第279話 保冷蔵リニューアル
打合せは続きます。
侍女さん達から評判の良かったパウンドケーキをカバンから取り出し、二杯目のお茶と一緒にいただいている俺、クルトンです。
はい、ソフィー様にもおすそ分けしてますよ、しかも二切れ。
「相変わらず貴方が作るお菓子は絶品ね、今日のこれは生地に練り込んでいるドライフルーツがアクセントになっていて飽きないわ」
はい、もっと寄越せという事ですね、ええどうぞどうぞ。
「あら、有難う」
それで話の続きなのですけど、協会がどう対処してこようとも先に相談した通り協会と競合する組織を立ち上げようと思うんです。
今の話だと協会から人員を引き抜いても問題なさそうですし。
「引き抜くのは問題ありすぎるんじゃないの?向こうの反発は相当なものになるわよ」
俺の勘ですけど現時点で協会内で冷や飯食ってるような人たちにも優秀な人は多いんじゃないですかね?
人柄を確認したうえでですけど、そんな人たちを中心にスカウトしようかと。
それに向こうさんが反発してくるとしたら人的損失よりもメンツの問題でだと思いますよ。
だからそんなのは放っておきましょう。
本来この件であれば人的損失の方が圧倒的に問題なんですけど・・・ソフィー様の話だとそれに気づいていてもメンツの方を優先しそうですから、せいぜい独り相撲を取っていてもらいましょう。
「そう簡単にいくかしら?って言えないところがなんともねぇ」
簡単じゃないかもしれませんけど、そんな感じで時間稼ぎは出来そうですよ。
メンツを気にして俺とは絶縁状態へ・・・交渉の窓口を向こうから閉じてくれれば更に自由に動けますしね。
「何度も言いますが個人でそんな事ができるのは貴方とデデリくらいですよ。
普通なら協会から睨まれただけで職を失いかねないのですから」
そう!そう言う所ですよ。
対等な競争相手が居ないが為に、治療という手段を持っているが故に人質を取っているかのような振る舞い。
現状仕方ないとはいえ健全な状況ではないですよ。
「そうね・・・そろそろ荒療治が必要なのかもしれませんね。
けれどねクルトン、何も変えられなかった私が言うのも何ですが民へその皺寄せがいってはなりませんよ。
来訪者セリアン様も大義の為であっても民を蔑ろにする事は許しませんでした、ちゃんと筋を通して事を成しなさい」
御意。
この件は直ぐに国王陛下に報告される事だろう。
そして俺へ何も言ってこなければ了承されたと同義だ、とりあえず準備を進めよう。
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それから幾日か・・・。
レイニーさんへの盾の納品も、ニココラさんへの指輪製造機の搬入も終わりパジェの2回目の技能検証も行った。
王家の裏方の人達も音声収集用ゴーレムからもたらされる治癒魔法協会の情報に対し、その量が想像以上に多く解析にてんてこ舞いになっているらしい。
メンテナンスは先の説明の通りこまめに行ってはいるそうだが「ゴーレムの稼働率えげつないんじゃね?追加で作りますか」ってうっかり口を滑らせたもんだから、更に5体と操作機二つの注文を受け広報部へ納品した。
・・・裏方さんって広報部所属なのか?
「いくらクルトンさんでもこれはノーコメントです」
アスキアさんからそう回答される。
まあいい、取りあえずこんなもんだろう。
そして今日は保冷蔵の改修作業に入る。
本作業の為の見積もり提出からの稟議の最終承認、依頼書の発行なんかの書類の処理は思いのほかスムーズに済んでしまった感が有る。
誰か根回ししてくれたのかな。
そして実作業、改修とは言ってはいるが実質新品への入れ替え、ただそれだと色々予算の手続きが煩雑で承認下りるのが時間かかるらしい。
でも修理でもないし「なら改修って事にしちまおう」と親方からの提案で申請がすんなり通った。
こういう所がお役所的だよね。
今は夕方の営業が終わってお客がようやく全員帰った状態。
保冷蔵周辺に材料を次々現場に運び込むのと同時に改修の為に極力在庫を減らした食材を簡易保冷庫に移し替えているところだ。
棚も持ち出して段取りは終了。
こうして業者さんが手際よく仕事に始末をつけるとようやく俺の出番。
諸々の支度、後始末含めて朝食の支度の前までに終わらせる必要が有る為に、作業そのもののタイムリミットは5時間と言ったところか。
ハウジングを展開する為に一般の作業者、食堂関係者はここから一時退出してもらう。
親方は責任者なので残ってもらうが、ハウジングの能力を悪戯に広まる事を警戒しての対応になる。
「・・・俺も出て行った方が良いんじゃないか?秘密を洩らしたら解雇されるとか御免だぞ」
親方が心配しているが「大丈夫ですよ、意図せず広まるのを警戒しているだけですから」と伝え一応納得してもらう。
よし、始めるか。
まずはハウジングを展開、領域内のあらゆるものが俺に紐づけされ・・・何だコレ?
この食堂の地下に何かある。
もっと地下に領域を伸ばして・・・いや、非常に気になるがまずは目の前の仕事を済ませてしまおう、確認はそれからだ。
ハウジング内で俺の設計図通りに木材、石材で保冷蔵の壁、柱含め全体をリフォーム、そして炭化処理した断熱材のコルクを壁、床、屋根の内側へタップリ敷き詰める。
内壁を二重にして内側の壁に保冷用の術式と、起動させる魔力確保の為の魔素から魔力への変換、いつもの付与術式をスペア術式含め彫り込む。
設計図通りに事は進み、動作の確認含め2時間程度で回収は完了した。
やっぱりハウジングすげえ。
その後いったん待機してもらっている作業員の方達に完成を伝え、食材、棚なんかを元通りに運び込んでもらう。
「・・・本当にできてやがる。しかも既に中が冷えてる。こんな短時間で」
作業員の一人がそう呟くが、「考えても分かんねえよ」とか他の人に言われハッとした様に仕事を再開した。
まあ、そう思うよね。
後片付け含め作業開始から4時間ほどで終了した。
終了の証明書に俺がサインして業者の代表者に渡し完了、この仕事はこれで終わりだ。
「有難う、これで一つ心配事が片付いた。請求書は後で持ってきてくれ」
了解です。
明日の午後にでも持ってきます。
そう言うと、俺は次の事に気持ちが引っ張られる様に食堂の中心付近に立つ。
展開したままのハウジングに紐づけされた、ここの地下から齎された情報。結構な深さから更に地下に向かう通路?建造物?だろうか・・・隠し通路かな。
王家が絡む案件かも知れないのでとりあえずはハウジングの範囲内だけマッピングしておこう。
うん、ゲームっぽくてワクワクする。
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