第393話 王都の魔力

朝になりました。

そしてムーシカ達を迎えに行っている俺、クルトンです。



俺以外の人達もいつもより早めに起き出して出発の準備を始めています。

これであれば間違いなく予定通りに出発することができるでしょう。


軽いランニングで厩舎に到着すると、既にムーシカ達は馬車に繋がれ俺を待っている状態だった。

相変わらず仕事が早いな。


「オーナー、おはようございます。ご覧の通り準備は済んでおります」

ミーシカの腹帯を確認しているフィアトさんが顔を上げて俺に挨拶をしてきた。


おはようございます、準備有難うごさいます。

じゃあ早速出発して構いませんか?


「はい、では門を開けましょう、そのまま連れてきて構いませんよ」

フィアトさんは人用とは別の馬車用の入場門に向かい、俺が馬車を動かした時には開錠し門を開け放っていた。


門を通る頃には他の厩務員さんも何人か見送りに寄って来る。

「またのお越しをお待ちしております、オーナー」


皆が一斉に深々と俺に頭を下げる。



・・・ええ、また来ます。

それまでこの厩舎の管理お願いしますね。


「勿論!」

フィアトさんは頭を下げたまま俺に返事を返す。


その声には一切の悲壮感も不安も感じられない。馬、スレイプニルに寄り添うこの仕事が本当に好きなんだろう、そんな感情が伝わってくる。


うん、ここは問題なさそうだ。

さて、侯爵邸に向かうか。



カンダル侯爵邸に到着すると護衛の騎士さん達も到着していて荷物の積み込みを手伝っているところだった。


本来荷物の積み込みは騎士の職務外ではあるが、上級貴族相手には割とこんな事が有るそうで、これは何も忖度している訳でもご機嫌を取っている訳でもなく危険物なんかが混じっていないか、不審者が紛れ込んでいないかの確認を行うのだと説明してくれる。


大昔に精神干渉系の魔法で洗脳した子供の刺客を荷物箱に紛れ込ませた事件が有り、毎回ではないが荷物の積み込み時に騎士が立ち合って手伝う事はそれなりにあるらしい。

特に王都から離れる復路に。



「お屋敷の敷地内で積み込むのにそんな事するんですね」


「まあ、今では旅の安全を願ってのお呪いみたいなもんだよ」

護衛の騎士の一人が教えてくれた。


「そうそう、刺客に仕立てられた身寄りのないその子は騎士団に保護されて後の英雄、最初の『自由騎士』となったんだ。

『初代自由騎士、フレンシ』の逸話の一つさ」


なぬ、そいつが元凶か!


「おいおい、滅多な事は言うなよ。

元々騎士の才能は有ったんだろう、フレンシの強靭な身体能力が有ったからこそ精神干渉系魔法の解除、治療方法が確立されたんだ。

手探り状態だったものだから被検体(フレンシ)に施した洗脳解除の為の治療が実験のそれで、まるで拷問の様だったらしいよ。

そんなフレンシの献身が・・・本人はそんなつもりじゃなかったかもしれないけど・・・それが有ったからこその治癒魔法の進歩だからね」



治癒魔法・・・ですか。



「ああ、っと。仕事に戻らないと」

そう言って騎士さんは荷物の積み込みを再開する。

俺も馬車に積み込み始めないと、そんなに荷物無いからすぐ終わるけどね。



しかし、ここでも治癒魔法か・・・精神干渉系の魔法にも効果が有るのは初耳だな。

今までの会話でこんな話も出てこなかったし俺も試そうと思わなかった。


精神干渉系の魔法にかかっている人も見た事無かったし・・・いや、気付かなかっただけかもしれない。


俺が認識しているよりも魔法の深淵は深く、暗いのだろう。

覗き込むにはより大きな光源を用意して奥を照らさねば見ることが叶わない、そんな大きな洞なのだろう。



馬車に私物とお土産を積み込み終わり、テホアとイニマも乗り込んだ。


相変わらずペスとオベラは一緒で、おやつのお零れを期待している顔でシンシアの脇に寄り添っている。

お、やっぱり一緒に馬車に乗り込みやがった。


もう自分で歩く気ねえな。



ポム、プルは出発を今か今かと待っている様で、ムーシカ達の横で砂塵が舞う位に尻尾をブンブン振っている。

こっちはまるで犬みたい。



そしてフォネルさんが王城から戻って来ると護衛の騎士さんたちと俺とで隊列の位置、有事の際の優先順位の最終確認を行って配置に着いた。



フォネルさんが侯爵様の馬車に出発する旨伝えた後、クウネルに跨ると、

「交易都市コルネンへ出発する!!」


そう号令をかけて空に舞い上がる。






”カラカラカラ・・・、・・・”

馬車が動き出し車輪の回る音が早朝の王都に響く。



今回の王都もそれなりに色々あったな。

未だ俺の知らないこの国の秘密はある様だが、厄介ごとに巻き込まれるなら知らないままの方が良い。


知る必要が有るのなら時が巡ってきたそのタイミングで良いだろう。




澄んだ朝の王都の空気は御者席に座った俺の頬を撫で、魔力の残り香が纏わりつくように鼻腔をくすぐる。


「!」


”ハッ”として俺は御者席で立ち上がり王城に顔を向ける。



今、魔素ではなく魔力を感じた・・・。


大気に混じる魔素は基本的に植物も含めた生物が精製したり、付与術式等で変換しないと魔力にはならない。

今、この周りに影響を及ぼせる程の魔力を変換し放出できるのはイニマ位だが、早朝の為に客室で寝ているイニマの胸にはチェルナー鋼のペンダントが有る。



それに・・・俺の知らない摂理が有るのかもしれないけど・・・この魔力は王城で、食堂の地下で感じた物の様な気がする。



今も微かに感じる王城からの魔力はまるで俺を見送っている様で、城門を出るまで俺にまとわりついていた。

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