第131話 顔合わせ

コロッセオまで足の悪いシンシアを歩かせるわけにもいかず、かといって目的地に馬車が置いてあるので取りに行くと二度手間になって面倒くさいなと思っている俺、クルトンです。


結局シンシアはポムに乗ってもらい移動しています。

ソコソコの大きさの狼とはいえ騎乗動物でないからどうかと思ったのだが、荷物を詰め込んだバッグを掛けているのに思いのほかシンシアが軽くて全く問題なかった。


最初は恥ずかしがったが段々慣れてくると「かわいい・・・」とか言って背中側からワシャワシャ撫で繰り回してる。


仲良くなってくれて何より。

狼達も足の悪いシンシアを守るべき対象と認識してくれたらしく、いつになく目が『キリッ』としてSP(Security Police)を気取っている様にも見える。



暫く歩き無事コロッセオに到着・・・したと思ったら俺達を見つけた入口警護の一人が中にダッシュしていった。

伝令しに行ったか、よっぽど心配だったんだな。



中に入ると息を切らしてフォネルさんがダッシュしてきた。

「シンシア君、よく来てくれた!騎士団は君を歓迎する。」


シンシアの手を取り強めに振るフォネルさん。

ポムに跨ったままのシンシアがグワングワン揺れてる。


もうちょっと優しくしてください、びっくりしてますよ。

「すまない、嬉しくてね」


分からんでもありませんが・・・セリシャールさんは?


「デデリ大隊長に絞られて、ほら、あそこで横になってる」

居た、東屋隣の俺の馬車の前に転がってる。

ぼろ雑巾の様だ。



・・・このタイミングでこの状況、シンシアから治癒魔法をかけてもらおうって魂胆か?

考えれば分かる事だけど今のシンシアは才能が有っても治癒魔法は何も知らない(はず)。

治療より看病してもらいたいとかそんな感じか?


「いや、練習に熱が入ってしまって本当にやりすぎたんだよ・・・」

シンシア来るからいいとこ見せたくて、来る前から張り切りすぎたって事か。


取りあえずは無視して話を進めよう。


シンシアの予定としては凡そ1週間、俺が治療を行いますので治療が完了し右足が完治するまで基本騎士団の活動はさせません。

治療完了後のリハビリもありますから実際騎士団での活動開始は1か月後が目途になると考えています。


「うん、仕方ないね。もともと足の治療のためにここまで来たんだから、そちらが最優先だ」

あ、セリシャールさんの目から水が流れてる。


それで日常生活に支障が無い程度まで回復したら治癒魔法師の勉強を始める訳ですが・・・今更ですけど何をするんです?学校でもあるんでしょうか。

もしくは今いる治癒魔法師への弟子入りとか?


「他の治癒魔法師に弟子入りなんてとんでもない!直ぐにヘッドハンティングされてしまう、一番やっちゃいけない事だ!」

お、おう、そうなんですか、そこまでして囲い込みたいのですか?


「当然だね。クルトンは自分の力がどんなものか理解しないまま振るっているみたいだが治癒魔法は来訪者の恩恵と言ってとても稀有な技能なんだよ」

来訪者ですか・・・。


「来訪者の治癒魔法も凄まじいものだったらしいからね、それこそ蘇生魔法まであった様だよ」

本当に蘇生なのかな?

時間逆行か記憶を含めた人体の再構築とかじゃないかな、知らんけど。


「治癒魔法師の才能を持つ人材はいつも争奪戦だから弟子入りなんてスキを見せたらかっ攫われるかもしれない」

なんかシンシアが俯むいている、おそらく期待の大きさに委縮している。少々まずいな。


話を戻しますが、具体的には何をどうすればいいんですか?

「クルトンが治癒魔法を教える」



「クルトンが治癒魔法を教える」


??


「クルトンが治癒魔法を教える」


あ、いや、つまり俺にぶん投げると?

「だって君以上の治癒魔法師を私は見た事ないよ」


本当にそうなんですか?

あと治癒魔法師を名乗った事はありませんよ、俺。


「レイニー伯爵の件が有ったろう?私も内容は聞いているよ。

あの件は騎士団外に情報を漏らさない様お達しが出てるが、一時期あれは蘇生魔法だと噂が立ったんだ。

レイニー伯爵自らが否定した事で一旦有耶無耶になったが、それでもかなり高度な治癒魔法だと、

治癒魔法師の中ではその魔法を検証させてほしいと・・・、インビジブルウルフ卿と面会させてほしいと嘆願書が提出されたくらいだ」


熱心な事だな、公開練習の時顔隠していて良かった。

俺の耳に入ってきてなかっただけで面倒事が増えてたんだな。


今更だが騎士を叙爵して良かったんだろう、『インビジブルウルフ』への後ろ盾と明確な爵位が有ったから『クルトン』へ到達する者が結果居なかった。



ソフィー様の話ではないけれど『自由騎士インビジブルウルフ』として公の活動をした方が『クルトン』の生活が守られるような気がする。



”クイクイ”

ん?


シンシアが俺の袖を引っ張っている。

「私もクルトンさんに教えてほしい」


そうか、そうだな。

・・・単純に治癒魔法師が一人多くいるだけで、今までなら失われてしまっていた命がどれだけ救われる事か。


なら『インビジブルウルフの一番弟子』として治癒魔法師を目指してもらおう。


治癒魔法師になる事である意味シンシアの身の安全も守れるのだから。

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