第214話 帰って来たぞ

帰って来たぞ、王都ぅぅ・・・。

到着早々、ちょっと面倒な気もしてきた俺、クルトンです。



商隊の護衛も完遂した。

訳アリだった為に、その特異性から「騎士団が出張らんと不味いだろう」との結論に至ったうえでの護衛だったので金銭の要求はしない、今回の俺の費用は公費で全て賄われる。


テホアとイニマが近づく、それだけで酔う程の魔力が放出されるのだ。

鼻の良い魔獣なんかは確実にそれ目掛けて近寄ってくる。


そんな時、護衛ギルドの人達だけで何とかなるかと言われれば「死人は出るが何とかなる」レベル。


それで騎士団への護衛要請。

そう考えると村での生活で今まで無事だったのが奇跡だな。



正直今回は魔獣の来襲を覚悟したうえでの護衛だった。

それほどまでにあの子らが揃った時の魔素から変換された魔力の放出量は凄まじく、且つその中心にいた二人の魔力への耐性がとんでもない。


あの子らに渡したペンダントも、サンプルとして持ってきた現状最新素材の青銅を使わざる得なかった事から考えて、放出されていた魔力の量と彼らの耐性の高さが理解できる。


絶え間無く周囲の魔素を魔力に変換する為、ペンダントへ刻んだ魔力を魔素へ戻す為の付与術式は動作しっぱなしで、負荷がとんでもなかったが何とかなって良かった。

新素材が無ければ詰んでいただろうな、そこんところはラッキーだった。




双子たちは今日一泊した後に治癒魔法協会に行くそうだ。

正式に今回の協力要請を断るらしい。


これからの同症状の研究の為には治癒魔法協会の研究と協力は不可欠では有るものの、誘い方が姑息で信用できないと。

親御さんたちとしては子供たちの犠牲を軽視している様で看過できないとの事。


まあ、分かる。

仕方ないよね、こればっかりは向こうさんの伝え方、やり方がまずかった。

やろうとしていた事は公共の利益につながる事なんだろうけど、もうちょっと庶民の感覚を汲んで話を進めるべきだったと思う。


対策無しでただ行くだけでは治癒魔法師から親御さんが丸め込まれるといけないので、俺の書状を手渡した。


穏当な言葉で書いてはいるが、内容を要約すると

「雑な仕事でこっちに迷惑かけやがって、これ以上俺(インビジブルウルフ)の手を煩わせるな」

って書いてある。

まあ、頂いた称号『インビジブルウルフ』の使い方としては正しいだろう。

双子にとってのお守りと思ってもらって構わない。


とにかく治癒魔法協会ももっと根回しというか説明責任というか自分達以外の思惑にも十分配慮しないと目的を達成するまでに余計な手間が掛かるって事を認識してほしい。


・・・多分分かっているんだろうな、それでいてこの対応。

メンツが邪魔をしているのかな。

なんたって自分たちは正義を執行しているって設定だからな、面倒くさい。


その為に相手に忖度する必要なんてない、自分たちが忖度される側の立場を取らないと辻褄合わないと勝手に思ってるんだろう。


これは俺の勝手な想像だけど、以前マチアスさんが言っていた事も踏まえて考えるとあながち間違っていない様に思う。



うん、マジで関わりたくない。





「「大変お世話になりました」」

「またねー」

「さようなら・・・・」


そう挨拶して、テホアとイニマの家族が今晩泊まる予定の宿に向かって行く。

宿とは言っても警護の都合で騎士団宿舎に泊まるらしいんだけどね。


さて、俺も修練場に行って挨拶してこよう。

王城への先ぶれもお願いしないといけないし、馬車を停めないといけないし。


「グルゥ!」

ああ、ポムもちゃんとしたクッションで寝たいよな・・・いや、野性どこ行った。



俺が馬車で修練場に到着すると門番の騎士さんが敬礼をしてくる。


どうもどうも、今回もお世話になります。

馬車ごと入りいつも置かせて貰ているところまで馬車を移動させると厩務員が寄って来て手際よく駐車スペースに移動、ムーシカ達の馬具を外していく。


凄いな、俺何にもしてないんだけど、どんどん支度が整う。



「よう、久しぶり。今回も仕事か?」

騎士さんが話しかけてきます。


名前はピッケルさん、騎士団内ではあまり目立たない人だが、平民からの叩き上げでその為か市民からの認知度、人気は結構高い人物。

確か30代前半の年齢だったはずだが既に奥さんが3人いる。


ちくせう、泣いてなんかいない(´;ω;`)ブワッ



剣、又はメイスと盾をメインに扱う騎士が多い中でピッケルさんが愛用するのはハチェット(小型の手斧)の両手2本持ち。


間合いは狭いが短剣より先端に寄っている重心と短いなりの取り回しの良さで、両手から繰り出されるその攻撃を調子に乗せてしまうと受け手の巻き返しが難しくなる厄介な相手。

しかも腰に2本予備を差しているから隙あらば投擲してくる。


え、俺?速攻投げ飛ばしましたけど。



因みに名前の『ピッケル』は主に山岳地域を徒歩で行商していた父親が名付けたそうだ。

相棒のロバと一緒に重い荷物を背負っての行商時に、長めのピッケルを杖代わりに愛用していたそうで、悪路の補助に大そう活躍してくれたことから「頼りになるヤツ」って意味で名付けたらしい。


そういった意味で実はロバの名前も『ピッケル』だったそうな。

親父さんの名づけが雑すぎる。


けど、この話は嬉しそうに何回もしてくれた。

本人はなかなかに良い話と思っているらしい。


落ちのある話だからネタとしては最高なんだろうな。



さて、ピッケルさんへの返事をしないと。

「ええ、納品とその調整ですね」


「その馬車かぁ、いいなあ。姫様の馬車になるのか?」


防犯上の理由でノーコメントです。

「ハハ、そうだよな。しかし2頭立ての大型馬車、そんなので一度はお出迎えしてもらいたいもんだ」


でもピッケルさんはいつも自宅に帰ると3人の奥さんにお出迎えしてもらっているのでしょう?

うらやまけしからん。


「そう僻むなよ。けどよ、正直なんでお前に見合いの話しすら無いんだ?

当人の気持ちは別として仲人になりたがる貴族たちがわんさかいてもおかしくないだろうに、マジで誰か嫌がらせで邪魔してんじゃねえのか?」


そうなんですよ。

ピッケルさんもどっかのなんかの偉い人にでも言っておいてくださいよ。


「無茶言うなよ、平民上がりの騎士に出来るわけねえだろ、あっ!」



そうですよねぇ、俺も平民あがりの騎士ですしねぇ・・・。


泣いてなんかいない(´;ω;`)ブワッ

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