第394話 「そういや婚約祝いって何が良い?」

コルネンへの復路も順調に進み、往路の様に日に日に商隊、行商人が寄って来ている。

とても平和で特にやる事が無いので御者席に座ったまま魔力遮断のトレーニングをしている俺、クルトンです。




それができる様になれば俺のスキルにも反映されるんじゃないかとダメもとで試している。


実際自分の体臭に気付かない様に、自分自身から発散されている魔力には意識を向けた事が無かったものだから・・・意図的に放出させたことは有るけど・・・止めるというか漏らさない様にする術、切っ掛けと言うかとっかかりの感覚がつかめない。


やっぱりスキルに頼れない事に関して俺はポンコツだな。



うーん、まずは索敵をしながら魔力を広く拡散させ、そこから徐々に範囲を狭めて最後は自分の体の表面まで終息させる・・・そんなのでどうだろう?


上位互換とも言える認識阻害が有るのに本末転倒にも思えるが、そこから派生する新たな能力が有ったりするかもだし、一般の人へ能力を指導するのであればこちらの方が現実的の様な気もするし。



因みにテホアとイニマは馬車の客室内で自分たちの技能制御の訓練中。もうだいぶ上達したけど寝ている時なんかの無意識下は未だ制御できていない。


ここまでくると考えるんじゃなくて体に覚えさせるしかないから、訓練を続けていくしかないだろう。

徐々にではあるが成果は出ているから焦らず続けていくつもりだ。




話しは戻って俺の方の訓練、索敵を広げていくと騎士団が定期的に巡回する街道であってもさほど遠くも無いところに野生動物がちょくちょく引っかかる。


反応が大きそうな、食いでがありそうな獲物を見つけられれば積極的に狩って食事のおかずになるのだが・・・そう上手くもいかないか。




「!!」


”ゴン!”

真上から魔力が近付く感覚が有ってハウジングを展開すると、暫く見ていなかった黒い石が境界線に阻まれ俺の頭上に浮いている。



ハウジングは一旦展開した区画を変更するには解除の後に再展開するしかない。つまり俺を追従する機能は無いので馬車で移動中の俺はハウジングを解除し、落ちてきた魔力石を”パシッ”と掴む。


本当に何なんだろうな、街道を移動している俺の丁度真上に堕ちる様に落下の時間も考えて落としてるって事だよな。

何でこんなに丁寧な仕事するんだ?そんな知能が有るなら俺の目の前に来てくれればいいのに。


ハウジング内なら大雑把な感情、思考は見当つくんだけどなぁ。

毎回毎回危ないったりゃありゃしない。


上空を見上げるともうすでに黒い点になった翼竜が2頭、王都方面に飛び去っている。

当たり前とは言えこっちの都合ガン無視だよな。



堕ちてきた俺の掌より少し大きい黒い石、魔力石を眺め「まあ、素材が手に入ったから良しとするか」と自分を納得させた。



「そういや婚約祝いって何が良い?指輪とか?」

野営の設置が終わり野外で食事の準備をしていると、セリシャール君とシンシアが手伝いに来たので聞いてみる。


お祝いは渡すつもりだったけど何が良いだろうと考えていたんだ。

でもせっかく本人が居るんだから聞いてみた方が早いと思って確認する。宝飾関連なら希望に沿う作品は問題無く作れるだろうし。


何なら腕時計でもいいんだけど。

多分下手な貴金属より後々の価値上がるよ?



「あっと、えっと・・・」

2人は顔を見合わせ、ちょっと困った顔で俺に向き直ってからセリシャール君が話し出す。


「えっと、温泉を掘って頂く事は出来ないでしょうか。

コルネンのクルトンさんが建てた従業員用の宿舎やテホア達の家に有るのが正直羨ましくてですね・・・侯爵家にもお風呂は有りますが温かいお湯にいつでも浸かれるなんて贅沢は流石にできないので、温泉ならそれが叶うのでしょう?」


うん、そうだね。

ただのお湯じゃないから色んな効能が有ったりもするしね、疲れも取れるしお肌にも良いし、物によっては健康を促進してくれたりもするし。


「それを聞くとますますお願いしたいです」

「クルトンさん、温泉一択。絶対それが良い」


シンシアも珍しく食い気味にそう言ってくる。



源泉を確認する為に少し時間はかかるし希望の場所に湧くかは分からないけど、それでよければ構わないよ。


俺の返事を聞いた二人は立ち上がって両腕を天に掲げている。



何か前にも見たなこの絵面えづら



食事も終わり俺たちの警護の負担を軽減する為にハウジングを展開する。


この為、野営の度に騎士さん達がハウジングの範囲を杭で区切り、「この中で野営する分には夜番も含め我々が護衛する」と帯同して来た商隊たちに告げている。


実際はハウジングに任せて夜番の人員は従来の半分以下で熟して、当番外の騎士さん達はゆっくり休んでいる。

それでも問題は無い、お陰で余力を保ったまま護衛を遂行出来て昼の移動も万全の体制を取れているし。


こうして最低限の見張りを置いて夜が更けていく。



俺はテホア、イニマと一緒に自分の馬車内で寝ている。

椅子を跳ね上げテーブルを収納し、平らになった床にしっかり作ったマットを敷いて2枚重ねて縫った厚手の毛布を掛けて快適な体勢での睡眠。

皆の分の大きめの低反発枕も準備しているから肩がこる事も無い。


うん、馬車を大きめに作って良かった。

とっても快適だし積載スペースも十分でこの寝具も余裕で詰める、なんて贅沢。

テントを張る手間もいらないし簡単な料理なら室内の設備で賄えるしとってもラクチン。



王命で国内を駆けまわる事になるんだからこの位の贅沢はしてもバチは当たらないよね。

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