第133話 膝の治療

思ったより付与の効果が高かったのか、媒体としている魔力量が多かったのかシンシアが操るタクトからの魔力の流れは水道から出てくる水のように一定量止めどなく放出されている。

そろそろマズイと感じている俺、クルトンです。


「魔力を込めるのを止めてみようか」

そうシンシアに話しかけると「うん」と言ったが早いかタクトからの魔力放出がぴたりと止んだ。


魔力の制御は俺教える事無いんじゃねえか?

俺が知っている知識を教えるだけで勝手に成長していきそうな感じがするんだが。



・・・取りあえずはシンシアの足の治療を済ませてからだな。



カサンドラ宝飾工房を後にして下宿先に戻る。

1階のシンシアの部屋に入り治療の為にベッドに寝かせその横に椅子を引き寄せ俺が座る。


本格的な治療は明日からの予定だが状況確認の為右膝に手を当ててスキルを行使する。

・・・まあ分かっていた事だが関節の骨、筋肉、筋がおかしな状態で治癒してしまっていてあらゆる場所に歪みを生じさせている。多分だがこのままだと反対側の足や腰、肩、首にも影響出ると思う。

俺に医者の知識は無いが、治癒魔法のスキルが脳内にぼんやり浮かび上がらせる治癒方法から逆算するにそう感じる。


一度組織ごと分解して再構築した方が早いとスキルは言ってくるが、それはちょっと待ってほしい。

かなりスプラッターな絵面になる、ちょっと俺が耐えられるか分からない。


麻酔でもあればいいかもしれないがシンシアの精神的ストレスも相当なものになるだろう。

・・・いや、俺『睡眠』の魔法使えたよな。『昏睡』、深い眠りは『麻酔』に近いものが有るらしいから出来るんじゃね?


いやいや、シンシアで人体実験みたいな事するのは不味い。

これなら狩りの獲物で試してみるんだった。

今度やってみよう、絶対今後の役に立つ。




・・・明日からのつもりだったが治癒魔法使ってみようか。

なのでまずは確実に治す事『だけ』考えて治癒魔法を行使する。

大丈夫、レイニーさんすら治療したんだから。


触れた手から魔力を膝に伝えて患部と俺の意識を繋げる。

本来あるべき姿へ各組織が修復していく様を思い描き世界に祈る。

祈ると言っても『この子の膝の本来あるべき姿』を世界に登録していく感覚に近い。


そして今回も俺とシンシアを淡い光が包み込むが、レイニーさんの時とは違い次第に患部である膝とそこに触れている俺の手に収束していく。


収束した光の中では俺の手が皮膚、筋肉、血管、骨と徐々に分解、

分解したそれが膝を巻き込む様に包み込んだかと思うと今度は同じように膝を分解していく。


正直『ギョッ』としてかなり驚き狼狽したがそれをシンシアに気取られないように平静を装う。

うん、俺頑張った。


問題ないはずだ、今までと違うパターンだがスキルは異常を知らせてこない、「大丈夫、問題ない」とシンシアに向けてなのか俺にか分からないそんな言葉を発し治療を継続する。



そうしているうちに今度は今までの逆再生を見ている様に骨、血管、筋肉、皮膚がみるみる構築され、淡く輝いていた光が消えたそこには・・・直感で分かる、これは『治療を終えた膝』だ。



治療を終えた事を伝え「膝は動かせる?」と問いかけるとちょっと困ったように「膝から下の感覚が無い」とシンシアが答えたもんだから焦ってもう一度患部に触れる。


・・・今まさに血液が徐々に細胞内に巡っていっている。

これは魔力か?血液と一緒にこれも徐々に染みわたっていっている。


膝を含めふくらはぎ、足首、足の裏を按摩でほぐしていくと血液のめぐりが加速されるようにどんどん浸透していった。


「!」

感覚は戻った様だ。足の指を動かしている、足首も。


「膝は動く?」そう聞くとシンシアは体を起こしてからゆっくり膝を曲げていく。

今までより深く膝が曲がっていくにしたがい、その瞳は大きく見開かれ潤みそして涙が零れた。

「・・・動くよ」


そうか、今日はここまで、念のため歩くのは明日から。

今までと勝手が違うだろうから、これから歩く練習をしていこう。


「うん(グスッ)」



「「「「「「良かった(グスッ)」」」」」」


うん、静かにしてくれていたのは有難いのですけどそこまで気を使わなくても良いですよ?


扉の向こうには心配していた叔父さん達が居て施術が完了した事を喜んでいた。





お姫様抱っこでダイニングまで運び椅子に座らせ皆で晩御飯を取る。

話題は当然シンシアの膝の事だ。


「こんなに早く終わるなんてな、前は1週間かかるかもって言ってたのに」

ええ、この一年で俺も成長したという事で。


「それにしても良かったわ、治療中は痛みも無かったのでしょう?」

「うん、全然」


そう、結構な荒治療になるかと思っていたのにスキルに任せたら結果事前に知らせてきた分解、再構築ですんなり済んだ。

グロかったけど。


でも俺の手まで分解ってのは釈然としない。

「必要な事だったのか?」

俺の手のひらを見てポツリとつぶやくがスキルは何も返しては来ない。



「今晩は念の為同じ部屋に私が寝るわ」

叔母さんがそう提案してくれる。

大変ありがたい、ご厚意に甘えさせていただきます。


男の俺では不都合な事もあるだろうしね。




シンシアも今日はゆっくり休むといい、明日からリハビリになるだろうから。

脅す訳じゃないが結構辛いらしいし。

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