第328話 女傑

朝食、軽めではあるがそれでも俺が居るからだろう、皿が空になる度に次々料理が運ばれてくる。

どれも美味いのでモッシャモッシャ食べ続けている俺、クルトンです。



「そのお体に違わず健啖家でいらっしゃるのね。

好き嫌いなく、よく食べる事だけで多くの病を遠ざけます、とても良い事ですよ」


サーラン様からそうお褒めの言葉(?)を頂き、口にまだ物が入っているのでお礼の言葉を言えずにいると直ぐに、

「貴方も書類仕事だけではなくもっと運動をしてしっかり食事をとらなければ」

と領主様へのお小言が始まった。


領主様は「忙しいんだから仕方ないだろう」と苦笑いしながら反論するが、反対に居るソリーダ様からも「セリシャールから剣の稽古をつけてもらえばいい」とか言われて小さくなっている。


「君は槍の天武を持っているからそんな事言えるんだよ」とソリーダ様に反論する領主様。


個々人の才で得意不得意は変わるから仕方ないが領主様は武芸が苦手だったようだ。

その代わり人心掌握の術に長けていたが、第一夫人のソリーダ様は今の話にあった様に槍の天武を持っているそうで物理では領主様は全くご婦人に叶わないらしい。


これがもとで奥さんに頭が上がらないみたい、そんなことも有るよね。


「私は騎士ですが槍の腕ではまだ母上に敵いません」

槍限定とはいえ騎士であるセリシャール君より強いのか、しかも女性なのに。

それはお世辞抜きで凄い事だな流石天武持ち。



因みにこの世界で言う所の『天武』とは才能の格で言う最上位の能力の事。

例え幼児であっても剣の天武を持つ者に持たざる者が剣で挑んでもまず勝てない。


入念な準備と運が味方しないと抗えない、運命に定められた不条理な摂理の様なものだ。


あ、でも精霊の加護持ちは存在自体がこれ以上なので別格です。



けれど結構アグレッシブなご婦人で

「ええ、槍でならまだまだ息子に負けはしませんよ。

因みにインビジブルウルフ卿は何を修めているのかしら」

と、話を繋げて俺に水を向けてくる。


そんな期待に応える様な返答は出来ませんよ。


武器は弓と杖(棒)位しかまともに使った事が無い。

あと前世の小学生の時にスポ少で習った剣道くらい。

ナイフは持っているが基本解体用だし。

そもそも人相手ではオーバーキルだし、それを制御できるほど熟達してる武器など無い。


「母上、インビジブルウルフ卿が人相手に武器を使う事は極々稀です。

噂はお聞きになられているでしょう?デデリ大隊長も王都のフンボルト将軍相手でも無手であしらう程なのですから」


「あら、そう?でもピンとこないのよ。

あの二人の英雄が手も足も出なかったなんて」


「ソリーダ、先入観で結論を出すのは貴方の悪い癖ですよ。

例え信じられなくとも騎士団内で事実として扱われているのです。しかも本人が目の前にいるのにあなたは何も感じないのですか?」

サーラン様が第一夫人のソリーダ様を嗜める。


「そんな事を言うけどねぇ」とソリーダ様は納得していない様子。

逆にサーラン様は殊更ことさら俺を警戒しているように見える。



「はあ・・・、私も聞いた話でしかありませんがソリーダ母上はデデリ大隊長から何度も稽古を付けて戴いた事が有って、今でも師匠と慕っておいでです。

そんな事ですから思う所が有るのでしょう」


「デデリ大隊長の強さを肌感覚で分かっているので”先入観で結論を出す”と言われるのに異論があるのでしょうね」

セリシャール君が事情を解説してくれる。


「それとサーラン母上は魔力感知のスペシャリストです、事前の情報も含めクルトンさんの能力をいち早く、正しく把握されたのでしょう」


あ、そう。

けど貴族って凄いな、こんなに技能持ちがゴロゴロいるんだもんな。


「我々からすると複数の技能を持ち、それを使いこなすクルトンさんの方がどうかしてるんですけどね」

言い方ぁ。



見たところご婦人たちは仲が悪い訳ではなく、生まれは違えど家族として認め合っているんだろう、だからこそ本当の姉妹の様でお互い遠慮が無い。


そして領主様は両ご婦人が色々言い合っている間、空気になってやり過ごしている。



そして何故か中庭に居るでござる。


「本当に無手で良いのね?死んでも自分の治癒魔法で何とかして頂戴よ」


そしてなぜか槍を持ったソリーダ様が俺の前に居るでござる。

そして無茶を言っているでござる。



俺の力について色々質問を受け正直に答えるも、それが余計嘘っぽかったのか実際確認すると言い出してこの状況。


今までも有ったよこんな事。

何よ?、このラノベ展開。



ねえねえセリシャール君、今からでも止めてくれよう。


「ソリーダ母上は武人を自称していますから多少の怪我は問題にならないでしょう。

でも手加減してくださいよ」


ねえ、俺の話聞いてた?



「クルトンさん頑張って」

そしてシンシアが俺を応援してくれている、うん頑張るよ・・・・。


改めてセリシャール君が俺の脇に来て小声でアドバイスしてきた。

「一瞬で決着が付くと・・・、クルトンさんのいつも通りの戦い方だと納得しないと思いますので出来るだけ力の差を思い知らせてください。

それが後々の面倒事を減らします」


自分の母親なのに容赦ないね、君。





「ソリーダ、ここまでしなくともいいだろう?いくら何でも無謀だよ」

そして彼方では領主様が一生懸命説得しているが・・・


「無駄ですね、こうなると母上は自分の目で見て納得しない限り収まりません」

いや、流されてこんな状況なってるけど、そもそもソリーダ様の性格最初っから把握してるんだろうからセリシャール君はこんな状況も予想できてたんじゃない?

君の技能はそんな力の発揮の仕方するんじゃないの?俺の想像だけど。



「詳しくは言えませんが、これが最良としか・・・」


あ、そう・・・なら仕方ないね。

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