第392話 明日への希望

相変わらずフロスミアでパジェからコテンパンにやられている俺、クルトンです。



空を飛ぶ話からゲームの話になり、フロスミアで2局ほど遊んだ後に改めて今の生活がどうか聞いてみる。



話しを聞くとパジェの下には定期的に技能研究者のイエレンさんが訪問して診察と技能の熟達具合を確認しているそうな。


最近は2人のお子さんも一緒に来ることを(ちゃんと適性検査を実施したうえで)許されてパジェの情操教育の一環として一緒に遊んでいる。

うん、友達は超重要。


相手の気持ちを汲み取る能力、(物理の)力加減を学ぶのは一人じゃできないからね。



「次はねぇ・・・いつ来るんだっけ?」

「明後日ですよ」

専属侍女のモーンさんがパジェの言葉に返事をしたうえで、「一緒に遊べる時間をたっぷりとれる様に勉強は済ませておきましょうね」としっかり勉強するように釘をさす。


「でも、あんまり楽しくないんだよね。勉強って」



うん、分かる。

俺も好きな方じゃなかった。

しかも興味を削がれる様な教師の立ち振る舞いなんかが有ったりすると、途端に嫌になるんだよね。



「簡単すぎるんだもの」

俺とは違った理由だったでござる。



簡単すぎるとのたまうパジェ、聞くまでも無く技能のアシストが有るんだろう。

古代人の英知にアクセスし、情報を直に検索、答えを導き出す能力。恐ろしい事にこれはパジェの技能の一部でしかない。


でも・・・これだけ強力な技能だと皆がパジェに頼りきりになるような事になるのではないかと心配になるよな。


将来パジェが居ないと回らない仕事が増えていくと、この子自体がキーパーソン、且つ組織の弱点になってしまう。

今のところではあるが、身体能力は一般人の枠を超える事が無い為にパジェを直接狙われたら自分でどうにもならない事態に陥る可能性は十分にある。


まあ、優秀な護衛が一生つく事になるだろうから問題にはならないか。



『来訪者の加護』と強力で特殊な技能を併せ持つ稀有な存在であるパジェは、俺も立ち会った技能の検証が終わった後に王家の庇護下に入る事になった。


その為に実親も安全上の理由で王城に迎え入れられ、今は城内で生活し事務仕事を任されているそうだ。

何よりパジェと直接顔を合わせる機会も格段に増えて大層喜んでいるってさ。


あと15年もすれば諸々の枷が外れ、親子で暮らせる事になるだろう。

これだけでも腕輪を作った甲斐が有ったというもの。


「インビジブルウルフ卿はもう直ぐ故郷に戻られるとか。

王都で事業も構えておいでですから度々上京されるのでしょう?その際はぜひパジェに会いに来てくださいませ」


ええ、ぜひ伺わせて頂きまs・・・モーンさんなんで知ってるんですか?俺が故郷に戻る事。


「ヒューミス様からお聞きしております、何でもバンペリシュカ伯爵様の甥であらせられるとか。

侍女の間では一時期その話題で持ちきりでしたのよ」


おおぅ、俺も隠していた訳じゃないが・・・。

それでも俺はまごう事なき平民の開拓民ですからね。


まかり間違って騎士爵を叙する事になったがこればかりは嘘を言う訳にはいかない。

そうしないと爵位に応じた仕事と一緒に責任もパスされるんだから。


当たり前の事とはいえそんな上等な人間じゃないんだよ、俺は。


「英雄らしからぬ発言ですわね(笑)

でもそれ故の『自由騎士』なのでしょう。好きにさせるのが一番国益に適うと、邪魔はするなと上級貴族へ宰相閣下から通達も有ったそうですわ」


それは素直に有難い。

単純に厄介ごとが減るのは俺の心の負担も軽くて済む。




それからも時間いっぱいまでパジェとおしゃべりをして後宮を後にする。


「また来てね!!」

うん、また会いに来るよ。



見送りに来てくれたパジェに、俺はそう言って手を振った。



「明日ようやくコルネンに戻る。今日はゆっくり休んでくれ」

侯爵邸に帰り夕食が終わるとカンダル侯爵様から皆にそう伝えられ、それぞれ王都最後の夜を過ごす。


テホア達は今日も狼達と遊んで疲れたんだろう。直ぐに就寝。

他の皆も特に夜更かしする事なくベッドに入るだろう。



そして俺はと言うと・・・特別な事は無い。

今は先日王城の資料室で撮ったスクリーンショットを書き出してまとめている。


取りあえず装甲馬車の実用化を進める為に資料を準備していこうと思う。

故郷に帰ったら陽が沈めば夕食を取って寝るだけと言った生活リズムになるだろうから今以上に夜の時間は自由が利くだろう。

だから設計に費やす時間を確保するのは比較的容易だと思う。


後は飛行機の製作。

これこそいつになるかは分からないから少しづつでも進めて行きたい。


俺が生きているうちに形になれば良いんだけどな。



さて、翌朝は馬車を厩舎に引き取りにいかないといけない。

準備してもらったお土産含め諸々の荷物を積む作業も有る、もうそろそろ寝ようかな。




何だか開拓村から出稼ぎに出発した時の様な感覚が胸に湧き上がる。


ああ、そうだ。

これからまた新しい俺の生活が始まるんだ。


期待と不安・・・違うな。

湧き上がるこの感情は希望、明日は今日よりもっと良くなっていくという希望だ。

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