第341話 美しい人外

久々に会う村の人達と一緒に途中だった大蛇の解体を進める。

やっぱり人手が多いと進みが早い、この調子なら夕方には村に到着できそうでホッと胸を撫でおろす俺、クルトンです。



「いやぁ、村にある荷馬車じゃ間に合わないだろうからって背負子も荷車もあるだけ持って来て良かったよ」

俺の五つ上だっけか、村長のお孫さんがそう言って取り分けた肉を背負子に次々縛り付けていく。


この世界では普通なんだけど、おそらく200kg位は有りそうな大蛇の骨付き肉を「よっこいせ」とか掛け声を掛けながらヒョイと背負って立ち上がる村人A(モブ)。


解体も済んで一番価値が高いであろう皮は馬車の屋根に、氷で保存している肝(肝臓、胆のう諸々)と眼球は氷ごとかめに詰めて俺の馬車内に積む。

目玉を取り除いた二つの頭部は氷漬けにして村から引いてきた2台の馬車の上に積む。


そして準備が出来ると皆の足に合わせてゆっくり移動を始めた。

ムーシカ達に馬車の操作は任せて、勿論俺も背負子に肉を積み徒歩で移動する。


この調子なら何とか陽が沈む前には村に着きそうだ。



予定していた時間からは遅れたが、丁度陽が沈んだタイミングで村の入り口に到着した。


其処には父さんとクレスがいて俺を出迎えてくれる。


「よう、おかえり」

「兄さん!お帰り」


ああ、ただいま。

何だかクレスはまた背が伸びた様だね、父さんは変わらず元気そうだ。





「さて、これだけの肉、保管庫に入りきらんがどうする?

前みたいに氷漬けしてシートでも被せておくか」


そうですね、そうするしかないね。

村長さんに話してこよう。


「一応話は通してある」と一言父さんが俺に伝えて広場まで先導してくれる。



父さんとクレスも皆と一緒に村長さん家の前、広場に到着すると先にパメラ嬢とお孫さんからも事情を聴いていたことも有って、そこで待っていた村長さんの指示で作業は淡々と進んでいく。


俺は貸してもらった広場の一角に氷の魔法を行使すると、皆で持ってきた肉をそこに置いてもらい更に氷を被せる。

そこにはちょっとした氷の山が出来上がり。ただ見ているだけならなかなか綺麗なもんだ。


その上に防水シートをかぶせて石でおもりを置き今日はここまで。



テホアとイニマは俺の側にずっとついてきて、氷の魔法を見ては「へぇー」とか言ってるが”クゥ~”とお腹も鳴りだした。

急いで実家に向かい食事を頂こう。


なんだかんだで俺もお腹がすいた。





馬車を家の前まで移動させると車輪の音で気が付いたんだろう、皆が家の外まで出てくる。


「おかえり、クルトン」

「兄さん、おかえりなさい」「早く中に入って、皆で晩御飯にしましょう」


「お疲れ様、思ったより時間が掛かったわね」


ただいま、みんな。

あと、手紙で知らせていたけど俺が今回預かっている子達、テホアとイニマだよ。

「「こんにちは!」」


「あらあら、元気な挨拶。良い子ねぇ」と目を細めて笑う母さん。

イフとエフも早速二人の世話を始める、二人とも子供好きだったし嬉しそうだ。



・・・あとパリメーラ姫様はなんで家にいるんですか?村長宅に部屋を用意するように準備したんじゃないんですか?。



そう、この村の責任者でヒエラルキー最上位は村長です。

だから上級貴族の侯爵家令嬢がこの村に滞在するなら、少なくとも村長の顔を立てる為にそちらの方でもてなすのが礼儀と言うか流儀なんだと思ってましたけど・・・、ってかパメラ嬢自身からそう聞きましたよ、俺。


しかも貴方はこの国の英雄デデリの曾孫で精霊の加護持ちの超重要人物。

村長を蔑ろにしたらマジで我が家の立つ瀬と言うか村の立場が無いんですけど。


「勘違いしないで、村長に気を使ったのよ。

精霊の加護持ちが一般人のすぐそばに居たらどうなるか知っているでしょう?」



ああ、まあ・・・、そうか。言われてみればそうですね。

同じ屋根の下に精霊の加護持ち何かがいたりしたら・・・多分パメラ嬢の覇気に当てられて心が落ち着く事が無いでしょうなぁ。


危機感の欠片も感じる事が出来ない余程の鈍感でもなければ一般人にはキツイか・・・。

でも、何で俺ん家に?


「何よ、私だけ野営でもしろって言うの?」

いや、そうじゃなくて家も一般人で普通の家庭なのですけどね。


「何を白々しい・・・貴方の家族は慣れてるのよ、貴方とずっと一緒に居たから。

それに話には聞いていたけど皆魔力の制御が抜群に上手ね。将来当家の魔法使いに迎えたいくらいだわ」


話しが止まらないパメラ嬢に「ここでは何ですからどうぞ中に」と父さんがリビングに皆を誘導する。


イフとエフもテホア達の手を引き一緒に向かう。

テホア達もニコニコしていて嬉しそうだ。



食卓に皆が付き、食事が始まる。

伯父さん達からお土産にもらったパンを出し、俺が買って来たワインを開けて少し騒がしい食事が続いて行く。


「え!冗談じゃなかったの、本当に侯爵家のお姫様なの!」

おい!イフ、それかなり失礼だぞ。


「しかも精霊の加護持ち・・・道理で(顔が)整いすぎてると思ったわ。まるで理想を詰め込んで拵えた人形みたい」

エフ!本当にお前ら失礼だな!


「クルトン、これは誉め言葉よ。

この様な方が人である事が信じられないのよ、実はお伽話の精霊ですって言われても疑わないわよ?」


母さんの膝の上にはイニマを、イフの膝の上はテホアを座らせ、頭を撫でながらそう俺に言ってくる。


それでも、そんなあからさまに容姿に言及するのは・・・どうよ?


「パメラ姫様綺麗だもんねぇ」

「ねえ、ポムとプルもそう思うよねぇ」

テホアとイニマも話に乗っかって来た。


側に居る二頭の狼達も「「オンッ」」と返事をすると、さっさと目の前の肉に視線を戻し食事を再開する。



「いやぁ、それ程でもないわよ(テレ)」

アンタもまんざらでもないのかい!


「「ハハハハ」」




俺が建てたこの家に、家族以外の笑い声が加わるのは初めてだろうか?

膝の上で寝てしまったテホアとイニマを眺めながら、少し遅い時間まで俺の光魔法でこの空間を照らし続けた。


何だろう、いつもより・・・胸の奥に暖かい物を感じた気がしたんだ。

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