第382話 軽く挨拶のつもりが・・・

厩舎の査察も無事終わり事務所でお茶を頂いている俺、クルトンです。



テホア達には茶菓子まで出していただき、それを食べながらさっき見ていたスレイプニルの話が止まらない。

そのテンションをなだめながらフィアトさんと世間話をしている。



「ほう、大蛇ですか」


ええ、この前故郷に帰った時にその道中で遭遇しましてね、あまりにもデカくて家畜どころか人への被害も出そうだったので討伐したんですけどどうも解せなくて。


「と、言いますと?」


あそこまでデカくなるって事はそれまで何年も魔獣からの索敵から逃れていたって事でしょう?

逆にあそこまで大きいのにあり得るのかなって。


「そんなに大きかったんですか」


全長で20m強は有りました。

しかも双頭でして・・・王城に鞣した革を置いているので機会が有れば見てみてくださいよ。

本当にアホみたいにデカかったんですから。



「はあ・・・想像つきませんなあ。

でも魔獣に見つからなかったのは魔力のせいかもしれませんね」


ん?どういうことですか。


「全て・・・という事は無いのですけど魚(魚類)、カエル(両生類)、蜥蜴や蛇(爬虫類)は鳥(鳥類)、馬(哺乳類)や人間と比べて体内魔力が極端に少ないと言われておりましてな。

ご存じでしょうが気配を探るうえで体内魔力は重要な要素で・・・そうですな、言い伝えでは古龍が空を通るときなどはそのあまりの魔力量に嵐の気配と勘違いしたという文献が残っているそうですよ。

逆に蛇で言えばそこそこ大きなヤツが馬の脚に登ってきて、そこでようやく馬が気付いて暴れ出す事も有るくらいです」



そういやヴェルキーを最初に見た時は脚に蜥蜴が噛みついていたな。

低い姿勢で視界に入らず、魔力も極小の為に近づく気配に気付かなかったのかもしれない。


そうすると・・・。


「ええ、それだけ大きくても内包していた魔力は極々僅かだったんでしょう。

魔獣から逃れるために蛇なりの進化なのかもしれませんね」


なるほど。

それならば・・・専門家からの知見も踏まえての判断になるだろうが・・・魔力を外に漏らさない事で魔獣から見つかる危険を低減できるかもしれない。

『光学迷彩』、『気配遮断』の付与との併用で更に効果を上げれるんじゃないかな。



(そうえば)

前世のMMORPGでの俺のキャラのロールはタンクだったから取得しなかったけど、DPSや暗殺者ロールをしていたプレイヤーは『ステルス』ってスキル取ってたな。


『認識阻害』と何が違うんだって?

認識阻害より効果時間が短い代わりにステルス中の与ダメージにボーナスが付いたんだよ。

具体的には与ダメージ+20%とクリティカル率が現状の40%アップだったかな?


因みにゲーム上の『認識阻害』は敵が自キャラクターを見失う効果。

タゲを取った後に発動させると敵が俺を見失い、誰を攻撃するでもなく延々と俺を探してうろうろする効果だった。


これも一定時間ではあるがDPSが幾ら攻撃してもその動作が中断される事が無いのでタコ殴りが可能だったが、クールタイムが長めに取られていたので乱用は出来ない仕様。

あとこちら側から攻撃すると時間内でも効果が切れる。


ゲームバランスを考えれば当然だよな。





取りあえずヒントは貰ったような気がする。

直ぐには取り掛かれないけど整備され、騎士たちが日夜警邏業務を行っている街道の往来なら今以上に安全を確保できるかもしれない。



「オーナーの技能が有ればなんとかなりそうですな」


ええ、僅かではあっても今以上の効果があるのなら何とかしますよ。



厩舎をお暇した後はピッグテイルにお昼を食べに行く。

久々に入ったそこは相変わらず繁盛していて、俺たちは定番のパスタを注文し腹を満たす。

ポム達にはスペアリブを注文、皆満足していたから良かった。


ここも相変わらず美味いもんな。



そこからウリアムさんの工房、プリセイラ皮革工房のセイラ工房長、ポックリさんに金属卸業者のダンポリン、宝飾ギルド王都本部長のシズネルさんとサリスさんに挨拶周り。

鍛冶ギルドのシベロ本部長は相変わらず本部に居らず、王都の工房を巡回しているみたい。


最後に宝飾鑑定士のニココラさんに伺ったところ。

「ささ、どうぞどうぞ。

妻たちにもご挨拶させますので、ささっ」


店先で軽く挨拶して終わるつもりだったが強く引き留められ、応接室のソファーに座っている。


ここでも結構なお茶と茶菓子を戴いて、テンションが上がっているテホアとイニマを宥めていると部屋に近づく足音が3人分。

だけど気配は5人?


ノックの後に扉からニココラさんとその奥様達二人が部屋に入って来る。



「大変お待たせいたしました。

初めてご紹介いたします、長男シュペルキー、長女パティナで御座います。

是非ともインビジブルウルフ卿のご加護を」


おお、それで気配が、おめでとうございます!

大変めでたい!!


で、俺が抱っこすればいいと?


「はい、是非とも」



ニココラさんが『加護』と大げさに言っている様に聞こえるが、これは前世でお相撲さんに赤ちゃんを抱いてもらう様な感覚。


縁起を担いでいるのですよ。



ではでは、そーっと・・・うわあ、ちっちゃいし軽い。

首は座っている様でそこは安心。


前世の息子たちを思い出してしんみりした気持ちが湧いたが、腕に抱いた赤ちゃんを見ているとそんな気分も溶けていく。


「とても元気で可愛いです」

思わずポツリと呟くと「そうでしょう、そうでしょう」とニコニコしながらウンウン言ってたニココラさんが俺に頭を下げてきた。



「この子達が今世に生を受ける事が出来たのもクルトン・インビジブルウルフ騎士爵様から頂戴した指輪のお陰で御座います。

貸与いただきましたその指輪の量産自動機も順調に稼働し徐々に成果が表れております。」



へえ!そんなに効果あったんだ、正直そこまで期待はしていなかったのだけど。



「どれだけの者達がこの時を待っていた事か・・・卿に直接お礼申し上げたいとおっしゃられるお客様も一人や二人では御座いません」



何だか大事になって来たな、どんだけバラまいたんだこの指輪。

しかしこのシチュエーション・・・、使った方が良いのか?あの言葉。


「俺、なんかやっちゃいました?」

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