第383話 夢の飛沫
抱っこしていた赤ちゃん達を母親に引き渡してお茶で一服している俺、クルトンです。
いやあ、久々。イフとエフを抱っこして以来だわ。
しかしちっちゃくで可愛いねぇ。
赤ちゃんを見ていると自然に目尻も下がっていく。
テホア達も
「(可愛いねぇ~)」
「(かわいいねえ)」
と、赤ちゃん達に気を使って小声で話しかけている。
それに二人とも未だ人見知りをする時期でもないのか俺に抱っこされてもキョロキョロしているだけで泣きもせず大人しいものだった。
ギャン泣きされなくて何気にホッとしていたのは内緒だ。
「それでお話なのですが、この指輪の取り扱いを私の店に任せて戴いた事で随分と資金面で余裕ができました。
ですので常々市井の生活向上の為に私財を投じ、ご自身の技術を公開されておられますインビジブルウルフ卿の活動に、私も微力ながらお手伝いさせて頂けないものかと」
「今まで仕事は誠実に熟してきた自負は御座います。
しかし子供が生まれてからと言うもの、『父』として子の模範となるにはどうしたら良いものかと思案しておりました。
未だ結論は出ておりませんが、インビジブルウルフ卿のお手伝いが出来るのならば私の生きた証が正道である事を我が子へ示せるのではないかと・・・」
赤ちゃんを構って遊んでいるテホア達の脇で、何やら根を詰めた様な真面目な顔で俺に話をしてくるニココラさん。
今回のカイゼル髭は今までにない程精気を宿し、いつも以上に尖っている。
コヤツはやる気だ、面構えが違う。
要は儲かったから公共に還元したいって事だろう。
そしていずれ大きくなる子供達に自分が行った仕事の成果を自慢して「「父ちゃん凄げぇ!!」」って言われたいんだろう。
うんうん、分かるよその気持ち。
尊敬される父親って憧れるよね。
けど、
「なんと言いましょうか、自分ではあまりそんな気負ったつもりで事を成している訳ではないのです。
たまたま授かった力を自分の生活の為に、他者の恨みを買わない様に、未来の自分に恥ずかしくない様に・・・俺の行動原理はただそれだけなのだと思うんです。
ああ、ただ目の前の不幸は何とかしたいと思っていますよ?俺の今の『力』はその為にも有るとも感じています。」
だから俺の手伝いじゃなくても良いと思いますよ。
基金を設立して苦学生の為に奨学金制度を運営しても、
今はほぼ野良状態の産婆さんを組織化して産婦人科の診療所を設立しても、
研究、開発に資金を必要としている学者さんのパトロンになっても、
未亡人たちへの婚活事業を立ち上げても、
それこそこの前公演に来てたサーカス団に匹敵するような興行事業を組織して世界を回っても良いかもしれません。
お金が有るって事は選べる選択肢が増えるって事ですからね。
因みに本当に自分でやりたい事は無いんですか?
逆に俺が問いかけるとニココラさんは逡巡した様子で目を伏せる。
「あなた、お気持ちを正直にご相談してみたら宜しいのではなくて?
インビジブルウルフ卿は貴方の夢を笑う様な方ではありませんわよ」
第一夫人の奥様がそう励ます様に諭すと意を決したように顔を上げて俺に話し出す。
「私は・・・騎士に成るのが夢でした。
こんな体格ですし、運動も得意ではありませんが努力はしました。
成人前は結構な時間を費やし本格的な訓練も行ったのですよ?元騎士の手ほどきを受けた事も御座います。」
しかし悲しいかな騎士の水準に届く身体能力を手に入れることは叶わず、その努力とは全く関係のない『宝石鑑定』の技能が覚醒してしまう始末。
「技能の恩恵を受ける事が出来ない多くの一般人からしたら、私は大そう恵まれた人間だったでしょう。
私情を挟まなければ私もそう思います。
しかし私が望んだのは魔獣を跳ね除け、国民を守る超常の力を体現する者・・・『騎士』なのです」
静かに話を聞く俺。
幸いこんな雰囲気でも子供たちの笑い声が絶えないからだろう、場の悲壮感は大分和らぎニココラさんの話も詰まる事無く吐き出される。
「私もいい年です。今からどうなるでもない事は分かっております。
ですのでインビジブルウルフ卿のお手伝い、魔獣討伐のお手伝いができないものか・・・と。」
うーん、そう来たか。
どうしたものだろう、通常なら資金面でバックアップしてくれるパトロンの申し出は願ってもない事である。
しかし今世の俺の力はほぼ単独で十分な効果が発揮される。
MMORPGのパーティーで行うボス戦はロールやレベル差はあったものの基本同等の能力を持ったプレイヤーでの協力プレイ。
そういった協力戦ならまだしも、今のところこの世界で俺に並び立つ能力を持つ人類に巡り合えていない事もあって、魔獣戦で言えば俺だけでほぼ全てが完結する様な戦い方を心がけていた。
しかも人間の生活圏に現れる魔獣に限って言えば極端な話し兵站も武器の補充も意味をなさないまで俺との力量差が有る状態だ。
当然油断などしないが、俺の手が回らない程の物量で魔獣が襲ってこない限り意味をなさないだろう。
「群れが発見されたのでしょう?
それこそインビジブルウルフ卿が発見したとか。50頭を超える群れとは想像もつかない多さですがそれ以上の事態が起こらないとも限りません。
その為にもお手伝いできることが有るのではないでしょうか」
よくご存じで。
でもニココラさんの言っている事も一理ある。
・・・そうだな、同じ頭数でもより高位の魔獣だったら更に危険度は跳ね上がるか。
現状では群れの発見の為に俺のマップと索敵の併用使用を国土全体に反映させるにはアホみたいな魔力が必要だ。
余力を考えれば毎回、毎日できる訳でもない。
地道に足で稼いで索敵してもらうってのも一つの手か?
けどそれは騎士団でも行っている、一般人が手を出しても安全上問題があるんじゃないか?
「お手伝いとなれば裏方の仕事になるでしょう、それは一つではありません。
情報収集の他にも魔獣発見時に行う罠設置や陽動での時間稼ぎ、市民に対しては避難時の交通整理も重要な仕事です」
当たり前だけど訓練された人員の準備は平時の方が圧倒的に効率が良い。
そうか、そう言う事か。
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