第381話 先導者

いつもより背筋を伸ばして厩舎敷地内を査察している俺、クルトンです。



今思ったんだけどこの事業についての規定って言うの、会社で言う所の社則なんか把握していないから査察と言うより視察なんじゃね?


完全に俺お客様ポジションだし。



「ささっ、こちらにどうぞ」


「このように厩舎の屋根は二重構造にしておりまして夏の王都の日差しを和らげて・・・」


「掘って頂いた温泉の配管は改修しまして、新規で設置しました騎乗動物用のプールにも注がれ冬でも暖かな状態に・・・」


「王都も中心部となれば糞の臭いも問題となりますので、卿より提供頂いた消臭施設は大変役立っております。

更に良質な堆肥にもなって・・・」



ほうほう、ウンウン、良いですねぇ、なるほど・・・と、俺はそう繰り返すマシンと化しております。


テホアとイニマは「ほえー」「へえー」とか興味津々でキョロキョロしている。

因みにポムとプルは俺たちの打ち合わせが終わり、建屋を出た途端速攻馬場に行って走り回っている。




俺は前世で酪農の経験は無いし、何ならペットも飼った事が無い。

だから家畜や馬の世話なども両親から教わったとは言え今世で初体験、手探りだった。


幸い家畜の山羊でさえ可愛く思えた事から動物は元々好きだったみたいで苦には感じなかった。



だからムーシカ、ミーシカを先頭にスレイプニル5頭が馬場を群れとなって走るさまは中々に興奮する物だった。


サラブレットより二回りはデカい・・・ムーシカに関して言えばそこから更に一回りは大きい・・・スレイプニル5頭がサラブレッド以上の速度で馬場を延々と周回するものだから、空気の流れが完全にスレイプニルに影響を受け渦となっている。


・・・魔力も乗ってやがる、なんてこったい。



あ、ポムとプルも一緒だ。

こっちは完全にスリップストリームを利用して一頭一頭丁寧にスレイプニルを抜いて行って挑発し、先頭までくると最後尾に下がってを繰り返し・・・遊んでやがる。



「すげー!馬いっぱい!」「いっぱーい!」

テホア達も大はしゃぎ。



「やはりリーダーが強力な個体だと群れの力が底上げされますなぁ、あんな速度で走るのは初日に逃げ出して以来です。

いや、あの時より速いですな」


ん!?逃げたの!?


「ええ、しかしその時はフンボルト将軍達が捕縛してくれましたよ、本当に助かりました。

王都で3頭のスレイプニルが大暴れ・・・そんな事になる前に治まってくれて。

下手したら大惨事でしたな」

既に終わった事だからだろう、「はっ、はっ、はっ」と軽く笑っておられる。


何でも3頭まとめてスレイプニルが王都に来るとの話を聞いたものだから当日はフンボルト将軍とスージミ大隊長、近衛のレイニーさんまで仕事を休んで見に来たそうだ。


厩務員の皆さんはベテランとは言え今までお世話、調教していたのはあくまでも馬。

スレイプニルには完全にフィジカルが及ばず、舐められてしまい正面突破で逃げられた。

しかしウッキウキで見に来ていた3人が即捕縛に動き、大捕り物が始まった。


ロデオの様に背に飛び乗り、静めるまで3人は大興奮で子供の様にはしゃぎまくっていたそうな。


事が収まってからは暫く王都までスレイプニルを連れてきた騎士さんに滞在してもらい、厩務員とコンビで調教に関わって今の状態に至っている。


やっぱり言葉が通じない動物、しかも野生となれば躾けるには力が一番有効なんでしょうな。





渦を巻くように走っていた群れは徐々に速度を落としやがて・・・トロットって言うんだっけか?速足で俺に近づいてきてムーシカ、ミーシカが結構な圧で鼻先を押し付けてくる。


優しく、一頻りなでてやると交代で他のスレイプニルも同じ仕草をしてくる。


「ヨーシヨシヨシヨシ、ヨーシヨシヨシヨシ、ヨーシヨシヨシヨシ(ワシャワシャワシャ)」

調子に乗って忠実にムツ〇ロウさんムーヴをかました後、フィアトさんが話しかけてくる。



「なので今でも定期的に騎士団の手助け頂いて調教を続けておりますが・・・もう必要ないかも知れませんな」



ん?

「さっきまでムーシカを群れのリーダーと認識してたんでしょうが、今そうではない事に気付いた様です」


ニッコリ笑うフィアトさんが俺に「手を叩いてみてください」と言ってきたので”パンパン”と二度手を打つと、散らばったスレイプニルたちがまた集まって俺に鼻先を押し付けてきた。


一ぺんに。


「ヨーシヨシヨシヨシ、ヨーシヨシヨシヨシ、ヨーシヨシヨシヨシ(ワシャワシャワシャ)」

そして俺は今日二度目のム〇ゴロウさんムーヴを決めた。



「コルネン駐屯騎士団に助力頂いたとは言え俺が捕まえたんですけどね、俺の事忘れてたんでしょうか」




群れのリーダーは俺だと、完全にスレイプニルたちは理解しているとフィアトさんが言っているがこの子達と有ったのは今日が初めてではない。


先に言ったように俺が捕まえたんだけどな。


「今までは『敵』の認識だったんでしょう。

群れのリーダーが強い事は本来喜ばしい事です。

ムーシカ達の影響も大きいんでしょうが自分たちの安全を約束してくれる強力なリーダーだと認識が切替わったんでしょうな」



そうか、ムーシカも最初はそうだったな。

ミーシカと生まれてくるであろう子供(マーシカ)を守る為に俺を敵認定していた。


その後、大蜥蜴から守ってやったもんだから自分達に危害を加えない、守ってくれる便利なリーダーと言った認識に変わったんだろう。


・・・良いじゃないか、共存とは正にこの事だよ。

野生動物だからこそ、力こそが正義と言った摂理も分かり易いじゃないか。



人相手では多分に問題の有る思考だが、越えられない種族と言う壁がある以上一番原始的で確実で間違いないコミュニケーションの方法。


そう、それが肉体言語!(違う)




しかし群れのリーダーが俺(インビジブルウルフ)?。

牧畜犬なんかは捕食動物、主に『狼』から守る為の護衛の『犬』なのだけど、

俺がその役目を担うのか?・・・因果なものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る