第386話 総括の前に
「あともう一つ」まだ宰相閣下から話がある様でソファーに座り直す俺、クルトンです。
「『大太刀』と言ったか?お前が作った片刃の曲剣だが取り扱いをどうしようか確認しておこうと思ってな」
今回の大規模魔獣討伐訓練時に俺が拵えたミスリル(魔銀)製の大太刀の事だ。
時間も無かったので製作をスキルにぶん投げ、付与も内側に靭性、表面側に硬化の術式を仕込んだだけの品物だが、その刃長が2m超の大物だけに人を選ぶ武器になってしまった。
俺が知っている限りではデデリさん、フンボルト将軍、そしてラールバウさん位の体格でないと鞘から抜く事も出来ないだろう。
鞘は作ってないけど。
まあ、鞘に細工すれば抜く事自体は出来るけど、その後にあの長さの湾刀を扱う事が出来る人が思い浮かばない。
この国の殆どの騎士、軍人が使うのは両刃の直剣だからね。
「そうだ、長さもそうだが、そもそもこれを扱える者が我が国には居ない。
ベルニイスにはいそうな気もするが。
だからこれも王立博物館に管理してもらおうかと思ってな。今回の大規模討伐訓練の資料としても重要で有るからして」
「どうせお前が持っていても使いどころも無いんだろう?」と宰相閣下からの身もふたもないお言葉。
まあ、殆どが弓で何とかなるし、何なら無手での対処の方が加減もし易いから俺も安心できる。
うん、使わねえな。
カッコいいしそれなりに思い入れもあるけど、俺が作った事を証明してもらえれば問題無いと思う。
材料の魔銀は国の物だしね。
銘を打っていなかったのでそれを打たせてもらえれば問題無い旨伝えると、今日の話はこれでお開きとなる。
実際はまだまだ有るのだけど、それは俺が居なくても決められる話だそうなのでお暇させてもらう事にした。
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さて、王都滞在もそろそろ終盤。
目安あと1週間もしないうちにセリシャール君たちの挨拶周りも完了する事だろうから、帰り支度をぼちぼち始めないとな。
俺の場合は専属の侍女さんがやってくれるわけでもないからね。
取り合えずは歩きながら今後の仕事を思い出して見通しを軽く立てようか。
テホアとイニマの訓練。
これは続けていくとしか言えないか。
勲章の作成。
うん、デザイン含めた仕様を貰えれば作るだけで済む話だ。そんなに込み入った仕様にもならないだろう。
なんたって名誉を『証明』するだけのものだしな。
あ、偽造は出来ない様にしないといけないのか・・・まあ、何とかなるだろう。
測量場所の事前調査。
これもそれなりの時間はかかるだろうが取りあえずのアタリを付ける作業だ。
全国土をいっぺんにしてしまうのも手だが、測量作業そのものが時間的に追いつかないだろうから最悪最初の確認を済ませれば後は都度で良いだろう。
治療を行う為にグレンツ辺境伯領へ。
移動期間だけが問題になるだろう。
できるだけ馬車が止まる事ない様に、ムーシカ、ミーシカへ治癒魔法を活用しての強行軍になるかもしれない。
待ってる人が居る訳だからね。
・・・場合によってはコルネンに戻らずにこのままグレンツ辺境伯領へ向かった方が時間的に都合が良いか?
テホア達にも付いて来てもらわねばならないが、これも訓練として熟せば諸々の熟練度が上がりそうではある。
親御さんたちは少し寂しい思いをさせてしまうが・・・やっぱり厳しいか。
装甲馬車(魔力遮断付き)製作。
まずは検証機の製作。王都滞在時の今の内に必要な資料を手に入れる必要ありそうだ。
前世の装甲車に関する知識なんぞ無いから、まずは目的を満たす検証機を作って改良していこう。
多分これが一番時間かかりそうだな。
・・・そういえば大蛇の革をまだ献上しておりません事よ。
馬車から下してはいるもののそのままだ、今からでも伝えに行って来よう。
話を通しておけば渡すだけなら直ぐだろうし。
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「ほほー、これですか。確かに美しい鱗ですね。
ここまで大きいと使い道が思い付きませんが」
デスヨネー。
あの後アスキアさんに話を通してまずは現物を確認しましょうという事になった。
いま、アスキアさんと一緒に物を見てはいるがやっぱり観賞用や資料用って感じでしょうかね?
「専門家に確認してもらいましょう。
それで再確認ですがこれは”クルトン・インビジブルウルフ騎士爵”から陛下への献上品との事で宜しいんですよね?」
はい、そうです。
こうして献上するのが一番良いだろうとの判断です。
さっきの話では無いですけど使い道が思い付きませんし、かといって処分するのも何か違うと思いますしね。
「陛下は意外とこういった物に興味を持たれる方ですから、きっとお喜びになられると思いますよ。
しかしこんなに大きな蛇なんて私も初めて見ました」
そうなんですよ、ここまで大きいと魔獣以外太刀打ちできなさそうなんですよね。
実際水牛なんか一飲みでしたから。
本当に人の被害が出なくて良かったよ。
「クマや虎以外にもこれだけ大型の生き物がいるとは・・・流石にここまで大きいのは例外にしても魔獣以外の危険も考慮しておかないとなりませんね」
単純にこの質量は脅威ですからねぇ。
「それでは一旦この革はお預かりしておきます。明日早速陛下へ報告しますので何か有ればお知らせしますね」
宜しくお願いします。
ふう、これで荷物の一つが片付いた。
帰りの馬車はお土産買って行っても往路より客室のスペースは広くなるだろう。
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凡そこの時期から、度々王立博物館にインビジフルウルフ騎士爵より珍品が持ち込まれ、寄贈されるという事が起こり始める。
その品物は後に博物館の一コーナーを占有するまでになり、それを目当てに来場する者も増え、そこそこ難解な展示物が有るにもかかわらず市井の者も良く訪れる博物館、公共施設として親しまれるようになった。
後世では貴重な資料となる生物、鉱物の標本も多数あり、「金貨で価値を付けれない展示物が多すぎる」として公共施設が徐々に民営化へ移行する、そんな流れが加速する後世であっても『王立』博物館のままで有り続けたという。
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