第366話 後継
交易都市コルネンの朝市、昼の食堂、各ギルドの工房や行きかう人達の様子、夜は居酒屋や演劇場などを見て回り、魔獣大討伐後の都市の影響を勝手に確認している俺、クルトンです。
魔獣討伐の結果は経緯を踏まえ隠す事なく市井に公開されている。
当然俺を含む個人の能力に絡む機密事項は秘匿されるが、市井の関心はそこでは無いから問題無い。
騎士団上役が団のイメージアップと若手のアピールにと気を利かせ、
誰が何頭討伐したとか、サッカーで言う所の討伐のアシストを誰が何回どうやって行ったかとか、
事ある毎にスクリーンショット取った俺の資料と各班の報告書を基に分析して各騎士個人の功績を表にまとめ、スクリーンショットと一緒に公開、修練場壁に張り出した。
そんなものだから今まででもかなり好印象の騎士団員たちに少数(2~3人程度)であっても個別に女性ファンが付く事態となる。
特に日々の練習に明け暮れ、異性と交流する時間も無い若手にとっては将来の伴侶を早いうちから見つける事に繋がって、この副次的効果の方が若手騎士にとっては圧倒的に有難かったようだ。
今回の討伐に選抜されなかった独身騎士さん達はそんな様子を見てとても羨ましがり、次の討伐が有れば自分を選抜してほしいと上長へ申し出る人も一人や二人じゃなかったらしい。
そんな話を下宿先近くの居酒屋ダンデライオンでお客さんから情報収集行っている。
伯父さん、お爺さんと一緒に飲みながら。
「意外と事の深刻さには関心が無いんだね。ちゃんと討伐数も”53頭”と公開されているのに。
何かしらの条件が一つでも違っていたらここ(コルネン)が壊滅する規模の魔獣数だったよ?」
「詳細は終わってから知った事だからな、都市内に影響は無かったし討伐してからの日もそう経っていないから実感も薄い。
俺ら一般人は多分こんな感じで生活が続く、そんなもんだ。
けど騎士団内はかなり忙しくなるんじゃないか?」
伯父さんからコルネン一般領民としての感想を頂く。
魔獣の件で一般人に出来る事は逃げる事だけだからな、感想もそんなもんなんだろう。
ただし魔獣の恐ろしさは物心ついた頃からこれでもかと言い聞かせられているし、騎士団位しか太刀打ちできないという事も分かっているから、53頭の群れになるまで魔獣を発見できなかったミスを責める人は一人もおらず、ただただ騎士団が討伐したその成果を称賛している。
こんなんところは前世と違い面倒が無くて有難い。
揚げ足取りして騒いでも魔獣が居なくなるわけじゃない、唯一対抗できる騎士団の能力に制限を掛ける事にでもなったら、次は自分の命が脅かされるかもしれない事を皆分かっているんだ。
それに騎士団員が振るう力の先は魔獣と決まっている、逃亡した重罪人にでもない限り人に対してその力を振るう事は無い。
この国では基本人への対処は治安も受け持っている軍の仕事だ。
取りあえず騎士団の評判は上がり、一般市民もこうやっていつも通りの生活を続けていられる事にたいして感謝している。
これ以上ない位の成果だろう。
コルネン帰還の後、デデリさんは俺が索敵したこの国の魔獣分布図の情報を持って速攻王都に飛んで行った。
後にフォネルさんか正式報告に向かうが先に王城での緊急会議を行い、後にそのままグレンツ辺境伯領へ向かうらしい。
大変ではあるがデデリさんとポポのコンビでないと成し得ない事が重なっているから仕方ない。
でもデデリさんとポポがいて助かった面も大いにある。
この国の最高戦力がグリフォンの機動力で国中を動き回る、その能力は唯一無二の物。
けど・・・デデリさんも確か100歳前だったはず。
魔獣の被害と事故を除いたこの世界の平均寿命は120歳程度で内包魔力が多い人はその1割ほど長生きらしい。
病気せずにいたとしてデデリさんの寿命はザックリ132歳程度。
前世の日本人男性の平均寿命は82~84歳位だったはず、そしてその健康寿命は73歳位。
とすると第一線でなくとも加護持ちの身体能力を鑑みて何とか現役でいられるのが116歳までか。
机上で計算した値だが、単純にあと20年無いくらいでデデリさんに匹敵する戦力を整えていかなくてはならない。
そう、デデリさんの後任を育てるだけではなく、騎士団として同等以上の機能を有した組織を整備しないと対魔獣の戦力に穴が開いてしまう。
精霊の加護持ちは国に登録、管理されておりそれなりの能力を持つ加護持ちは居るには居るが、デデリさん程の能力を持ち合わせている個体は歴史的にも稀な事らしい。
尚更後任組織の設立を急がないとマズいだろう、抑々人材なんてそう直ぐに集まるものでもない。
そのうえで訓練が必要になるんだ。
「クルトン、それはお前が考えないといけない事か?
仕事に誠実で有る事は間違いなく美徳だし、きっとお前なら最良の結果を残すんだろう。
だが、お前以外の者達の経験の為にもデデリ侯爵様や陛下に上申して任せた方が良いのではないか。
こんな事は今後の歴史の中で何回も起こり得ることだ。その際にいつもお前が側に居る訳でもあるまい、生きている保証すらないんだ」
珍しくお爺さんが俺にそう言ってくる。
「親父はお前が心配なんだよ、過去の英雄は職務の最中行方不明になって後に死亡認定される人も結構いたんだ。
それこそ命を落とした時、その亡骸が残っている英雄の方が珍しい位さ。
だから英雄の葬儀では遺体が見つからないまま執り行われる事が多いんだよ」
ああ、そうなんだ。
力ある者の宿命なんだろうな、
「だからこそ俺たちは英雄に敬意を払う事を忘れないし、それを侮辱する者達には容赦しない」
「お前を侮辱するような輩はここコルネンで生活する事は出来ないだろうな」そう言って伯父さんが俺の肩に手を置く。
「お前はさっきからデデリ侯爵様が御隠れになった時の戦力の穴を気にしているが、お前に対しても同じことが言えるのだよ。
話しを聞くに上手く引継ぎはやっている様だが、お前に代わる者などそもそも誰も居ないんだ。
お前は儂の孫なのだから・・・」
そうか、捨て子の俺を育ててくれた両親だけでなく、血は繋がっていなくとも間違いなくこの人達も俺の家族なんだ。
魔獣が生態系の頂点に居るこの世界、そして子が生まれにくいこの世界だからこそ家族の絆は太く、そして大きく広がってゆく。
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