第384話 這いよるニココラの影

取りあえず騎士がやるには煩雑で細かい業務を代行してくれる組織を目指せばいいのではないかとニココラさんと話を詰めている俺、クルトンです。



ニココラさんの希望を汲むのであれば、直接戦闘に加わらずとも騎士の能力をいかんなく発揮させるための付帯業務を中心に考えなくてはならないだろう。


通常、兵站部門がそれを担う事が多いが、民間でできる事は何だろう。


「諜報活動でしょうか」

ん?まあ、それも有りかと思いますけど騎士の仕事と直接関係あります?



「人相手であれば統制された情報は鋼の剣より大きな効果を発揮する場合が多々あります。

扇動するような魔獣の情報が意図的に流布された場合、民衆は騎士団に都市の防衛を強く望む事でしょう。

国民からすれば当然の事に思われますが、本来の騎士の役目は魔獣の討伐です。

防衛も役割に含まれてはいますが待ち受けるのではなく、此方から接敵地点となる緩衝地帯に打って出ないと魔獣の森と人の生活圏の間に緩衝地帯を設ける、その意味が有りません」


まだ話は続く。

「城塞都市の体を成している王都で言えば、その機能に任せて防護するなら軍でも対応ができます。

しかし魔獣の『討伐』は騎士でないとほぼ無理なのですから」




なるほど、意図しない情報の力で騎士の動きが制限されてしまっては都合が悪いって事か。

民衆の総意が騎士の動きに枷をはめる、それにより本来よりかなり効率の悪い対処を迫られる・・・死の確率を上げてしまう、そんな事は誰も望みはしないだろうに。


でも流す情報次第であり得るのは理解した。



「まずは騎士団と密に連携を取って悪意ある情報を日頃から排除していかねばならないでしょうね。

国の組織では大ぴらに出来ない事でしょうから、民間人の私たちがもしもの時の下地を整えておく為にも積極的に働きかけた方が良いでしょう。

幸い指輪の件で市井から私共への信用も以前以上に高まっておりますので、耳を貸す方も多い事でしょうから」




そして今日の打ち合わせを吟味してまずは素案を作成してほしい、話を通しておるからそれが出来たら近衛騎士団の広報部、アスキアさんに渡してほしいと伝えてお暇する。



意外とこういった活動は民衆の常識すらいつの間にか変革させられている事が有るから侮れない。


実務はニココラさんに任せるにしても、活動の方針は直接国か騎士団がコントロールしないと時代が進むごとに歯止めが利かなくなる可能性も有る。

清廉潔白な志、組織の立ち上げ当時の崇高な理念が次第に歪んでいく事も往々に有るのだから。


経緯は異なるが、治癒魔法協会の様に。



もう夕方になってしまったので侯爵邸にそのまま帰る。

テホア達は疲れてしまったのだろう、それぞれポムとプルの背中にうつぶせに乗って寝ている。

無理もない、色々引っ張りまわしてしまったからな。


絶妙なバランスでテホア達を背中に乗せている狼達に気を使い、俺たちにしてはそこそこゆっくり歩いて何とか陽が沈む直前に到着した。



「おかえりなさいませ」

侍女さんが出迎えてくれて食事の準備ができている事を告げてくる。


軽めの気付けの魔法でテホアとイニマを起すと侍女さんに着替えを任せ、俺も当てがわれた部屋で着替えを済ませると食堂に向かった。


俺が一番最初で、その後10分もしないうちに皆が揃い食事が始まると自然と今日の話題になる。


「今日はソフィー・クロムエル女公爵様をはじめ王城にお勤めなられている方々へのご挨拶に回ってきました」


セリシャール君の話では、

仕事の邪魔をしない様に立ち話の挨拶程度で済ませるつもりだったが、ソフィー様とプサニー伯爵からは強く呼び止められお祝いのお言葉を頂戴するのと合わせて色々話をしたそうだ。


「特にプサニー伯爵様はシンシアに何かあった際には必ず力になるからとのお言葉を頂き、正直大変恐縮してしまいました」


あの人の熱量ならその話も納得する、この前も俺の下宿先に手紙を寄越すマメな人だし。


その手紙には挨拶と俺へのお礼の言葉の他にリーズンボイフ君がいかに可愛いかがビッシリ書いてあって途中から「自慢したいだけなんじゃね?」って思ったくらい。



「クルトンさんはどうでした?」

そう話を振られて俺も今日の件を色々伝えた。


騎乗動物の繁殖施設は順調だった事、特にスレイプニルは元気だった。

諸々のギルドの方達も問題無く忙しくしていたし、ピッグテイルのパスタも相変わらず旨かった。



ニココラさんの件も一応騎士団へ連絡するつもりと伝え、ついでに指輪の件も話をしたところ領主様が乗って来た。



「私の耳には入ってこなかったね。

具体的にどういう効果の指輪なんだい」


シンシアが居る場なので俺もオブラートに包んだ状態で内容を説明する。

「男が男たる所以ゆえんの機能を元気にする指輪です」と。


領主様は直ぐにピンと来たようだ。

「なるほど、なるほど」とウンウン言ってるが目がマジだ。


「そのニココラ氏に連絡を取れば購入の交渉はできるのだね」

ええ、多分?

俺も販売に関しては直接かかわっていないので正直良く分かっていないですが。

紹介状が必要でも俺の名前で書けばどうにでもなりそうだし。


何なら俺が直で作れるし。



量産自動機も俺の手を離れ、販売の方法含めて生産計画も丸投げですからね。

そんな大層な機能を盛り込んだわけでもないからこんな雑なぶん投げ方でも運用できてるんだろう。


効果は抜群だったようだけど。




「少ない労力で最大の効果、素晴らしいじゃないか。

話しを聞くに機能は単純だから壊れる心配もほとんどないんじゃないのかい?」


まあ、そうでしょうね。



「うん、侯爵家にも一つ確保しておくか」


でも注意してくださいね、禿げやすくなりますから。

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