第385話 朝令暮改ではないけれど・・・

翌朝、営業活動したわけでもないのに仕事が増えていくのでいつも通り書き出している俺、クルトンです。



優先順位を付けないとすべての仕事が中途半端に共倒れしてしまいそう。



今日もテホア達は侍女さん達に任せ・・・と言ってもセリシャール君、シンシアと一緒にお土産買いに行くらしい。

なので朝からとてもテンション高かったよ。


それにシンシアはセリシャール君の婚約者として常時護衛が付き、外出するにも諸々の制限が有るだろうから、今の内楽しんでほしい。


・・・そういや護衛は今までも付いてたな、それも騎士が。




俺は午前中の内に仕事の計画を(大雑把にだが)立てて付与術式の改良に取り掛かるつもりだ。


馬車への光学迷彩、気配遮断の付与術式の他に魔力遮断の機能を持たせて検証を進めようと思う。


まあ、これはコルネンに帰ってから、もっと言えば俺が故郷に帰っても続いて行く事だろうけど。

効果の検証の為に魔獣を探して都度試していくという、ある意味俺にしかできない捨て身の検証作業を積み重ねないとならないと思うから。


適当な仕事で実用化させたりしたら、もしもの時に責任が取れない。

”もしもの時”の代償は間違いなく人の命なのだから。



それはともかく計画作成っと・・・。



午後は予め伝えられていた宰相閣下の呼び出しに応え登城する。


時間より少々早めに伺ったのだが執務室に入ると既にフンボルト将軍とフォネルさんが宰相閣下と談笑していた。


「あれ?もしかして来るの遅かったですか」

幾ら優秀な人でも時間にルーズなのは人としての信用を無くす。

この国の人はもっと時間に対して大らかだが、前世の習慣、親からの躾も有り俺はそう思っていたからちょっと心配になって聞いてみる。


「大丈夫、遅れてはおらんよ。

丁度いい頃合いだ」


宰相閣下が手をヒラヒラさせて問題無いとのジェスチャーをするとフォネルさんが腰を浮かせ席を立ち、脇のソファーに座り直すと開けた場所に俺を促す。


いや・・・俺そっちでも良いですよ、フォネルさんより上座なんて落ち着きませんって。


「話の都合でそっちの方が良いんだから座って、座って」


「そう言う事であれば」と体を縮こまらせてソファーに座ると話が再開された。



「今日確認しようと思っていたのは成功裏に終わった魔獣大討伐訓練の終了式典の大まかな日程調整と褒美の話しだ。

すまんがこれは先に話を進めさせてもらった、予め前に伝えていた内容とさほど変わらん、後で目録用の資料を届けるから確認しておいてくれ」

いつになく静に控えめな音量で話すフンボルト将軍がそのまま続ける。


「それとデデリ大隊長が昨晩グレンツ辺境伯領から王都に帰還した。

此方の魔獣討伐戦も終了したとの事だ」


おお!そうなのですね。

被害とかどうだったのでしょうか?


「重傷者が何名か出た様だが一命はとりとめたそうだ。

騎士が続けられるかは分からんがこれでも死者が出なかったのは奇跡的な事だよ。

お前からの事前情報をもとにして入念に巣を調べ、その周りに幾重にも罠を仕掛けてからの討伐戦だったそうだ。

十分な準備期間が取れて良かった、偶発的な戦闘が始まってしまったら騎士団の半数以上は土に還っただろう・・・と言っていた位難しい作戦だったそうだよ」


なるほどね、幾らお師匠様が居た恩の有る辺境伯とは言え、デデリさんがこれほどコルネンを留守にするのは珍しかったもんな。

色々手伝っていたんだろうね。



「だから隊長は今兵舎で泥の様に眠っているよ、多分明日まで起きてはこないだろうね。

ポポにもかなり負担を掛けてしまったようだからクルトン、今日の内に治癒魔法を掛けていってもらえないか?」


フォネルさんからポポの疲れを取る為の治癒魔法を頼まれる。

持ちろん断ろうはずもない、万全の体調に治療しますよ。

任せて下さい。



「それで辺境伯の方の討伐成功の式典も一緒にやってしまおうといった話が出てな。

それなりの規模の予定だった式典がもっと大掛かりになりそうで色々お前にも手伝ってほしいんだ」

宰相閣下からの協力要請。


ええ、何なりと。

こういった事への助力は惜しみません、命を懸けた者達への正当な評価でも有ります。

手は抜きません。



「それを聞いて安心した。

取りあえずは式典の際に褒美の一つとして叙勲される勲章の作成を頼みたい。

関わった者達全てになるから早々直ぐにできなくてもよい、とりあえずは式典に参加する者達の分を。

それとこれはデデリからの願いでもあるのだが・・・クルトン、式典が開催される前にグレンツ辺境伯領へ出向いてほしい。

理由は今回重傷を負った騎士たちの治療の為だ」


俺が言うのも何ですが・・・治癒魔法協会へのご協力は申し出ないので?


「協力は既にしてもらっている。単純に今いる治癒魔法師では完治させるだけの能力が無いのだ。

デデリからの又聞きだが、命に別状は無くても騎士として十全に勤めを果たすまでの能力の回復となるとそう言う事らしい」


「ポシレマギエを向かわせるにも流石に道中の移動に耐えられんだろうしな」と宰相様が腕を組んでそう仰られる。



此方も是非もない。

俺の能力で人助けかできるのならば向かいましょう。


しかし、確か王都からでさえ辺境伯領は馬車で1ヶ月ほどだったはず。

俺の馬車を能力いっぱいに走らせてどの位だろう、2週間とまではいかなくても10日はかかるだろうか。


往復の移動だけで1ヶ月の期間を見ないといけない。

式典まで6ヶ月とすると5か月の間に勲章の作成と、王都に居る間に魔力遮断の付与術式開発の為の資料を買いあさらないとならないだろう。


それに今回依頼のグレンツ辺境伯領内での治療業務。

しかもその間もテホアとイニマの訓練も続けていく必要が有る。

他にもなんかあったような・・・。



もう一度今朝作った計画を見直さないといけない。

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