第132話 治癒魔法

シンシアの治癒魔法については俺が教える事になった。

色々カリキュラムを立てないと俺が居なくなった後大変だろうから十分な準備をしなければなるまい。

一番弟子が出来てやる気が湧いてきた俺、クルトンです。



では手始めに、と言うか先にあそこにいるセリシャールさんを治療しましょう。

さっきからピクピクしてるから。


シンシアに説明しながら治癒魔法を行使する。

「一応患部に手を当てて症状を確認(スキャン)するんだけど・・・まあこれの説明は後でしよう。

目で見て明らかに判断付く内容・・・過負荷による筋肉、骨、筋の摩耗と言うか破壊だね、血管、神経なんかも影響してるんだろうけどまずは治る様に、祈る様に魔力を患者に浸透させる」


そう言いながら触れた俺の手から漏れる様に徐々に淡い光がセリシャールさんを包み込むと、痛みに歪めていた顔が穏やかになっていく。

けど胸も打ったのかな?呼吸がぎくしゃくしている。

ならばと胸骨と横隔膜、肺、気道、鼻腔を意識して魔力をしみ込ませる。


「ああ、助かった」

セリシャールさんが一息ついたようにそう言うと起き上がって胡坐をかく。


かなりコテンパンにやられましたね。

「お恥ずかしい、しかし私が望んだことだからね」


ほう、なぜに。

「守る者が増えるからね」


ほうほうほう。

・・・勘違いじゃないですか?


「私の勘はよく当たるのだよ、陛下からお褒めの言葉を頂いたこともある程だ」

まあ、良いでしょう。

それでお体はいかがですか?


「問題ない、もう一度今度はフォネル殿にお相手願おう」

そう言うとまた訓練に戻って行った。


こういった姿を見せていれば爵位を継いだ時に人心の掌握も楽になるってのも有るんだろうが俺が見るに本人の性分だな。

損な性格だが嫌いじゃない。


脇を見て「どうだった?」そうシンシアに問うと、

「痛そうだった、可哀そう・・・」

との感想。


そうか、そう思うか。

なら痛みを取り除いてもらえるように世界に祈ればいい。

まずはそこからやってみよう。


誤解を与える祈り方だと真逆の効果を発揮しちゃいそうだからな。



コロッセオをお暇してポムに乗ったシンシアを連れてコルネンを案内する。

大通りから雑貨店、衣類、食料を扱う市場やお食事処。


因みにポムに乗って歩くのは目立つからさっきから俺の認識阻害の影響下にある。


一度来た道を戻って『ダンデライオン』で昼食を済ませてから俺の職場であるカサンドラ宝飾工房へ案内する。


こんにちわ、クルトンです。

「おう、その嬢ちゃんか?」


親方が迎えてくれます。


ええ、街でなんかあったら避難先でここに駆け込むと思うので顔合わせに来ました。

「ああ、よろしくな。俺が8代目カサンドラだ」

そう言って右手を差し出す。


「シンシアです、宜しくお願いします」

シンシアも手を差し出し握手を交わす。


親方って8代目なんだ、初めて知った。



それで俺の仕事場もせっかくだから見てもらおうと思って、構わないですよね。

「おう、良いぞ。ルーペお茶でも出してやってくれ」


俺が仕事場まで案内して椅子を勧めてそこにシンシアが座る。

ポム達は護衛のつもりなんだろう、今は工房玄関口で神社の狛犬の様な感じで待機している。


「ここが俺の仕事場、カサンドラ工房から間借りしている」

シンシアに渡したタクトもここで作った。


「・・・これは?」

ああ、ダイyゲフンゲフン、透明な材料で作った狼だよ。

俺の銘を模したもので気に入ったから飾ってるんだ。


「とっても綺麗」

だろう、ガラスで作ってプレゼントしようか?


「・・・いいの?」

ああ、一度作ったものはそんな手間でも無いしね。

スキル様様だ。


「じゃあ・・・モデルはポムで作って欲しい」

いいぞ、材料の準備が出来たら作ってあげるよ。

川に砂取に行くだけだしな。


「嬉しい」



ではそろそろ・・・タクトは持ってきてるからちょっと使ってみようか。

不具合あればここで治そう。



特に何をするでもない、魔銀製のタクトに体内の魔力を通す練習。


因みに俺謹製の魔銀のタクトだから純度はかなり高い。

だが、その分鉄と比べても強度は落ちる。

なのでステンレス鋼を芯材にして拵えているのがこのタクトの特徴の一つ。

魔法を行使するのに強度が必要かと問われれば、確かに微妙なのだが使用する環境次第で重要度が爆上がりする。

野戦病院での治療であれば後方とは言えモロ戦場下での作業、そんなところで破損したりしたら修理できる保証はない。

頑丈に越した事は無い。


もう一つの特徴は・・・

「すごい、すごい、光ってる!」

術者の魔力を媒体にして空気中の魔素から変換した魔力を出力に加える付与を施している。

魔力の増幅器ですね。

『魔素が有る空間』という制限は付くがこの世界では魔素の無い場所の方が圧倒的に少ないらしいからこれについては問題視していない。

仮にこの機能が働かなくても使用者の素の魔力は有る訳だから。


シンシアを迎えるにあたり初心者や魔力が少ない人でもそれなりの魔力量を確保できるようにできないものかと考え、「そういや前世に合ったじゃん、アンプってやつが」と幸い覚えていたトランジスタの原理を付与したらこうしてあっさり意図した効果が出た。

いや、予想よりもかなり高い効果が出た。


お陰で今は属性のないただの魔力が魔銀製のタクトを通して駄々洩れの状態となっている。

作業場、屋内のここでまかり間違ってこの魔力に『炎』の属性が紐づいてしまうと大惨事になる可能性大。

なのでシンシアに心配かけない様に慌てず騒がず机の引き出しからオリハルコン製の箱を出し魔力を吸収させる。


姫様の腕時計に魔力を充填させるときに使ったアレだ。


机にしまってそのまま持って行くの忘れていたんだよね。

でも結果オーライ。

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