第327話 義母

本日は領主様のお宅に宿泊する事となった。

何とお風呂までいただいてさっぱりしている俺、クルトンです。



今はふかふかのベッドに寝転がりまったりしている最中だ。


光の魔法で淡い灯りをともし天井を向いてボーっとしている。

さて、大体の仕事は片付いた、細々した申請書類の作成は有るものの残っている事と言ったら王都からのお貴族様達を迎え、仕事の訓練する事くらいかな。



・・・いや待て、とても大事な事が有った。

パルトさんから紹介、情報を貰った治癒魔法師の元同僚の方達とアポイントとらなければ。


確か4人、名前は・・・。


ベッド脇に置いたバッグの中から大事に仕舞っていた紙を取り出し広げる。

オズドラさん(男性)、クーラさん(女性)、パラメミナさん(女性)、ハイロンさん(男性)の四人か・・・。


伯父さんのパン屋に宝飾工房の伝手など、それなりに顔を合わせる人は多かったがどれも聞いた事無い名前だ。


・・・まあそうか、特にここは貿易都市で、仕事に来ている人たちの出入りも勘定すれば人の数は王都を超えるんじゃないかな。


出稼ぎの2年くらいしか住んでいないし、何ならその間も王都に居た期間が結構あった。

知らなくて当たり前か。



一応名前をキーワードに索敵で確認してみよう。

それではっきりしなければもう足を使って探すしかない、場合によっては領主様の協力もお願いしてみようかな。


でも・・・今は眠い、もうこのまま寝てしまいたい、この件は明日にしよう。



もう習慣となってしまっているので俺の朝は早い。


昨日の事を思い出しマップと索敵の力を解放し治癒魔法師の4人について探る。

俺を中心に波紋の様に魔力を広げていって・・・うん、一応4人コルネンに居て存命している様だ。


さて、ならば残りの作業は後にして朝食前に侍女さんが俺を起しに来るまで、宛がわれた無駄に(おっと失礼)広い部屋、寝室で空手の型の見直しをする。


ゆっくり、ひと動作毎に確認、修正しながら、しっかり力んで筋肉に負荷を掛けながら動作を熟すと自然に汗が溢れ絨毯に落ちる。


・・・後で水魔法で掃除するから勘弁してほしい。



”コンコン、コンコン”

暫く練習しているとどうやら侍女さんが起しに来た様だ。


「はい、起きてます。どうぞ」


一呼吸置いた後に開けた扉から侍女さんが入試る、一礼した後に「あと少しでお食事の準備が整いまうのでご準備を」と伝えてくる。


借りた寝間着(何故か俺の体格にぴったりのデカいのが準備してあった)から着替える為、今朝ベッドの上に準備した服を手に取るが・・・・。


「あ、一人で出来ますからお手伝いは良いですよ」

侍女さんが待機していたのでそう告げて部屋から退出してもらう。


ホント、こんなの慣れないのよね。

自分の事は自分でってのが前世から沁みついてるから『お貴族様』のこういったところが馴染めない。


侍女さんも仕事だから仕方ないんだろうけどここは勘弁してもらおう。





着替えの後、汗でビッショビショになった寝間着を、持参していた生成りの綿袋に入れて侍女さんに渡す。

すみませんね、汚してしまって。


「いえ、全く構いませんよ」


微笑んでそう言ってくれる気遣いマジ感謝。

汚物を見る様な目を向けられたらどうしようかと少し緊張していたから。


食堂まで案内してもらい部屋に入るとセリシャール君とシンシア、そしてファテレース君が既にいた。


「おはよう、インビジブルウルフ卿!」


おはようございます。

真っ先に挨拶してくるファテレース君、朝から元気いっぱいだ。


セリシャール君とシンシアにも朝の挨拶をして席に着く。

少しの間談笑していると領主様がやって来た、恐らく奥様だろう二人の女性を連れ立って。


「おはよう、インビジブルウルフ卿。

昨日はゆっくり眠れたかな?」


ええ、おかげさまでとても良い寝心地でした。

俺が寝ても余る位大きなベッドでしたのでお世辞抜きでとても有り難かったです。


そう、今回当てがわれて部屋に有ったベッドは俺が背を伸ばしても寝れるくらいのしっかりした大きさの物で、更にマットの硬さも俺の体重を十分支えてくれるとても寝心地の良い物だった。


俺もこの品質の物は作れはするが、置き場所が無くて諦めてたんだよね。


実家に帰ったら俺のベッド新調しようかな。



「さて、食事の前に妻たちを紹介しようか。」

領主様は引かれた椅子にさっさと座ってまだ立っている両隣の女性を紹介する。


「こちらが、ソリーダで、こっちがサーランだ。

何かの折には手を貸してやってほしい」


「初めまして、クルトン・インビシブルウルフ卿。セリシャールの母、ソリーダで御座います」

「初めまして。ファテレースの母サーランで御座います」

一糸乱れぬ綺麗な所作でカーテシーをしてくる両ご婦人たち。


すげえな、これシンシアも覚えなきゃならんのか。

ちらっとシンシアを見ると口は笑っているのに目が酸素不足の魚の様だ、ご愁傷様。



俺も椅子から立ち上がり、目を伏せるのと同時に右足を引き膝を軽く曲げる。

「クルトン・インビジブルウルフ騎士爵です。

以後お見知りおきを」


こんなもんでどうでしょう?及第点いってますかね。



「お話は息子から伺っておりますわ、でも聞くのと見るのとでは大違いね。

狼と聞いていたけどまるで雪山の虎の様だわ」


コロコロ笑いながらそう言ってくるソリーダ様。

特に言及してこないところを見ると先程の俺の挨拶はとりあえず問題は無かったようだ。


「なんでも拵えるかなりの腕の職人だとか、カンダル侯爵領に貴方の様な者が要る事は大変幸運な事です。

これからも助力を求めるでしょうが頼みますよ。

それと、夫にもねだっているのですけど今度当家の馬車も用立ててもらえないかしら。

勿論十分な対価は準備します」

サーラン様はいきなり現実的な話しをしてくる。


何だか自分の子供達とは性格がかなり違うみたい、それこそ母親が逆なんじゃね?って感じ。


でも領主様と同じく権力をかさに着る所作は微塵も無い、求める事に対してもちゃんと報酬の話をセットでしてくる。

正しく為政者の振る舞いを理解しているんだろうな。


そしてどのタイミングで権力を振るうべきかも心得ているって事だろう。



この二人がシンシアの義母になる訳だから、もう少し彼女たちの性格を理解するように努めないとまずいよな、シンシアの為にも。

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