第22話 始動

ようやく先が見えてきてホッとしてる俺、クルトンです。


親方の奥さんのご厚意に甘え、「それならば是非とも!」と実家に話をつけて頂くようお願いした。


「それと言っては何だけど・・・私にも、ねぇ」

指輪を無心されました。


第一夫人にお渡ししていた指輪はサンプルですからと回収させてもらい、

「この材料の提供と、工房の使用許可頂ければ」

との条件で2人分快諾した。


親方がアワアワしてたけど、現在俺の持ち金は銀貨で50枚程(日本円で10万円位)

黒字になるまで材料代、設備使用料の担保として指輪を渡すこととした。

収支の軌道に乗ったらレンタルって形で使用料を1年ごとに頂くことで決定。

金額は後程協議、でも技術の安売りはしませんよ。

親方ちょっとホッとしてたけど、

「自慢するのは程々にしとけって釘刺さないとまずいな」っていってました。


先の話聞いてると手首ごと切り落とされて盗まれてもおかしくないですしね。

・・・それちょっとまずいんじゃないですか?親方、そうなったら俺責任取れませんよ!




今日の話はここまでとして下宿先の叔父さん家に戻ります。

状況を報告、皆喜んでくれました。

良い報告ができて良かったです。


親方には鉄の他に残っているニッケルとクロムをサンプルとして渡し準備してもらう様にお願いしてあります。

なんだかんだ準備がある様なので次に工房へ向かうのはその準備ができた後となり、目安6日後あたりに連絡くれる事となりました。




そして次の日、日本でいう日曜日です。

この日ばかりはパン屋さんも休業です。

なのでいつもは15時くらいに閉める店も昨日は夕方18時まで店を開けていました。

買い溜めするお客さんの為に。


家族用のパンを焼いて今日は騎士団の訓練施設、通称コロッセオに向かいます。

たまに訓練を市民に公開、見学してもらっているそうで、そこでコロッセオ(闘技場)と呼ばれるようになったみたい。

ここの騎士団は故郷の村を含む街道の警備を定期的に行っており、休憩で村に寄ることも多かったので顔見知りがそこそこいます。

パン屋の休みの日、1週間に1回訓練施設の部屋、もしくは軒先でも構わないので間借りして騎士団向けに出張按摩サービス業を行おうと思いました。

今日はその為の話し合いです。


この都市に店を構えるパン屋は、希望する店同士が話し合い交代で団員宿舎にパンを卸しています。

そのつながりもあって事前に副隊長さんへ話を通していました。



こうしてコロッセオ入口。

こんにちわ、クルトンです。

副隊長さんいらっしゃいますか?


受付してくれた団員の方が副隊長に伝令に走ります。

暫くして

「おお、クルトン。待ってたこっちこっち」

と手招きするので奥に向かって行きます。



連れてこられたのは修練場だそうです。

なんか一か所に人だかりができてます。

「なんか肉離れ起こしたようでな、診てくれないだろうか」


按摩とは違いますが、いいんですか?

治療行為だとお医者さんからなんか言われません?

資格を持っていない人が医療行為するとか罪になりません?


「大丈夫、大丈夫修練場内は戦場と同じ扱いだから、平時の都市内の規則と戦場の人命どちらを優先するかは明白だろう?」


はい、大人の都合ですね。

分かりました、でもなんか言われたら責任取ってくださいよ。



命にかかわる事ではありませんが肉離れは辛いですよね。

いや、でも戦場なら命にかかわりますか、負傷したところが足なら魔獣相手に逃げ切れませんね。


患者に俺が治癒魔法が使えることを伝え、うつ伏せになってもらい患部の太もも裏側に手を当てます。

当てなければならない訳ではないんですが、こうした方が症状の把握がし易かったので。

でも患者のこの子成人前ですよね?あ、そうですか、詮索はしません。


断裂している筋肉組織を丁寧につなぎ合わせる作業を行います。

適当でも治るんですが雑な治療は雑に治ります。

再発しやすくなるし魔力の消費量も多くなるのでできるだけ丁寧にゆっくり行います。


暫くして治療終了した旨患者に伝えるとお礼を言われました。

完璧にこなしたので痛みどころか疲れも無くなったようです。

そしてまた訓練に戻っていきます。

まだ小さいのにタフだな。



「助かった、恩に着るよ」

いえいえ、でもこんなの日常茶飯事なのでは。


「そうなんだが、あの方は侯爵様の息子でな、贔屓するわけじゃないがケガで休ませるのはもったいなくて、かなり筋が良いからできるだけ修練を積ませたいんだ」


ほう・・・、でも面倒事には巻き込まないでください、絶対ですからね。

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