第167話 守秘義務

朝の練習から王城へ帰ってきました。

いつぶりだろうか、本気で体をあれ程動かしたのは。

良い塩梅に体もほぐれスッキリしている俺、クルトンです。



1日早いですが今日はシズネル本部長の所に先日の返事と工房借用の件で相談しに行きます。

シンシアはチェルナー姫様からの御誘いで午前中は貴族社会での礼儀の講習、午後はお茶会のとの事です。


チェルナー姫様とは先日の会食の最中からかなり仲が良くなったように見えます。

平民で10歳の少女でありながら一般的な治癒魔法師の技量と比較しても一人前と言っても良い腕前らしいので軽く見られることは無いと思ってはいましたが中々に強力な人脈を手に入れたみたい。


俺よりよっぽどコミュ力高いな。




なのでチェルナー姫様にシンシアを預け一人で宝飾ギルド本部に、と思ったのだけでど・・・。

「それでインビジブルウルフ殿はどのような宝飾品がお得意で?」


ラドミア姫様が一緒です。

婚約者もおられるとの事ですので他の男と一緒にというのは少々問題有るんじゃないかと伝えたのだけどムーシカに乗りたかっただけの様だった。


今はムーシカにラドミア姫様が跨り、乗るはずだった俺が手綱を引いている。

ラドミア姫様の周りを固める護衛4名と共に。


この護衛なのだけどベルニイスからの自前の護衛でラドミア姫様専属の騎士。

そして全員女性。


一番の年配でこの護衛の長は52歳、ラドミア姫様の乳母だった人だとか。

へー、何気に凄いな、これ以上ない信頼関係なんじゃね。

これ絶対裏切らないでしょう。


そんな事を護衛さん達から聞いていた最中に投げかけられたラドミア姫様からの質問に答えます。

「何とも言えませんが数を熟してきたのは指輪ですね」


「ほう!よろしければ腕前をお見せいただけませんか」

機会が有れば。

って販促用のステンレスの指輪が有るな、確かバックの中に(ゴソゴソ)・・・有った。


「これ見本です、こんな感じですね。」

バッグから出した指輪を渡し材質と付与内容を簡単に説明。

意匠は蔓バラで親方の第二夫人シャーレさんのと同じですが販促様にと少し幅を増して蔓の絡み具合を緻密に表現しています。

重量も増していますがその分重厚な雰囲気が増して、いかにもお高そうな雰囲気が見た目で伝わります。

ステンレスですけど。


「「「「「ほう!!」」」」」

護衛の方々も興味ある様で道中で一度止まりプチ品評会が開催されますが、周りの人に迷惑なのでムーシカの手綱を引き、改めて宝飾ギルド本部まで促します。



宝飾ギルド本部に到着しましたが俺達の打ち合わせに同席は出来ないので、ラドミア姫様達はサリス女史の案内で王都の工房へ見学に出かけました。


「クルトン君、他国とはいえ事前連絡なしで王族を連れてくるのは勘弁してよ。国際問題になったら私でも責任取れないよ」

すみません、今朝突然だったもので先ぶれも出せずに、本当申し訳ない。


「サリス君にもお詫びしておいてね、頼むよ」

はい、心得ておりまする。


「それで今日は先日の返事を聞かせてもらえることで良いのかな?」

ええ、その件ですが返事の前に一つ約束して頂きたい事が有りまして。


「・・・何だろう、後々こちらが不利になる様な事なら約束はできないよ」


これから話す事は元老院の秘密に関わります。

この秘密は元老院からの公式な情報開示が無い限り無期限で守秘義務が科せられます。

なので決して口外しない事を約束頂きたいのです。


まあ、秘密というか元老院副議長の俺の治癒魔法に関する事なんだけど、オープン情報になると面倒事が増えるだけだからコントロールしたいって話だ。




出来ない場合はセロウゼ伯爵からの依頼の件自体を私は聞かなかった事にします。

「・・・良いだろう、来訪者に誓おう」


それでは(パチン)。

右手で指を鳴らします。

制約魔法のキージェスチャーです、これでシズネル本部長に『守秘義務を科す』制約が完了しました。

此方から一方的に制約する事も出来ましたが一応本人の了解も取ったうえでの魔法の行使です。

俺の誠意の表明でもあります。



改めて話を進める。


まずセロウゼ伯爵からの依頼、義手の件は引き受けます。

「そうか有難う!先方も喜ぶよ」


あとご子息の欠損部位の再生を行います。

「ん?どういう事だろう」


そのままの意味です、俺の治癒魔法で欠損部位を再生させます。

「出来るのかい?」


ええ、問題なく。

「・・・」


私のこの能力は王家、騎士団内では公然の秘密の様なものです。

ですので伯爵様であれば調査すれば分かる事なので先に情報を伝えます。

出来る事を伝えずに後から難癖付けられるような事が無いように予防線を張るだけです。


「治癒できるのであれば義手は必要なくなるのでは?そう考えなかったのかい。今の情報を聞くと選択肢は治療一択しかない様に思えるが」


後世の為にも義手は製作します、セロウゼ伯爵からの報酬を利用して。

そして義手を製作した事実をもって当事者の息子さんには『義手をしている』事として生活してもらいます。


「あくまでも欠損部位が再生された事は隠蔽するという事かい」


ええ、先ほどの守秘義務の件と矛盾は無いかと。


「当事者への制約も必要になるね」

そうですね、その辺は先方に上手く説明して頂けませんか?


「承知した、条件は有るがセロウゼ伯爵にとって間違いなく最良の結果になるだろう。先方には私が説明して必ず承諾してもらう」


お願いします。


「ふう・・・しかし君が元老院メンバーとはね。自由騎士の噂は本当だったって事か」

ああ、なんかたまに言われるんですよね自由騎士って。


「陛下の懐刀って事だろう?何かの際は公平な判断を頼むよ、君の言動一つで陛下の心証が大きく左右されるんだから」

そうなんですか?


「少なくとも昔はそうだったらしいよ」

・・・段々自由騎士への権限集中していきませんか?そんなんだと。

ただの・・・って言っては失礼かもしれませんが騎士でしかないのに。


「そう思っているのは君だけだよ。実のところ権限集中に関してはその通りなんだけど同時に厄介な案件が集まってくる事とセットらしいしね」

マジですか!


当初は『騎士相当』って事で落ち着くはずだったのになぁ、どうしてこうなった。

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