第169話 二つの付与

鍛冶のクラフトスキルを起動させ鋼に魔力をガンガンつぎ込む。

一瞬ではあるが乳白色の光に鋼が包まれ、それに吸い込まれる様に消えていった。


・・・やべえ予感がしている俺、クルトンです。



うん、魔銀でもないのに単独で魔力帯びてるね、この鋼。

ここで心がザワついてはいけない、平常心、平常心・・・。


もう作業に入っているのでラドミア姫様は作業場の隅、邪魔しない様に気を使ってくれてそこそこ離れた位置からじっとこちらを観察しています。


いかん、集中、集中・・・


やっとこインゴットを窯にくべるのと一緒に再度魔力を浸透させる。

頃合いを見て取り出すと槌を振るいどんどん刀の形状へ整えていく。


槌を振るう度に圧縮されるのか不純物が排除されるのかどんどんその体積が小さくなっていく。


これを何度も繰り返すが俺は別に折り返しなどの工程を熟している訳ではない。

心金を拵えた後の本来必要な折り返しの工程の代替作業として炭素量を調整し一時的な流体へと変化させた金属組織を層に整えているだけ。


目的としている刀の完成形に至るまでスキルのアシストが有るが、今のところ失敗や間違いであることを告げてこないのでこのまま進める。


トンカン、トンカン、トンカン


ひとまず姿はそれらしくなった。

これから細かい形成を施して・・・焼き入れまで一気に。

本来『刃』になる所に味噌を塗って冷却時間に差をつける事で波紋が出るらしいです。

他にも土を塗り付けその厚みで焼き入れの程度を調整するらしいのですがスキル頼みな俺は無視します。


”ジュッッッッ”

うん、問題ない、上手くいってる。

焼き鈍しも含め粗熱を落ち着かせた段階で一区切りつける。


今日はここまで、明日研ぎに入ろう。



見学者が3人になった。


昨晩の夕食の時にラドミア姫様が2人の王子に俺が結婚祝いとして剣を打っている事を知らせたらしい。


俺が作業場に入った時には既に3人ともスタンバっていた。

専用の椅子とテーブル、冷たい飲み物も用意して準備万端の様相。


いや、良いんですけど。


今日は研ぎの作業だがその前に全体の歪みを確認、小槌でトントン叩いて調整していく。

これが結構技術が必要なんだよね、センスと言うか。

まあ、俺はスキルにぶん投げてるんですけどね。


・・・こんなもんだな。


人が見ていると言う訳でもないのですが手は抜けません、いかにも難しい仕事してますよムーブを醸し出して研ぎに入ります。


”シュコー、シュウコー、シュコー、シュウコー、シュコー”

一気に作業が地味になりますが仕方ありません。


昼食を挟み荒砥から仕上げ、研磨までひたすら研ぎます。

俺のスキルが有るからこれだけの時間で済むが本来ならもっとかかるんだろうな。


で、夕方には刀身が一振り完成しました。


明日は鍔、柄、鞘の製作を行い明後日は付与を施してその次の日に完成と言ったところか。


しかしクラフトスキルは相変わらずチートだな。



出来た・・・。

ちゃんと俺の銘も入れた自信作。


鍔、柄、鞘はもちろん頭や鎺なんかの細かいところも宝飾スキルで製作。

うん、急ごしらえにはなったけど結構な佇まい。


其々の部位にはちゃんと付与を施し、物理的な切れ味以外にもちゃんとその効果が発揮されるかそれを確認しに行こう。



修練場にやって来ました。

ちゃんと始末書を準備いただきフルプレートメイルを着させた案山子を修練場中程に設置してもらいました。


「試し切りにかかるのであればこちらで案山子を用立てますよ」

ラドミア姫様からはそんなお言葉を頂くが手続きが面倒なのでこのまま進めます。


始末書は事後報告で済みますし。

「まあ、良いんですけど」

脇にいる騎士さんは苦笑いだ。



日本刀は両手で扱う武器だが片手で扱っちゃダメって訳でもない。

二刀流が有る位だし。


それにこれは緩い反りは有るものの片刃の剣として作った物だ、だから何ら問題ない。


製作過程でもともとあった10kg程の鋼は2kg超程度までに鍛造、精錬された。

元々ラドミア姫様が使っている剣より少々重くはなったが付与の効果で帳消しになる・・・と良いなあ。


念のため姫様のスタイルに合わせて片手で剣を握り、俺が製作者として試し切りを行うために皆は剣の間合い以上、十分に距離を取り離れてもらう。


「袈裟斬りから始めて突きまでの5通りの動作を行いますので良く見ていてください」

そう言うと片手で行う変形八双の構えをとり案山子に切りかかる。


袈裟切り

左一文字斬り

逆袈裟斬り

真向斬り

胸突き


”シュッ”とした音が鳴ったと思うと”バリバリッ”と言った音が続いて響き先に発生していた音を上書きしていく。


大きくはあったが本来であれば剣を振るった数だけ鳴った音は一瞬で一つになりその軌跡に紫色の光が走る。

同時に案山子は八つに切り刻まれ、最後の突きで"パンッ"と言う音と共にその内の一つが爆散した。


うん、想定通りですね、俺が振るったってのもあるが。





「説明頂いても宜しいでしょうか?」

いつの間にか俺の後ろにいた特使3名がそう言うとじっと俺を見る。


はい、では順に説明しましょう。

まずこの剣ですが基本動作は斬撃です。


「剣ですから当然でしょう?」

「何を言っている、お前の長剣は『叩き切る』だろう、特性が異なる事は少し考えれば分かる事だろう」

サイレン王子をハーレル王子が窘めます。


その通りです。

突きも凶悪ですがこの剣は点ではなく線で攻撃する斬撃が主な使用方法になります。


「ええ、素晴らしい切れ味でした、鎧が案山子ごとあんなにあっさりと」


扱い方その物のレクチャーはしなくても構わないでしょうから付与の話をします。

付与は二つ。

『圧縮』と『雷撃』です。


『圧縮』は細かい話をすれば『開放』とセットになっていて剣の軌道上の空気を圧縮、目標に到達した時点で開放すると圧縮された気体が任意の場所で破裂します。


「最後の突きの時の様にですか?」

そうです。


もう一つの『雷撃』は文字通り雷魔法の付与です。

使い方は色々ありますが一番分かり易いのが一時的な麻痺ですね。

相手を傷つけずに捕縛したい時などこれを発動して峰打ちするなんて使い方でしょうか。


ラドミア姫様は相手に反撃の機会を与えないまま押し通す戦闘スタイルとの事でしたので。この二つの付与を織り交ぜればそれだけでかなり有利に戦闘をコントロールできると思います。



「そう・・・ですね」

3人とも黙り込んでしまいました。

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