世話を焼いてくれる人が居た事が嬉しかったらしい。

故郷に居た時は周りの大人たちは十分優しくはあったが、体が大きかったことで心が成熟する前に一人前扱いされ、逆に寂しさも感じていたみたい。


早くに認めてもらった嬉しさと、もっと愛情を受けていたいもどかしさが心の中で乳化せず、砂利の様に雑に混ざり合って心の奥に沈んでいたんだろう。



俺の想像だけど。

でも・・・だからこそ、あの人はきっと強くなる。

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