第168話 本格的な鍛冶

当初考えていたよりすんなり事が進みホッとしている俺、クルトンです。



続けてもう一つの話を相談します。


宝飾作業の設備を貸して頂ける工房を紹介してもらえませんでしょうか。

「と言う事は何か依頼を受けたのかな。誰からかは聞かないけど・・・それなりの設備が有る工房の方がいいよね?」

ええ、できれば。

義手の試作もそこでしようと考えていますので可能な限り設備が整っていた方が有難いです。


「うん、調整しよう。どの位まで待てるかな」

出来れば5日以内に、何とかなりませんか?


「分かった、大丈夫だと思う」

助かります、よろしくお願いします。


「ところで君は確か今年で19になったんだよね?」

ええ、そうですけど・・・。


「ここ王都の宝飾工房で1件、跡取りが居ない親方から相談受けててね。そこの養子になる気はない?

君の話をしたら大層興味を持ってくれてねぇ、工房継いでくれれば屋号は継がなくても構わないとまで言ってくれてるんだけど・・・」


いや、無理ですね。

大変有難い話ではありますけど、王都どころかコルネンにも自分の工房を持つ気はないですから。

出稼ぎに合わせて作品の製作活動は継続しますけど・・・今となっては自分騎士ですし、そっちの仕事の方が優先されちゃいますから。


「そうだよねぇ、しかも元老院だしねぇ・・・あと半年早ければなあ、もったいないことした。はあ、本当に惜しい事したよ」


申し訳ありませんがその件は縁が無かったという事で。



その後ラドミア姫様が帰ってきたところでお暇した。



「王城へは帰らないのですか?」

ええ、手に入れたい物が有りまして。


宝飾ギルド本部を出てラドミア姫様とその護衛の方々とある所に移動しています。

シズネル本部長からインゴットに精錬済みの金属卸し業者を紹介してもらいました。

紹介状を持ってそこに向かっているところです。


鍛冶工房が集まっている一角、火を使い騒音も結構出るので王都でも住宅地区から離れた比較的外周に近い場所に有るので結構歩きます。


あった、あった、卸売商社、店名は『ダンポリン』

・・・変わった店名だよな、今は金属素材の卸売商社だが何でも鍛冶師のダンと経理を担当したポリンって兄妹が始めた店らしい。

創業400年を超える老舗との事、すげえな。


”カランコロン”

扉に着けてある金属で拵えたベルが優しく俺達の来店を店中に知らせると、奥のカウンターから「いらっしゃい」と年配の女性が出てくる。


早速紹介状を渡し鋼を手に入れたい旨を伝える。

「ああ、有りますよ。倉庫に来てもらえますか、因みにどれくらい必要で?」


20kg位で。

実際はそんな使わないだろうけど念のため。


そのまま倉庫に案内され5kg程度のインゴットを4個をそれぞれ縄で縛る。

代金を支払いムーシカに括り付けると本日の外出の要件はこれで終了。


さあ、王城に帰ろう。



「鋼で拵える宝飾品が有るのですか?」

無いわけではないですけどこれは別の物に使います。


「王城で作業をするので?」

ええ、そうです。


さっきから俺に話しかけるのは護衛で騎士、そしてラドミア姫様の乳母だった方、名前は『バルタン』さん。


宇宙忍者かな?


「・・・何でしょうね、興味が有ります」


「私もです、教えて頂きたいです」

ラドミア姫様がムーシカの上からそう俺に尋ねてくる。


今回の道中でラドミア姫様のお話を乳母だったバルタンさんから色々聞いた。

その話題の中でラドミア姫様が6ヶ月後にご結婚なされるとの話を聞いて、「聞いてしまったからには何かお祝いを渡さないといけないな」と思い至った次第です。

先日の試合では気絶させてしまったし、後でお婿さんからクレーム来ない様にご機嫌をとろうと考えた訳でございます。


「フフッ、そんなに気にしなくても良いのですよ」

ええ、俺の気持ちの問題ですので。


で、剣を打とうと思いましてですね。

お使いになられている片刃の直剣には少々思い入れが有りまして。


「ほう!俄然興味が湧いてきました」

これはバルタンさん。


腕輪の件が最優先だけど気持ちの切り替えというか心の準備というか、先に平常心の基準点を再確認しようと思って、手離れが良い集中できる仕事を一つ熟そうと思って。



王城に戻って来て早速道具を借りて鍛冶に取り掛かる。

王城内には簡易的ではあるが鍛冶場が有る、騎士の武具を修繕する為のものだ。


本来一から製作する為の設備ではないので窯は小さいが俺のスキルと併用すれば全く問題ない。


鋼のインゴット2個、10kg分を金床に置きイメージを固める。

説明するまでもないだろう、作るのは日本刀、その中でも現代刀。

刃渡り70cm位、反りが少なく派手ではないが観賞用としても十分な意匠を凝らしている美しい刀。


当然俺が作るからには実戦での使用に十分に耐えうる事が大前提で、この世界に存在する魔力を利用した付与も施す。


「得意な魔法は何か教えて頂く事は出来ますか?」

さっきから興味津々でこちらを見ているラドミア姫様に尋ねます。


教えられなければそれで構いませんが付与の相性もあるので念の為。


「ええ、構いませんよ。魔法と言いますか私は『持久力』の技能持ちです。

本来絶え間ない連撃で相手に主導権を渡すことなく決着をつけるのが私の戦い方なのですがインビジブルウルフ卿には全く意味を成しませんでしたね」

苦笑しながら教えてくれました。


「他には(パンッ!!)、このように空気を圧縮させることによる音を任意の場所に出せます(笑)」


・・・結構な技能、魔法じゃないですか、シンプルな力は応用が利いて単純に強いんですよ。


「そう言ってもらえるのは嬉しいですね」



ぼんやりだった構想は固まった。

早速製作に取り掛かる、いつもの事だが手は抜かない、これも全力だ。


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