第190話 限度
気が付けばその大きな牛は目から光を失い今にも倒れそうな感じで脚が振るえている。
倒れてしまったら最後、喉や腹の柔らかい箇所に蜥蜴共が群がり止めを刺され、蜥蜴達の糧となる事でしょう。
自然の摂理とは・・・、今回であれば牛にとっては無慈悲であるが蜥蜴達には慈悲深い。
善悪の基準で判断できることではないが、しいて言えば弱い方、運が無かった方が悪い。
そんな思いを巡らせている俺、クルトンです。
俺もこの森に入るときに食料調達を目的としていたらこの牛を狩っていたかもしれない。
蜥蜴達も生きる為にしている行為だからここで俺が出張るのも何か違う様な気がする。
このまま見過ごすか・・・。
ってなる訳ねえだろうがぁ!
俺は騎乗動物を探しに来てるんだ、そのでっかい牛、良いじゃん。
草食動物で樹木を難なくかき分けるあの馬力、最高じゃん!
絶対捕獲する。
これは決定事項だ、今俺が決めた。
蜥蜴達、お前たちは俺より弱くそして運が無かったんだ。
殺さないでやるから今回は諦めろ。
そう思考に一旦区切りをつけ認識阻害を解除、魔力に乗せた殺気を爆発させるとビクッとなってる蜥蜴共に一歩で近づき昏睡魔法を打ち込んだ。
見た目の変化はないが昏睡状態となった蜥蜴共の顎を俺が一匹一匹丁寧に開き脚から外す。
全部の蜥蜴を脚から外すと今度は一匹づつ尻尾を掴みハンマー投げの要領でおもいっきり遠くにぶん投げた。
牛は虚ろな目でずっと俺を見ていたが最後の蜥蜴を放り投げるのを確認したからなのだろうか、その場に膝をつくような感じで静かに座り、そしてそのまま横になる。
腹が上下しているのでまだ生きてはいるが血を流しすぎたのだろう、呼吸が荒いのに細い。
結構不味い状態だな。
早速治癒魔法を行使するが脚ではなく胸、腹辺りに手を置き身体全体に魔力を浸透させて治療を進める。
ほどなくして脚の怪我は塞がり噛みつかれた事による雑菌なんかの処置も完了、呼吸も静かに、深くなったので峠を迎える前に治療が完了した様だ。
まずはこれで様子を見よう。
さて、下見のつもりが結構な事になってしまったな、この牛が目を覚ますまで、多分朝まで動けない。
念の為「戻らなくても心配しないで待っててね」と言ってあるから問題はないだろうが・・・問題は目を覚ましたこの牛が懐いてくれるかだな。
出来るだけ手荒な事はしたくないが。
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夜が明けた。
あの後は火を使わない様にパンとハムで晩御飯を取り、牛の側に座禅を組む様な姿勢で爆睡していた。
認識阻害は解除していたがハウジングを展開したから何ら問題は起きなかったよ。
そんで牛はと言うと・・・目を覚ましている。
ハウジングの区画内の草をモッシャモッシャ食んでいる。
逃げないって事は捕獲成功の可能性ありって事かな。
牛の視界に映る様にゆっくり近づいて行くと牛が気付きこちらに顔を向けてきた。
・・・あ、また草を食べだした。
さらに近づいたがそれからはこちらに関心が無いかの様な素振り。
ペタペタペタペタ・・・
触っても反応が無い、ずっと草を食ってる。
腹減ってんのかな、血結構流してたからな。
しかしでけえな、マジでけえ。
乗るだけじゃなくこんなのに荷馬車引かせたらどんだけ牽引できるんだろう凄い事なりそうだな。
オラ、ワクワクすっぞ!・・・・・・いや、ちょっと待て、ダメだキツイぞコレ。
よく考えたら大きすぎる、当然体重もかなりのものだろう。
するとどうなるか、単純に道が痛む。
蹄の跡で多分道がボッコボコになる。
前世の道路、アスファルト舗装なんかは2tの自動車が10回通るよりも20tのトラックが1回通る方が傷むそうだ。
それと同じでこの巨体ではちょっと街道を通るのはマズイ。
通れない訳じゃなくて道を痛めてしまうから。
運用するにしても大きさの限度ってものが有る。
この大きさじゃ厩舎の用意も大変だ。
デデリさんのグリフォンもそれなりにデカいし肉食だから一般厩舎に入れなかったが、侯爵の権力と財力で難なく解決した。
具体的には土地を用意して専用厩舎をぶっ建てた。
自領でもないコルネンに。
しかし現状の俺にはそこまで出来る下地が無い。
建設中の王都の厩舎も大きさ的にはグリフォンが限度だったはずだ。
ああ、そんな事にも考えが至らなかった。
またまた俺、うっかりさん。
もったいない、かなりもったいないが今回は諦めよう、もう二回り位小さければ考えたんだがなあ、は~。
仕方ない、このまま帰るとするか。
兎が確認できただけでも下見の成果が有ったとしよう。
「じゃあ元気でな」
そう牛に声を掛け前脚をポンポン叩くとハウジングの機能を解除、ポンデ石切り場へ向かって出発した。
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ザワザワザワ・・・
パキッツ、パキッツ・・・
ズズズズズ・・・
ズムズムズム・・・
( ゚Д゚)ちょっとちょっと、付いて来てるんですけどっ!
俺が通った後ろが道になってるんですけどっ!
牛が木々をなぎ倒してるんですけどっ!
ここまで付いてこられると下手に認識阻害で姿を消したらこいつが俺を森中探し回ってえらい事なるといけないのでめったな事も出来ない。
どうしよう・・・。
と、判断、決断できずにいるとポンデ石切り場に到着してしまった。
あ、皆引いてますね、そうですよね。
ムーシカ達も固まったように動かないしポムは警戒して唸り声をあげているが他の狼達は股に尻尾挟んで怯えてる。
そして狸は真っ先に寄って来て今は牛の頭の上に鎮座している。
何気にドヤ顔だ。
お前こんな高いとこ登れんのね。
「インビジブルウルフ卿、説明頂けるかな」
騎士さんに説明を求められる。
はい、ええ当然説明いたしますとも。
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