第395話 群れ
今日は少し小雨の天気。
けどまだ石畳が続く街道には全く影響が無く、順調にコルネンへの道のりを進んでいる俺、クルトンです。
このタリシニセリアン国では雨はあまり忌諱されない。
年間を通じて晴れの日が多い為に単純に農作物への恵みとしてとらえられることが多いから。
しかし場所が変われば前世で言う所のスコールが年中有る国もあるそうで、逆にそこでは晴天が続くとお祝いする事もあるみたい。
とにかく今日は俺もレインコート代わりの
この馬車も皆の速度に合わせているのでさほど速度も出ていない。だから客室に居るテホア達も体を固定するベルトは締めずに狼達と一緒にじゃれて遊んでいる様だ。
少し肌寒いこんな時はやっぱり幌馬車より箱馬車の方が快適だよな。
逆に夏なんかは風通しが良くて開放感のある幌馬車の方が気持ち良さそうだ。
まあ、箱馬車の方が断熱効果が高い分、室内の温度調節の付与術式が効率良く利くってメリットも有るんだけども。
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「クルトン、進行方向に向かって2時の方向、徒歩で1時間くらいの場所にスレイプニルが群れでいる。どうする?」
日差しは未だ雲に遮られてはいるものの小雨だった天気も回復したころ、上空を飛んでいたフォネルさんが俺の脇に急降下して来てそう告げる。
”2時の方向”、腕時計を俺が拵えてから目標への方向を現す方法として俺がしばしば使っていた言い方だ。
東西南北でなく、自分の向かっている方向を基準に方角を指し示す事が出来るので、隊の中での意思疎通を図るうえで重宝した事から今はコルネン駐屯騎士団内では当たり前の様に使用されている。
つまり右斜め前のその先に・・・凡そ4km位か・・・群れで居る。
マジか。
「本当ですか?黒鹿とかじゃないですよね」
身体の線は細いが体高で言えばスレイプニルに近く、名前に鹿とついては居るが牛の仲間で角も小さくて目立たない、そんな野生動物だ。
「ああ、間違いない、ザっと15頭以上は居る。仔馬もいる様だからかなり気性は荒くなっていそうだが」
捕獲ができるかできないかで言えば出来る、更にハウジングを使えば一発だ。
けど捕獲してからどうする?連れて行く為の準備が全然できていない。
騎士さんの一人にこの馬車の御者を任せて俺がスレイプニルを捕獲、調教のついでに背に跨って行くか?
騎士さんが乗ってた馬は馬車の脇を併走するように手綱を繋いで。
「無理にとは言わないが滅多にない機会なのでね、私もあれだけの群れに少々興奮している」
今は地上に降り、俺の馬車に併走して走るクウネルの上からフォネルさんが弾んだ声で俺に伝えてくる。
群れだとリーダーがいるんだろうな・・・ムーシカと対峙させて序列を決めさせればすんなりこっちの言う事を聞かないものかね?
スクエアバイソンのヴェルキーみたいに。
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結果から言うと・・・すんなりいったでござる。
取りあえずは一連の経緯を辿ってみよう。
フォネルさんが侯爵様に事情と俺の捕獲案を説明し、その為の作戦実施の許可を頂いて一旦隊を止めた。
昼は過ぎていたが今日は途中の村まで進み、そこで野営する予定だったものだから、到着していないのに停止した侯爵様の隊列に帯同する皆が訝しむ。
騒ぎはしない物の「何かトラブルか?」と不安を感じている皆の空気が伝わってくる。
なので騎士と侯爵様の従者が手分けして商隊や行商人へトラブルではない事、スレイプニルを発見したので急遽捕獲作戦を実施するとの説明を行い不安を払しょくする。
俺は馬車からムーシカを外し跨ると、それが落ち着いたのを確認してから群れの居る現場に走って行った。
途中で認識阻害を発動、そこそこの距離まで行くとムーシカを止めいったん降りる。
ムーシカへの認識阻害を外し、群れの方へ進ませていくと群れの1頭がムーシカの存在に気付いた。
途端にその情報は群れ内に伝達され、皆の動きが一瞬止まる。
「(ん?)」
何だか様子が変だ。
成体から子供までそれぞれの個体が居るが、成体でもかなり若い個体が多い様に見える。
それに怪我をして血を流している物まで居る、ってか結構怪我している個体多いな。
どう言う事だ?
ムーシカが更に近づいて行くとゆっくり群れが寄って来る、見るからに敵意は無く逆にホッとした雰囲気さえ感じる。
「(妙だな、序列をハッキリさせずにムーシカをリーダーに迎えるのか・・・)」
嫌な感じがして索敵を全方位に広く展開する・・・居た。
1頭、魔獣だ。
それなりに街道から外れているとはいえ、こんな簡単に見つかるのも珍しいんじゃないか?やっぱり何か世界が変わっている感じがするな。
恐らくこの群れは魔獣に襲われたんだろう。
そしてこの群れは本来もっと大きくて、魔獣から逃れるために何頭かは足止めの為に犠牲になったのだと思う、状況からの想像だけど。
そして俺たちにとっては不幸な事にスレイプニル達は魔獣を人間の生活圏、今回は街道近くまで引っ張ってきてしまったって顛末なんだろう。
その証拠にフラフラ方向が定まらない様に見えて、血の匂いと魔力につられて確実にこちらの方に魔獣が近付いて来る。
なるほど、つまりはムーシカ程の強靭な個体に出会えて庇護を求めてきたんだろうな。
けど幾らムーシカでも魔獣に対峙するのは無理だ、逃げるならまだしも戦うとなると内包する魔力量に差が有りすぎる。
でもまあいい、それであれば俺が何とかするだけ。
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俺は認識阻害を解き姿を現すと魔力に指向性を持たせ魔獣の方向へ放つ。
突然現れた俺に群れは一瞬パニックになりかけるがムーシカが一声
そして俺が放った魔力に感づいた魔獣は、ハッキリ標的(俺)を認識して一直線に向かって来た。
未だ目視は出来ないが、俺の索敵では猛スピードでこちらに向かってくる魔獣の位置が分かる・・・ほら、もう見えた。
今回は・・・虎?いや、細身のあのシルエットは豹か。
いずれにせよ猫系統の魔獣は大きさの割に強力な個体が多くて厄介なんだっけか。
近接戦ではかなり苦戦するって騎士さん達が言ってたな。
討伐に問題は無いけれど、馬車から弓を持ってくればよかったと少し後悔している俺だった。
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