第134話 新しい朝

今日も今日とて朝から窯に火入れをし、パン焼きのお手伝いをしている俺。クルトンです。


パン屋の朝は早い。

朝食用のパンを買いに来る人、仕事に行く途中に朝食、昼食用のパンを買い求める人等々結構いるからだ。

焼きたてのパン、美味いよね。


「本当、とっても美味しかった」

こんな朝早くではあるがシンシアが起きて一緒に手伝っている。


調理を手伝うことは出来ないので店内の棚まで運ぶのが仕事だ。

そう、無理をさせている訳ではない。話を聞くと朝起きて意識しないままベッドから立ち上がり支度を済ませてダイニングまでやってきてしまったそうだ。


叔父さんなんか「おい!大丈夫なのか!」なんて大声出したもんだからシンシアが”ビクッ”として、それで普通に歩いてきたことに気付いたみたい。


現実を受け止めるまでアワアワしていたシンシアだが、徐々に意識の整理が済んで現状を把握しだすと右膝の塩梅を確認、そして顔を上げ「大丈夫みたい」とにっこり笑う。


それでも叔父さん達はまず座っていろと世話を焼きだすが、店の忙しさに追われてそれが出来なくなってくるとシンシアがゆっくりだがあちこち歩きだした。


そして店の裏口から出たらしく気付くと店先にいてポム達と遊んでいる。

当然立った状態で何なら小走りしてたりなんかも。


心配性な叔父さんは「それなら」と自分の目の届く店内で軽めの仕事をしてもらい様子を見ることにした。


何かの際は俺が何とかするから大丈夫、リハビリ・・・て感じじゃないが様子見だな。






”カランコロン”

俺が扉に付けた鐘が鳴りお客が来たことを知らせる。

「いらっしゃい」


振り向くと奴がいた。


「おはよう、クルトン」

はい、おはようございます、セリシャールさん、ファテレース君。


「今日もパンケーキを所望する、追いスクリーム付きで」

かしこまりました、それと『アイスクリーム』ですね。


ファテレース君は週4日程、午後のおやつの時間にパンケーキ目当てで予約、来店するらしい。

今日は先日と同じ朝一での来店、多分セリシャールさんから唆されたんだろう。



パンケーキも美味しいが今日は新作のクロワッサンが有る。

前世と作り方は同じだが大きさは2倍くらい、熱々焼き立てのこれにアイスクリームを乗せて食べてもらおう。


「ん?パンケーキではないのか、なんだか変わっておるのう」

「・・・甘いバターの香り、美味しそうだ。ファテレース暖かいうちにいただこう」


セリシャールさんが一口頬張ると「ほう!」と声を上げる。

「クルトンさん、これは美味い。バターの濃厚な風味が有りながら軽い口当たり、これを屋敷に卸してもらう事は出来ないか?」


叔父さんを見ると代わりに応えてくれる。

「ここからじゃ屋敷まで運んでいるうちに味が落ちちまう。作り方教えてやるから料理人を寄越しな、そうすりゃ今みたいな焼き立てが食えるだろう」


「兄さま、そうしましょう。今日お父様にお願い致しましょう!」



「そう、クロワッサンはとっても美味しいの」

窯から出てきたばかりのパンをお盆に乗せ、それを棚に並べながらシンシアがそう言う。


「シンシア!足は?もう大丈夫なのかい」

それに気づいたセリシャールさんが椅子から立ち上がりそう言う。


「うん、昨日クルトンさんに治してもらったの」

「本当に、治っている?いや、レイニー殿の件もあるしおかしくはない・・・のか」


もうちょっと安静にした方が良いと思うんだけどね。


「来て良かった、もう心配はいらないようだね」

「うん、大丈夫」


1週間くらいを目途に問題なければ騎士団に改めて伺いますので。

今まで使ってこなかった筋肉への負担もだんだん出てくるだろうし。


日中に調子を見ながら治癒魔法の練習も併せて徐々に進めていこう。



昼過ぎの今、シンシアは叔母さん達と日用雑貨と下着、服なんかを買いに出かけている。

最初歩いて行こうとしていたのだが昨日の今日でさすがにマズイとお爺さん、叔父さん、俺から物言いが入りポム達と一緒にいく事で落ち着いた。

何かあればシンシアを乗せる様にとポムにも言い含めている、目がキリッとしていたからきっと分かっているはずだ。




そして俺はデデリさんに用事がありコロッセオに会いに来ている。


ポポの手入れをしているところすみません、教えて頂きたい事があって。

「騎乗動物の情報か」


ええ、長年スレイプニル含め騎乗動物の捜索していたデデリさんならその『情報』は結構持っているんじゃないかと思いまして。


騎乗動物の捕獲は王都での俺の法人の重要な業務の一つ。

出来高で報酬も頂けるようだし。


当然頂いた情報がきっかけで騎乗動物の捕獲に成功すれば成功報酬を渡すことも考えている。


「・・・報酬は騎乗動物ではダメか?」

うーん、俺の判断では何とも返答しかねます。

何でか関係ない機関のソフィー様が出張ってきてますし。


多分ですけど俺の法人で一度登録?みたいな捕獲実績確認した後に国がすべて買い取るんじゃないですかね。


それで陛下の裁量で各騎士団へ配備するとか?


「そうだな、それが順当か・・・優先して配備してもらえないか今度上申してみるか」


で、騎乗動物ってどんなのがポピュラーなんですかね。


「まずは馬だな。ピンとこないかもしれないが魔素の濃い森や草原に居る野生種は大きくて気性が荒く調教に苦労する代わりにかなり頑強だ。王都のスージミの葦毛の牡馬がそれだがそれはそれは見事だったぞ」

「あれは見事だった」としきりにうんうん頷いている。


「他にスレイプニル、これは言うまでもないな。そしてグリフォン。ここまでの物になるとまず手に入れられない、かなりの幸運でもない限り」そう言いながらポポを撫でる。

「クルトン・インビジブルウルフ卿に感謝を」と俺に頭を下げるデデリさん。

いや、もういいですよぅ、水臭い。


「意外と捕獲数が多いのは草食の地竜(大蜥蜴)だな。寒さにこそ弱いがそれ以外はかなり優秀だ。足は馬より遅いが餌も少なくていいし体高はそこそこ低いから落馬のダメージも少なくて済む、そして何より疲れ知らずだ」

「翼竜は・・・いるにはいるが生活圏が雲の上になるでな、ポポよりずいぶん高いところを飛んでいる。

そもそも人がたどり着けない断崖絶壁に巣が有るらしい。騎乗動物に出来る大きさは十分だが捕獲した情報すらないのも当たり前だろう」

墜落した様な死体は稀に森で発見されるらしい。



夢のままで終わるヤツですね、分かります。

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