第332話 天の理法

場が静まり返っている。

この場に乗じてゆっくりお茶を飲もうとしている俺、クルトンです。




「しかし・・・それは本当なのか?」

領主様がやっと口を開きました。


口をカップから話して「いや、俺の世迷言ですけど」と一言告げる。

これで場の空気が緩むと思っていたのだがそうはならなかった、「もう少し話を聞かせてくれないか」と更に領主様から催促される。


説明と言っても・・・今まで俺が不自然に感じていた事、それだけの話なんですが。



そもそも何もかも不条理だったんです。

俺で言えば幾ら周りより頑強な体を持ち得たとはいえ、理外の力を幼少の身に宿す事自体が理不尽で、あり得ない位危険な状態でした(多分)。


知ってますか?本来であれば誰であれ、何であれ持ち得るエネルギー以上の働きを成すことは出来ないんですよ。

あの魔獣ですら体内の魔力が枯渇すれば回復まで一時的にでも活動を停止するそうです。


「すまない、もう少し分かり易く説明してくれないか?」


俺は手元のカップを掲げ説明を続ける。

「このティーカップにはどの位のお茶が注げますか?この器の容量までですよね。

けどそれ以上のお茶を注ぎたければ器をもっと大きい物に変えなければなりません。

人が成長し、器が大きく成長する事でより多くのお茶を受け止めるのであれば違和感は有りませんが」


ここまでは誰もが理解できる常識の話。


「俺の場合はこのティーカップ・・・幼少期の俺の器にティーポット以上のお茶(力)が”最初から”注がれていた、だからティーカップからそれに納まらない量のお茶を飲む事が出来る・・・そんな感じですかね」


「イメージは湧いたが、そもそもそんな事が有り得るのか」



今度は侍女さんからお茶の入ったティーポットを丸々貸してもらい、この部屋にハウジングを展開する。

ポットの蓋を開け、そこからハウジングの能力でお茶だけを取り出し俺の目の前に浮かせた。


丸く、そして緩やかに揺らいでいる球状のお茶に圧縮の魔法をかけ、見た目の容量をどんどん小さくしていく。


「「「おおお!」」」


やがて一握り程度まで小さくなった”圧縮されたお茶”をタプンとティーカップに落とす。


「外部から何かしらの意図をもって、辻褄を合わせる様に力を揮えはこの通りです」


「この通りです」とか言っちゃったが、魔力に任せて圧縮したお茶がこの状態でも液体の性質を保っている。これが通常の物理法則に則った事なのか俺は知らない。

もしかしたら俺のイメージに引っ張られただけかもしれない。




繰り返しになりますが、今もこの世界を覆っている理法がパッチワークような不完全な状態であるからこそ、世界が自動で補完してくれていた様々な事象を解き明かし、それを此方の都合で改変するのが人類の意思の力なのかと。


確証に至ってはいませんが、既に魔法には多くの制限が掛けられている様で、素の状態でだと風を吹かせる魔法・・・空気の移動の事ですね・・・これだけでも結構な魔力を消費しないと発動しません。

太古の大災害の後に『魔法はこうあるべき』、又は『魔法は難しいもの』と人類が世界に定義してしまい、それが理法として定着してしまったのかもしれませんね。



「この世界が不完全である事は陛下からの講義で説明を受けてはいたが、それがおとぎ話ではないと言う事か?」


何とも言えません、

俺のこの世迷い事を検証するにしても長い時間、それこそ何世代にもわたって膨大な時間が掛かるでしょうし、そもそも検証に意味があるかも分かりません。


取りあえず俺が『何とでもなる』と言ったのは、こんな考えが有ってという事を理解してもらえれば結構です。



大そうな話をしたが、実際のところは治癒魔法師の知識が無かった俺がシンシアを一人前に育てる事が出来たそのから心配しないでって事だ。


そんなに深刻にならないで、繰り返すけど検証するのに意味が有るかも分からない話しなのよ。




ようやく説明に一区切りついたみたい、話しを先に進めよう。

こんな事より今は治癒魔法師の確保の為にコルネンに隠れ住んでいる4人への接触の方が重要だからな。


「いや、これからの重要案件になるかもしれないんだぞ、今の話は・・・」

領主様はまだ言ってくるが、俺の世迷い事に時間は割けない、そんなに気になるのならその検証は別の人に頼んでほしい。

俺は目の前の仕事で精一杯なのよ。




「・・・分かった、ではさっきの話に戻ろう」

やっと話が進みだす。


俺はティーカップに入れたお茶をティーポットに戻し圧縮をゆっくり解いて、その際奪われていく熱も元の状態になる様に調整していく。

いきなり圧縮を解放して爆発の様な現象起こったら大変だしな。



今回はシンシアの意見も盛り込んで、最初に提案した通り俺が訪問する事になった。


顔は知らなくても、偽名で暮らしていても俺ならマップ機能と索敵でピンポイントで目標を見つけられるからってのもある。


「コソコソしないで堂々と正面から行けば問題無いの。その方が誠実に感じてもらえるの」

シンシアがそう言ってくるがそんなもんか?隠れる気は無かったけど目立つのもなぁ。


「話を聞いていると周りを囲む衛兵は必要なさそうですね、一応索敵持ちと足の速い物を助手に付ける様に手配しますが」

セリシャール君が人員の手配をしてくれるみたいだ。


有難う御座います。



後は事が決着するまでは他の人達に騒がれない様に注意お願いします。


治癒魔法師の4人は仕事も有るでしょうし家族がいてもおかしくありません。

ですから今が幸せならそれを壊す事は避けなければなりません、これは俺の誠意の表明でもあります。


「ああ、我が領にとっても貴重な人材になるかもしれないんだ、誠意は尽くすよ」

微笑みながら総約束してくれる領主様。


「手前味噌ですがここコルネンは国内有数の都市で、資金面でもかなり恵まれていまます。

そんな都市でも治癒魔法師を自前で持つのはかなり難しいのに、領民に4人も治癒魔法師が居るとなればどんなに心強いか」

婚約も嫡男としてもほぼ決定したセリシャール君は自領の未来の為に気合いが入っている。



相手はそれなりのお歳のようですが協力して頂ける様に、最悪でも敵にならない様に誠意を尽くしましょう。

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