第371話 露払い

「え!バンペリシュカ伯爵殿はクルトンさんの伯父上なのですか!?」

そうなんですよ、本当ビックリですよね?


と、セリシャール君にお道化てみせる俺、クルトンです。



ヒューミスさんが侍女としてこの部屋に居た事でブラトル伯父さんの話題になり、現在のバンペリシュカ伯爵当主が母さんの実兄である事がバレたでござる。

隠してたわけではないけど。



「なんとなんと・・・そうだったの。

当代のバンペリシュカ伯爵が携わった兵站業務は少ない量で最大の効果を発揮させると評判だったんだよ。

彼と同隊する時は同じ物資でも余力が確保できて心に余裕が持てたのを今でも良く覚えてる」


「ああ、古参の騎士にしてはかなり頭が柔らかくて他部署との交渉役に良く指名されたと聞いた事が有る」


さっき部屋を訪ねてきたフォネルさんと領主様からの評判もなかなかの物ですな、伯父さん。

ヒューミスさんもすましているが、その顔もなんだか誇らしそうに見える。


「そう考えるとクルトンさんの家系は優秀な人が多いですね。

兄弟の能力もさることながら、彼らを育て教育したご両親もなかなかのものですよ」



そうそう、この国では人を褒める時はその人を直接ではなく、その親を褒める事が結構多い。

人は先祖から綿々と繋がっているという考え方から来る風習の一つだろうね。


そんなものだから親を褒められると自分も褒められているって事なので結構嬉しい。



俺が鼻の穴を膨らませていると、ヒューミスさんから以前博物館に管理を任せたアレキサンドライトの話題を振られる。


「あの宝石は無事に公開の準備が整ったそうですわ。

早速貴族のご婦人たちが情報を聞きつけて見学の申請が既に届いていると報告が有りました」


ん?

ヒューミスさんの所にそんな情報も入って来るんですか?


「王都では当家がインビジブルウルフ卿の政治的な代理人になっていますからね。

そうですね・・・当家は大店(インビジブルウルフ)の一次代理店、もしくは直轄の支店と言った立ち位置でしょうか。

王都の上級貴族の方々には当家のブラトルとインビジブルウルフ卿の関係も隠しておりませんし」


喧伝はしないが聞かれたら答えるといったところか、魔獣を単騎で駆逐する俺との繋がりがあるって事を。


「効き目があるとは思っていましたが予想以上です」

厄介ごとと一緒に余計な仕事も減って助かっているとの事、良いんじゃない、舐めたことしてくる輩への薬としても有効だと思う。




「薬で済めばいいけどね」

フォネルさんがポツリと呟いた。



まったりとしたおしゃべりとお茶を楽しんでいると部屋がノックされ、シンシアの支度が終わったと侍女さんが伝えてきた。


隣に皆が移動、シンシアの着付けの塩梅を確認する。


ノックの後、案内の侍女さんに続き皆が部屋に入ると窓際にいたシンシアがゆっくり振り返る。


「ほう」



まだ成長途中の12歳という事も有り背丈は低く、華奢ではあるものの、俺が拵えた薄桃色のドレスが体を包む羽の様にふわりとしたボリュームを与えて実際より少し大きくなったように感じる。


髪もアップにして、かんざし状の髪飾りで止めていて少し大人の雰囲気。

因みに髪飾りはルビーをあしらった俺の作品だ。




「あ、その、えっと・・・綺麗だよ」


「・・・有難う」



なんだよ、空気にC12H22O11(ショ糖)がタップり溶け込んだ感じだよ!

うらやまけしからん!

もう、勝手に幸せになれば良いのに!!



起き出したテホアとイニマも目をこすりながらボーとしていたが段々シンシアに焦点が合い出すと

「スゲー!」

「すげー」


「綺麗!」

「きれー」


とシンシアの周りをグルグル回り出してテンション上がっている。



皆に綺麗だと褒められいつになく恥ずかしがっていたシンシアだが、やっぱりセリシャール君からの言葉が一番うれしかったようだ。



はにかむ様に笑い合う二人の未来は平坦な道ではないかもしれないけど、きっと大丈夫。


安心して生きていってほしい。

万全に整える事は出来ないかもしれないけれど、俺を含めた先人たちが今のこの世界の露払い役を務めていく。


だから、君たちはその先の未来を切り開いて行ってほしい。



シンシアのお化粧も落として衣装合わせが終わった後、諸々の支度のそのまた段取りを済ませて王城を出る。

そして王都のカンダル侯爵家邸宅に到着、今は晩御飯を頂いております。

やはり上級貴族ともなると王都にこんな大きな家が有るんですね、すげえな。



「いや、地価で言えば君の王都の土地の方がよっぽど凄いんだからね、もしかして知ってて言ってる?」

ご相伴に預かっている晩御飯を皆で食べながら領主様から俺の騎乗動物の繁殖場の土地の話を言われる。


以前捕獲したスレイプニルがドナドナされた場所、ここ王都の俺の厩舎でそのスレイプニルたちが飼育されている。


時間あったら明日見に行って来ようっと。


3頭のうち運良くメスが2頭捕獲できたから本来の事業がこれで進められるんじゃなかろうか。

頼む、成功してくれ、俺の不労所得の為に。



「今日の話の通り陛下への婚約の報告は三日後だ。私とセリシャール、あとシンシアもだね、挨拶周りと各部署との調整が有るから二日間びっちり走り回る事になるだろうけど君はどうする?

自由騎士の君は極論を言えば当日陛下の脇に立って頷いているだけでも構わないんだけども」


え、そうなの?言葉通りとは言え自由過ぎないですか、それ。


「クルトンさん、極論ですよ。

今回はシンシアの義父としてちゃんと側に居てください」


何だか領主様から揶揄からかわれた様だ、セリシャール君がちゃんと話を軌道修正してくれる。


「先にも話したけど報告だけだからそれはすぐ終わると思う。

ただ君の義娘という事も有るから何か陛下からお言葉を頂戴するだろうねぇ」


「そうですね、大規模魔獣討伐演習の実績についての式典も後に控えていますから、そのままその打ち合わせになってしまうかもしれません」


「なんたって53頭の魔獣討伐”訓練”ですから。

それを聞いた人は訳分からないでしょうね、”それって訓練なの?”ってきっと聞いてきますよ」

とってもいい笑顔で自分の予想を伝えてくるセリシャール君。

多分その通りになるんだろうね。




思ったより今回の王都滞在も時間が掛かりそうだ。


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